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出来ることなら転生したかった。  作者: ALP
主人公になろう。
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スマホは皆が持っているⅣ

目の前には透明な球体。水饅頭みたいで可愛らしいと思ったのも束の間、その球体は同じく透明な液体を撒き散らす。


「ミネラルウォーターではないよね。って賃貸なんですけど!」


「では、戦ってみて下さい。」


天使がテーブルを端に寄せる。


「えっ!?私!?不思議な力で倒してよ!」


ふふん、と天使が不敵な笑みを浮かべる。


「ああ、そうでした。言い忘れていましたが、そいつはこの部屋を気色悪い液体で二分も掛からずに満杯にしますよ。私にとってはどうでもいいことですが、あなたの大事な部屋が大変なことに。ほら、急いで。」


「早く言ってよ!」


私は椅子から立ち上がり慌てて剣を握る。テニスボールくらいの球だったはずの黒い塊は唯一付いた口から液体を吐き出し続けて、それを纏いながらどんどん大きさを増していく。既にボーリングの球の大きさになっている塊に向かって行き、力一杯に剣を振り下ろした。


「ぐっ!」


しかし、それを捉えることはなかった。斬撃を液体のクッションが包み込み、剣に纏わりついたのだ。そして、元の形へと少しずつ戻っていく。


天使は悠長にお茶を啜っている。


「あなたの見てきた脅威なんて砂の一粒に過ぎません。目の前のそれも含めてです。」


何度斬っても防がれる。何も出来ずに塊が肥大化していく。私の焦りも同じくらいに。部屋の端から端までが液体で埋め尽くされていく。


「助けて!天使様!このままじゃヤバい!」


「考えて見て下さい。人は簡単に死にます。でも、あなたは生きている。人には寿命があります。しかし、あなたは不運にも突然に死を突き付けられました。でも、あなたは生きている。」


「こんな時になぞなぞ!?」


「先程に切望していた説明です。あなたが愚者でなければ、冷静さを取り戻した上でちゃんと考えて下さい。ヒントは出しました。」


水傘は増していき、膝まで浸かるほどに。私はようやく剣を振る行為が無意味だと悟って彼女の言葉の意味を考えることにした。


動くのをやめて深呼吸。心を落ち着かせる。


「そうです。答えが現状を打開します。剣を振るう必要はありません。私はあなたに周りを見渡せと言いました。肉眼だけでは足りません。」


私の死に際に現れた剣。


私は生きたいと願ったはずだ。そして死を乗り越えた。あのときと今の違い。『あなたは生きている』。骸になりかけた私が初めて剣を握った感覚。今、それがあるのか?容易に剣を出して振るう私に。漫然と日々を生きる私に。


「・・・生への執着。それが足りない?」


ぱちぱちと静かな拍手が聞こえる。


「大正解!あなたは生きています!それはその剣で断ち切ったからです!その剣は!あなたの『生きたい』という気持ちに呼応します!」


願う。曖昧。密度が足りない。こんなものじゃない。痛み、呼吸、切望。血の匂い。近づく死の感覚。


水位は肩の高さまで。天使は全身が浸かってしまったが微動だにしない。


「ごぼ。ごぼ。」


いや、よく見るとちょっと苦しそう。私も直ぐにあんな感じになってしまうだろう。早く何とかしないと。打ち勝つイメージを抱いて願う。願う。願う!


「こんな死に方は絶対に!嫌だっ!こんな物語の序盤に出てきそうな粘性の生き物なんかに!私は殺されたりはしないっ!」


私は叫んだ。


瞬く光は煌めきに変わった。


放出された浄化の光。その光は黒よりも黒くて美しい。


剣が纏う膨大なそのオーラが液体を浄化して、まるで今までそれが無かったかのように存在を否定した。


「た、助かった。」


緊張から解放されて私は床に倒れ込んだ。


「お疲れ様。見事です。というわけで、チュートリアルは終わりです。如何でしたか私の水饅頭は。」


人差し指から水を出して笑顔の顔文字を作りながら彼女が言った。


「いや、大変だったよ。ドキドキしたぁ。・・・んん?」


あっ。


理解するまでに数秒掛かった。


「な!?まさか、騙した!?」


「人聞きの悪い。指南です。」


「酷っ!何でこんなことを!そうと知っていればこんなにマジに・・・!」


「マジでやらなければなりません。そうでなければ。」


天使が続ける。


『私があなたを殺さないという保証はありませんよ?』


重々しい天使の言葉に私は身震いした。直ぐに天使はまた笑顔に戻る。


「これでようやく第一歩です。あなたはこれから私と行動を共にすることになりますから強くなって頂かないと困ります。例え、あなたが拒んだとしてもです。それで。」


「そ、それで?」


「先程も言いましたが。先ずは、ここでの名前が欲しいのです。姫。是非、私に付けて下さいな。」


天使がオモチャを見つけた子犬のような目でこちらを見てくる。


「じゃあルシフェ・・・。」


「殺されたいのですか?」


真面目に考えた方が良さそうだ。脳内の私を総動員して考える。そして、とある名前が浮かぶ。


「・・・ツバサは?」


「ツバサ。」


名前を聞いて、彼女は手を顎に当てて考えている。


「ま、まあ?いいんじゃないですか。ツバサ。ツバサですかあ。ふふふ。」


提案は受け入れられた。ツバサは今日一番の笑顔を私に向けた。

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