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出来ることなら転生したかった。  作者: ALP
主人公になろう。
11/16

まるで勝利ですね。Ⅲ

「あっ、黒木だぁ。久しぶりぃ。寒い。」


ドアを開けると奇跡がいた。奇跡が起こったのではない。名前が奇跡なのだ。


偶然会ったかのような口振りをしているが、そりゃそうだ。私に決まっている。私の家なのだから。


奇跡がグレーのチェックのロングコートを脱ぎ、白いマフラーを首から解くと雪の欠片が数個落ちてきた。キラキラと玄関の照明で光っている。降り始めたようだ。


「ふふ。久しぶり。」


さっきのツバサの言葉を思い出して私は少しだけ笑った。


「えっ、なんで笑う?」


ハイカットのブーツを脱ぎながら不服そうに奇跡が聞いてくる。うん、脱ぎにくいよね、ハイカット。


「ああ、いや。妹がさっき『いい天気だね』って言ってたけど、雪降ってるじゃんってね。」


「あの顔だけ出してるのが妹さん?」


「うん、ツバサ。」


いきなり出て行かざるを得ない状況になった。頑張れ。


「こ、こんにちわっ!ツバサですっ!お姉ちゃんがお世話になってます!」


いつもより高い声と口調の違和感に笑いが堪えられそうにない。でも、見た目に反しない素晴らしい演技に気付かされたのは、私以外がツバサを見たらこれくらいが年相応なのではないだろうかということ。果たしてツバサはいくつなのだろう。


それにしても、ああ面白い。


「こんにちわー。いい子だね。可愛いし。ん、黒木寒いの?震えてる。」


「だ、大丈夫だから。入って、入って。コートとマフラーはそこに。」


「うん。お邪魔します。」


「飲み物用意するからね。パイナップルジュースか紅茶、どっちがいい?」


そう言ってツバサが冷蔵庫を開ける。絶妙というよりは微妙な二択。あれ、パイナップルジュースは無いぞ?まさか。


「おーありがとう。紅茶で。」


セーフ。


「うん!わかった!」


ツバサに初めてあったとき、何もないコップはパイナップルジュースで満たされた。あれが再現されることは無かった。


けれど、訝しげに奇跡が私を見た。どういうことだ。何も不自然なことはないはずなのに。


「黒木は妹に客人のもてなし方を教えてるのか?こわっ。」


「・・・礼儀作法に厳しい家だからね。」


「この前カップ麺にご飯入れて食ってたのに?」


「あれは美味いからいいでしょ。」


「なんだ突然変異か。」


奇跡はコップにアイスティーを注ぐツバサを見て変に納得した。


「はい!お姉ちゃん!・・・奇跡お姉ちゃんって呼んでもいい?」


この状況を楽しんでいらっしゃる?


「うん。呼んで!呼んで!」


「えへ。奇跡お姉ちゃん!」


・・・。


「ん、どうした黒木。やっぱり寒い?風邪?」


「大丈夫です。大丈夫。」


◆◆◆


奇跡が来る途中で100円均一の店で買ってきた魚釣りのおもちゃにツバサは目を輝かせながら遊んでいた。単純なおもちゃだ。ゼンマイ式の円盤が回転している間に溝に嵌め込まれた魚を釣竿で釣るあのおもちゃ。


「・・・寝ちゃったな。ツバサちゃん。」


これも演技なのか?確かめるために顔を近づけると寝息の音が微かに聞こえる。奇跡が膝の上に乗せていたから温かったのだろう。本当に眠ってしまったようだ。


奇跡に気づかされたことがあった。ツバサは疲れていなかったのか。


ツバサは私に色々と教えてくれた。彼女は私にとって先生でもあり友達でもある。使命があるらしいが、それは言えない。見知らぬ場所でいきなり私と共同生活をするようになった。私は私でそれを当然みたいに受け入れたが、ツバサはこの新しい日常をどのように考えているのだろうか。


「お姉ちゃんの顔じゃん。黒木。」


「そうかな。」


「なんか忙しそうだったから連絡取らなかったけど、妹ちゃんがいるなら良かった。」


「友達少ないからね。私。心配かけちゃった?」


「お互いね。さ、本降りになる前に帰るかなぁ。」


「もう?泊まっていけば?」


「泊まっていくと、電車が止まっちゃう。明日は用事があるもので。生存確認できたし。」


「そっか。気をつけてね。」


「うん。また今度泊まりにくるわ。ツバサちゃんに会いに。」


「私にも会いに来い。」


ツバサが目覚めたのは奇跡が去った一時間後だった。


「奇跡お姉ちゃんは?」


ツバサがキョロキョロと奇跡を探す。いないことを確認して口を開く。


「ああ、帰ったのですね。お別れは済みましたか?」


「え?そりゃ済んだよ。」


「そうですか。」


ツバサは起き上がると私に抱きついてきた。


「どうした?幼児退行?寂しくなっちゃった?」


「ごめんなさい。時間です。」


噴き出す鮮血が一瞬でツバサの全身を染め上げた。斬られた。私という噴水で赤く色付いた彼女が淡々と冷淡に言う。


「私は『綻び』。綻びはオーラを捕食します。オーラが無くては生きていけないのですよ。天使ではありません。」


またか。またなのか。今度こそ死んだ。死んだ。死んだ。確実に絶対に。生命の鎖は断ち切れた。しかし、前ほどの理不尽さを感じない。どうせあの時死んでいたのだから。それでも、ああ。可能ならば。多くは望まないけれど、いや、望んでみたくなった。


出来ることなら転生したかった。

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