無差別に傷つける 前編
※後編は23日金曜日の20時に投稿されます
5月8日の5時20分。4月のあの事件以来,大きな事件はなく,のんびりと過ごしていた。
「遙申~,ちょっといい?」
「ふぁ?」
「遙申って吹奏楽に憧れる?」
「まぁ…聴いていてかっこいいなぁとは思いますね。」
「じゃあ聴きに行かない?」
「え?どこかのコンサートですか?」
「そうじゃなくて,私にだけ聴かせてくれる予定だったんだけど,誰か連れてきてもいいよって
言われたから。」
「そうなんですか。じゃあ聴きに行ってみたいですね…。」
ということで,10時から聴きに行くことに。どうやら奏者は姉さんの友達…?に値する人らしい。
9時。姉さんがどたばたと準備しだしたので,自分もそれに合わせて準備を進めていた。
「あ,私は持って行かなきゃいけないものがあるから準備しているだけだよー。」
「そー。」
「ま,もう出ても良いんだけどね。」
「何分集合なんですか。」
「10時ちょうど~。」
「ふぁ。じゃあ行こうよ。」
9時45分過ぎぐらい。とある公民館に着いた。
「…ほんとに最初は姉さんだけに聴かせるつもりだったんですか?」
「そ。…公民館だから気になるの?その人が地域の中でけっこう親しまれている人だから貸し切りの
許可が下りたとかなんとか。」
「こう言ったらあれですけど,年配者なんですか?」
「いや?同年齢。」
「ふぇー。」
公民館の中に入ると,照明が点いていなかった。
「人います?」
「いるよ。」
まるでいることを示すかのように,奥の方から高音が鳴り響いた。
「姉さんといなかったら怖かったかも。」
「私も。鳴り響くとは思わなかった。」姉さんが苦笑いしていた。
姉さんに導かれ,椅子に座った。
それと同時にどこかで聴いたことあるメロディーが聴こえた。…これは…GU○S!…?
照明が一気に点いた。眩しくて一瞬目を伏せたが,再び視線を元に戻すと,目の前のちょっとした
高台にキーボードを演奏している女性がいた。…姉さんの友達って聞いた時点で予想はしていたけど,
なんか自分がここにいることが気まずくなってきそうだった。
と思ったが,心地の良いメロディーに惹かれうっとり聴き入っていた。また,キーボードだけでなく
トランペット・トロンボーンの金管楽器まで演奏していた。控えめに言って凄い。
15分は経っただろうか音が完全に鳴りやみ,姉さんがぺちぺち手を叩いていた。…それ拍手なの?
そして自分も拍手をした。
「ありがとうございました。」
たった今初めてこの人の声を聞いた。
「やっぱ上手だわー。えっと,うちの弟の遙申だよ。」
「弟の中月遙申です。」
「で,この上手な演奏をしてくれたのは妹尾稟さん。」
「稟です。」
名前で自己紹介する人は何気に初めてかも。
「姉さん,どういった関係なんですか?」小声で聞いた。
「教師。」
「音楽科ですか…?」
「英語。」
「ふぇー。」
「補足説明しておくと,稟さん,全教科できる人なの。」
「控え目に言って凄い。」
「私は英語科できないから,ほんと凄い人だよ。」
「小遙さんだって凄いですよ。鍵盤系の楽器なら同時に2台扱えるんですから…。」
「あれは…昔の話だよ…。」
どっちも音楽の技量があって羨ましい…。
「…あ,遙申さんが置いてけぼりですよ。」
「ごめん。後でぎゅってしてあげるね。」
「ふぁ。…大丈夫です。」
「むーむー,じゃあ八つ当たりで稟さんに。」
「良いですよー。」
何も見ないようにしよう。
その後
「遙申が最近私に甘えないから成長したなぁ。」
「成長が遅すぎた。」
こんな会話を妹尾さんは楽しそうに見ていた。
「遙申って稟さんのことをどう呼ぶ?」
「え?普通に妹尾さん…だと。」
「稟さんは稟さんって呼ばれるのが稟さんらしくて良いんだって。」
「要約すると名前で呼ばれたいと。」
「そういうことです!」
不意に自分が名前で呼ばれている場面を想像してしまった。“中月さん”って呼ばれるも“遙申さん”
の方がなんかいいかも。…今度から姉さんは“小遙さん”呼びかな…。
「ところで遙申さんって警察だと伺ったんですが…。」
「まぁ一応…。」
「この前いきなり右腕を刺されたんですが,強行犯に値しますか?」
「値しますけど…凄い内容ですね…。」
「なら被害届出します。」
翌日。警察署に出勤した。
「おはようございます中月先輩。」
咲魂さんが礼儀正しく挨拶してくれた。
「おはようございます。」
「事件を捜査しろって上から命令が下りてますよ。」
「もしかして,刺された系ですか?」
「そうです。…知っていましたか?」
「いや,昨日被害届を出すって言う人がそんな感じの内容を話していたので。」
「なるほど。ちなみに被害者は右腕を刺されたとかなんとか。」
あ,やっぱり妹尾さんなのかな。
調書を見てみるとやっぱりそうだった。…それと,他にも同じような被害にあったという届けが
出ていたので同一犯かなぁ。
「傷口が縦4cm程度だという情報と,体格の良い男性か女性かが刺したと。それと…,被害者の共通点
として,女性だということですね。」
「被害者の接点はありますか?」
「今のところ見つかっていないです。無差別に襲っているのかと。」
「襲われた時間帯ってばらばらですか?」
「そんなことないですよ。全員17時~18時の間に襲われています。」
その時だった。机上の固定電話が鳴り響いた。
「捜査一課第3係です。」
『出動要請!日栄市の大町通りで傷害事件発生!犯人は現在逃走中で近場の警察官が追跡中で応援を
願うとのこと!』
「出動します。」
その後,詳しい情報が入ってきた。被害者は女性で刃物で腕を刺されたそうで,犯人の特徴は体格が
良いとのこと。要するに例の連続傷害事件の犯人とみて間違いないだろう。
今話登場人物
:中月家
・小遙
・遙申
:艦艇警察署 捜査一課第3係
・青海影木
・咲魂早姫
:艦艇警察署 上層部
・上層部警官
:被害者
・妹尾稟