2、くらいから始めましょうか。Ⅱ
殺しておいて、何事も無かったかのように私は再び歩き始めました。正直のところ、私はスクリプチャーに詳しい訳ではありません。しかし、死体は残らないことと人に見られないように行動すること。それは知っています。そのため不意打ちがほとんどとなります。
だからといって殺めたという事実には変わりません。その最低な行為に私は躊躇いをいつしか持たなくなりました。
何故、私は生きているのでしょう。
「ねえ、決めた?」
完全犯罪を成し遂げた後、またしても耳障りな声が後ろから聞こえてきました。さっきとは別の声ですが、こちらは3日に一度くらいの頻度で聞こえてくるのです。またか。またですか。これは幻聴なのでしょうか。
「何度も断っている筈ですが。」
幻聴でも芸能事務所のスカウトでもありません。私の気がおかしくなければ確かに聞こえます。幻聴でない証明にはなりませんけれど。
しつこく何度も誘われているのは、とある場所に行ってみないかというもの。その場所とは楽園だそうで。何ですか、それ。他には教えてくれません。誰がそんな誘いにのるというのですか。
「損はさせない。楽園だよ。」
「だからその楽園が何なのかを教えて下さい。そうでなければ行きません。」
「好奇心はどっかに置いてきちゃったみたいだね。いいじゃん、どうせ意味のない退屈な日々を送っているのだから。」
「行きません。というか。あなたは一体誰なのですか。」
「こんなの。ファリア。」
後ろを振り向くと、今までは声だけだったのに、黒髪の少女というには幼すぎる幼女というには大人びた女の子がいました。
「ファリアは名前ですか。」
返答はありません。その代わりにスカートの端をぐいぐいと引っ張ってきました。
「や、やめ!何してるんですか!」
「あれ。」
「あなたが食べてたあれ。」
◆◆◆
アイスを夢中で食べています。わざわざコンビニに戻って同じものを買いました。店員さんは同じ人でちょっと恥ずかしかったです。
「美味しい。」
「そりゃ良かったです。」
「お礼に楽園に連れていってあげる。」
「行きません。それで。ファリアでしたっけ。あなたは何者なんですか。」
「ファリア。」
「通じ合えませんね。言葉も心も。」
彼女はどこからか出した手帳を確認していました。赤茶色の皮のカバーには『ファリアの』と大きく書かれていました。どうやらファリアのようです。
「何度誘っても頑なに来ない場合はええと。あ。これを読め・・・?ツバサへ。どうせ病んでるんでしょ?しのごの言わずにこい。だって。」
誰かからのメッセージ。私をツバサと呼ぶ人からのメッセージだった。
「ちょっ!!それは誰からの言葉ですかっ!?・・・って、それが罠だという可能性もありますよね。それだけで、その楽園とやらに行く訳には行きませんが。」
「・・・と言われるだろうからこのページを千切って渡してあげてだって。はい。」
手帳から破かれた一枚の紙を渡されてそれをみました。
内容は私が想定していないほどに具体的で私を驚ろかせました。
どうやらその紙は楽園へのチケットだったようです。何故ならこう書いてあったのです。
『ツバサへ。どうせ病んでるんでしょ?しのごの言わずにこい。→罠だとか嘘だとか言われたらこれを読んで。』
『→また会えるから。あの私に。』
『→ドーナツを食べましょう。楽園で待ってる。』
『→あなたの姉より。』
「・・・雨が降ります。」
「今日は降らないよ?」
「外しましたかね。私の頭上だけでしょうか。私が見ている世界は雨に濡れています。」
「晴れるといいね。」
「・・・そうですねぇ。そのためには。もう遅すぎたかもしれません。こんな嘘つきの人殺しの悪魔には。あなたの発言。一理あります。どうせ意味のない退屈な日々。ここに私は必要ありませんから。」
「綻びは必要だよ?セバイバーも。だから存在する。いらないのは。」
「・・・スクリプチャーだよ。」
ファリアがそう言って、手を翳すと空虚に巨大なゲートが現れました。




