まるで勝利ですね。Ⅱ
待っている間、ツバサはそわそわと落ち着かない様子で部屋を掃除しだした。私の部屋なんだけどね。
「もういいんじゃないかな掃除は。床が擦り減っちゃうよ。友達が来るだけだって。」
「ええ。」
聞いてないな。
「ツバサ?」
「ええ。」
顔の前で手を振るとやっと気づいてくれた。友達が遊びに来ると伝えてからのツバサは少しおかしい。
「もしかして。・・・コミュ。」
私はある単語を言い終わる途中で彼女に口を押さえられた。
「ち、違いますよ!人と話すのなんて久しぶりだから!・・・あっ。」
やっちまったみたいな顔をした後、ツバサは目を合わせてくれない。遠くの景色を見ながらフリーズしている。
「・・・最高にいい天気ですね!」
下手すぎる誤魔化しに一瞬の沈黙があった。
「いや、知ってるよ!?普通の人は手から水を出したりしないでしょ!?今さら!?それに自分で言ってたよ!?天使みたいなものだって。」
あと私は人間だ。そう思われていないなら残念だ。しばらくこの天使もどきは無言で考えて、整理がついたのかいつもの顔に戻った。
「ああ!なーんだ!・・・良かった!!」
ツバサの思考回路がどのように導き出したかは知らない。ただ、彼女の時折みせる不自然さ。私が理解できない奥深くまで続く思考の中の回廊の果てにはきっと何かがある。言えないのだろう。彼女の歯痒さが伝わってきたような気がした。
「ツバサ。ちょっとこっちきて。」
「な、なんでしょうか。」
「はい。ばんざいして。」
「はい?ばんざーい。」
ツバサは私の薄紫色のもこもこのパーカーをよく着ている。私が中学生の時に着ていたものだ。当時の私も気に入っていたので部屋着として今も使っている。
「よいしょ。」
私はツバサが着ていたもこもこパーカーを脱がせた。
「きゃっ!え、ええっ?何するんですかっ!?」
「何その新鮮な反応。ええと、あっ。あった。ほら。」
洋服棚からルームウェアのワンピースを取り出すと、私はツバサに渡した。
「これは?」
「もっとちゃんとした部屋着。あげる。そんな毛玉だらけの服を着せてたら、悪いお姉ちゃんになっちゃうでしょ、私。今日は妹でいてもらうんだから。」
「・・・ありがとうございます。」
ツバサは私から部屋着を受け取るとそれを撫でて、そのあと大切そうに抱きしめながら言った。
「・・・嬉しいものですね。姫には貰ってばかりです。そんな貴方に私は。・・ごめんね。」
俯いて表情が見えないけれど、私はツバサがどんな顔をしているのかが分かった。
「お、妹っぽいじゃん。私は大丈夫。あげるのは嫌いじゃないから。着たら、ほら、髪も。」
ツバサを鏡のある化粧台の方に誘導する。化粧台とは言っても小さな机に鏡と少しの化粧品が置いてある簡易的なもの。ツバサを椅子に座らせ、私が軽くブラシを当てて、小箱から髪留めのゴムを取り出して結んで、ポニーのしっぽを作った。
「随分と幼くなりましたね、ツバサちゃん。今度は遊園地に遊びに行こうか。乗りたいものある?」
「何歳の設定ですか。あれっ?なんだかいい匂いがします。」
「ちょっとオイルを髪に塗ったからね。」
「ここで疑問があります。ここまで姫は身なりに気をつけられるのに、姫はなんで大学からすぐに帰ってくるのでしょうね?モテるんじゃないですか?もしそうでなければ何かしらの要因が。」
「おい、やめろ!・・・あっ。」
「どうしました?」
インターホンの音がした。足音で数秒前に気配を感じたのだ。
「ほら。着いたみたい。ちょっと待ってて、毒舌な妹ちゃん。」
「うん。お姉ちゃん。」
ツバサと私。互いを見て互いが笑う。




