まるで勝利ですね。Ⅳ
「二年前の寒い冬。ある女の子が立っています。」
「産声を上げたとき。それには覚えがありません。人のように覚えていないのではなく、生まれたときの記憶など一つも少女には無かったのです。」
「誰かから生まれたのではありませんでした。」
「成長とは木や人がするもので、その少女には縁がありません。自然発生した少女には過去という過程がありません。」
「最初から少女は少女のままで、そこから何かが失われることもありませんでした。」
「そう、多くが『ありません』なのでした。それも当然、何故ならその少女は・・・私は。」
「綻びなのですから。」
「私はお腹を空かせて自生している何かの実を枝からもぎり食べてみました。初めての食事でした。それは幸いにも食べられる味でした。しかし、感動はありませんでしたし、満たされませんでした。私はそれが生存本能なのかは分かりませんが、これではないと理解しました。ああ、食べなければならないのはオーラだと本能で理解しました。」
「そして、これが私の3度目の食事です。セバイバーとして力を与え、鍛え、オーラを蓄えさせてから一気に抜く。吐き気がするような行為です。卑下しか出来ません。侮蔑の言葉を自分に浴びせることが償いになる筈も無いというのに。」
ツバサの言葉は私に宛てたものではないのだろう。何故なら水の剣が腹部を貫いていて、私は絶命寸前なのだから。
「必要なことなんでしょ。・・・言ってくれればあげたのに。ところでフォアグラの作り方って知ってる?どうやら私はガチョウだったみたいだね。」
辛うじて私の喉は震えて声をツバサに届けることが出来た。
「まだ、生きていたんですか。勘弁して下さい。オーラを強制的に抜かれたセバイバーは即死が殆どだというのに。とっとと死んで下さい。困ります。セバイバーなんて本当はスクリプチャーに殺されるか、綻びに殺されるか。その違いしかありませんから。」
「悪人のふり。お疲れ様、ツバサちゃん。罪悪感なんて抱く必要はないのに。言葉には嘘ばかり。墓参り?行かないでしょ、普通。そっか、私は3人目だったか。ありがとう。食べてくれて。ツバサ。」
私の言葉に諦めて、一度はぁ、と溜息を吐いてからツバサが答えた。
「・・・不思議な人ですね。姫。琥珀と同じ名前を私に付けるなんて。正直、驚きました。」
「本当に最後の言葉はそれでいいの?嫉妬しちゃうよ?私。」
もうダメだ。声が出ない。視界は霞み、目蓋は重くなって、遂には閉じてしまった。もっと話したいことはあったのに。もっと話を聞いてあげればこんなことにはならなかったのに。無理矢理にでも聞き出しておくべきだったんだ。
死はよく表現される。その中に最後の花びらが散るというのがある。
儚さのあるあの描写に私は納得がいかない。
私は叫びたいくらいに暴れたいくらいに辛いこの感情を忘れないで欲しいと狂おしいほどに願った。
「・・・!こ、こちらこそ!ありがとうございました!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!私が綻びじゃなければ!こんなことには!姫ぇぇ!!」
ツバサがなんと言ったのかは分からなかった。
でも伝わってきた。
どうやら今回は私の勝ちのようだ。




