身近な会社員の犯行…? 後編
4月11日月曜日の13時。容疑者として浮上した3人の被害者との関わりを詳しく調べていると,
咲魂さんが仮眠から戻ってきた。…でも朝と服装が違う気もするけど…。気分転換かな?
「仮眠のつもりが6時間も寝ていました…。」寝起きにしてはやけに凛々しい表情で言った。
「それほど疲労が溜まっていたんですよ。」
「ふふ…。…ところで,何かあったみたいですが。」
咲魂さんに捜査が打ち切りになったことを伝えた。
「…。」
「いきなりなんでほんと不思議でしたよ。」
「…。」咲魂さんは何も言わなかった。
「咲魂さん?」
「…中月先輩はだいたい分かっておられるのでは?この事件の真相,そして打ち切られた理由を。」
付近にいた青海さんと月輪さんが反応する。…でもいいか。この際だから話しておかないと。
「容疑者中の恋人関係にあたる橘楓太さんですが…姫魂電力の社員ですよね?」
青海さんはこれだけで察してしまったようだ。
「そうですね。橘楓太は社員です。」
「…これは自分の考えなのですが,今回の事件の真犯人は橘さんなのではないかと。」
月輪さんは驚いたっぽいが,まだ打ち切りに繋がった意味が分かっていないようだった。
一方咲魂さんは目を閉じた。
「まぁ,そうだとした場合,打ち切りになった理由とは。」
「……姫魂電力が社員の不祥事をもみ消すために裏から手を回したのかと…。」
このとき,自分の中で気にかかっていた2つのことが繋がり,すべて靄が消えた。
まず,咲魂さんが仮眠から戻った時。服装が違って違和感を覚えたのは正解だった。咲魂さんは仮眠を
とっていたわけじゃない。姫魂電力の方へ戻っていたんだ。だから正装となった。
また,寝てはいないわけだから,表情も寝起きとはだいぶ違う。
「…ですが,咲魂さんは止めようとしたのでは?真相にいち早く気付いて,もみ消される可能性がある
から直に父親さんに交渉しに行ったのかと。」
咲魂さんは目を開けた。と同時に笑っていた。
「中月先輩,ほぼ正解です。犯人は橘と見て間違いないです。姫魂電力内で真相を語っていましたよ。
そして違うのは父に交渉したというところです。…以前にもお話しましたが父は警察でしたから,
“ちゃんと善悪は区別しているつもりだ”って言っています。父はもみ消そうとはしていないです。
なんなら,全体的にマイナスでも公にするつもりです。…私はそれの見届け人として行ったのですが,
結局このような形に…。深くお詫び申し上げます。」
「そうだったんですね…。」
「場の流れ的に,打ち切りになってしまいましたが大丈夫ですよ。直にすぐに捜査再開に
なります。」咲魂さんは普段以上に笑顔を絶やさなかった。異様な空気を和らげるためだろう。
それと同時に異様な空気が一気に消え,気付いたら自分は汗がすごかった。…ちょっと怖かった
のは内緒。とそこに…
「ここが3班?」と男性の声が聞こえた。
「…なんでここまで来たんですかね。」咲魂さんが呆れていた。…もしかして?
「失礼しますよ。…早姫,捜査再開って言っとけ。」
「了解です。…ですが父さん,ここまで来なくても…。」
やはりこの人が咲魂さんの父親さん…。
「いやいや,この件だけじゃなくてついでに班員の人に挨拶に来たんだよ。」
「ふぇあ?」…咲魂さん,どこからそんな声出したんですか?
「私が姫魂電力の社長…というのも堅いから一応トップを務めている咲魂早執です。」
受け取った名刺を見てみた。それでサトルと読むのか…。
「艦艇警察署捜査一課3班班長の中月遙申です。」
青海さん,月輪さんも続けて挨拶をした。
「日頃早姫が世話になっているから挨拶に来たんですよ。」
「わざわざご足労いただきありがとうございます。」
「いやいや。…最近歩いていないから体が鈍っていましてね。」
どうやら徒歩でここまで来たようだ。
さっきからずっと咲魂さんがそっぽを向いている。
「とりあえず,うちの社員が殺人という大罪を犯したからさっき拘束してもらいましたよ。」
それから1時間,ずっと早執さん…って言ったらいいのだろうか。話していた。その間,早姫さんはと
言うと,ずっと月輪さんの背中に顔をくっつけていた。恥ずかしかったのだろう。
そして,早執さんが帰ると,早姫さんは緊張の糸が切れたかのように机横のソファーに腰を落とした。
「ふぅ…。私の目の前で私のことを話されるのが嫌です。」
「咲魂さんお疲れ様ー。」月輪さんが咲魂さんの背中をさする。
「にしても,咲魂さんのお父さん,ものすごく親しみやすかったですね。」青海さんが名刺を
見ながらそう言う。
「警察の大先輩でもあるはずなのに,あんなに距離が無いとは…。」
「中月先輩,どういった経緯で真相に気づかれたんですか?」月輪さんが聞いた。
自分は橘さんの職業を見て,そして咲魂さんから感じた2つの違和感を基に気づいたことを話した。
「私の服装で異変を感じとるのは分かりますが,寝起きの表情と私が見せた表情で気付くとは
思っていませんでした。」
「あぁ…,仕事帰りで疲れているのに疲れていないって言うと姉さんが“表情で分かるんだよー。
寝てたって言う時も,寝起きとずっと起きている時との表情は違うから分かるのー。”って…。」
「小遙さん譲りなんですね!」咲魂さんがいきいきしていた。…姉さんの話になるとすぐこうなる。
家に帰宅した。
「おかえりー。」
「姉さんのおかげでいろいろと疑問が解けました~。」
「ふぇ?…まぁなんかわかんないけど役立てたならいいや。」
表情で読み取る姉さん…。そういう方面に特化しているからほんと探偵でもした方がいいのに。
才能の無駄だよ…。
とか思っていたら姉さんの目が細くなった。読まれた?
「遙申疲れてる?」
「え?…あ,確かに疲れているような…。」
「ゆっくり休むんだよー。」
今話登場人物
:中月家
・小遙
・遙申
:艦艇警察署 捜査一課3班
・青海影木
・咲魂早姫
・月輪希々
:姫魂電力
・咲魂早執
・(橘楓太)