白龍凛の話。
「この度は娘の為に多大なご迷惑をお掛け致しまして、誠に申し訳ありませんでした!」
「「「ありがとうございます」」」
私が広間に入るなり、2組の中年夫婦が土下座をしたまま何か言ってます。
誰が誰か顔を見なくとも分かりますけど、一応声は掛けましょう。
「顔をお上げなさい」
「「はい」」
1組の夫婦は顔を上げましたが、もう1組は...まあ良いです。
先ずはこちらの、朱雀家から話をするとしましょう。
「優里さんと話が出来たのですね」
「はい、ようやくあの男と別れてくれました」
「そうですか」
ちゃんと浮気男と縁を切ったのですね、優里さんよくやりました。
「私達夫婦が何を言っても頑なだった娘を...取り返しが着かなくなる前にありがとうございます」
朱雀家の両親が再び頭を下げますが、これくらい親である貴方達がすべき事だろうに。
「その男は何か言っておりましたか?」
「はい、狡猾な奴で、朱雀家に取り入るのが目的だった様です。
ご安心下さい、家だけでなく、白龍家や青龍家に害を成す事は決してありません」
朱雀家当主が淡々と話します。
男が何を企んでいたか知りませんが、今後の危険が無いのなら私が詮索する必要はありませんね。
それより、男の態度に危険を察知したならもっと早々に手を打つべきでしょうに。
『一緒に東京に行ってはダメ』とか頭ごなしに言っただけでは逆に燃え盛るだけです。
まあそのお陰で孫は優里さんと見合いできたのですが。
「どうされました?」
「いえ」
おっといけない、私としたことが、伽羅ちゃ...孫の顔を思い出すと顔が綻んでしまいます。
さて見合いと言えば、
「青龍明日香さん」
頭を下げたままの1組に声を掛けます。
彼女は青龍明日美さんの母、息子の元婚約者です。
「は、はい」
彼女の背中がビクッとしました、気持ちは分かります。
本当なら私がお姑になる筈でしたし。
「お久し振りですね」
「ほ、本来でしたら、ここに来る資格など無い私です....」
「そんな事、今更聞きたくありません」
「すみません!」
震えてますね、私ってそんなに怖いかしら?
「ご当主様...」
彼女の隣に居た男性が顔を上げます。
どうやらこの方が主人の様ですね、初めて見ましたよ。
「か、家内を責めないで頂きたい。
私が、結婚したいばかりに...」
妻を庇ってるつもりでしょうが、何と弱々しい言葉。
「貴方は青龍家の当主でしょう、もっと堂々となさい!」
「は、はい!」
身体を震わせ、視線すら合わそうとしません。
良心の呵責から明日美さんに秘密を話した小心者では仕方ありません。
まったく、秘密なら墓場まで持っていけばいいものを。
聞かされた娘の気持ちすら考えられないとは。
「すみません、主人は養子な物で...」
「関係ありません!!」
何て馬鹿な事を、婿養子なら私の亡き主人もそうでした。
あの人はいつも堂々とし、立派に家長の役目を全うしました。
「...申し訳ありません」
再び頭を下げてしまいました。
いけませんね、この女と息子の婚約を決めた私にも責任はあるのですから。
「過ぎた事です」
「...はい」
『過ぎた事』自分の言葉に納得します。
結果として息子は自分で妻を娶り、あれ程可愛い孫達が産まれた訳ですから、運命に感謝です。
「それで崇幸様を次期当主に...」
「ん?」
何を言うのかと思ったら、当主の話ですか。
「崇幸は白龍家を継ぎません、なにより息子がそれを望んでいないのですから」
「しかしそれでは...」
「心配ですか?」
本心では白龍家の心配より、自分達の家が心配なのでしょう。
優里さんと明日美さんは伽羅との結婚を強く望んでおります。
娘を白龍家に取られると自分達の家が...馬鹿な事を。
「孫は今まで通り、白龍本家と関係ありません」
全く、この期に及んでまだ家の心配ですか?
大切なのは娘の幸せでしょう?
「分かりました...」
「話は以上です」
こんな茶番劇に、これ以上付き合えません。
両家を残し、広間を後に。
後は彼等で話し合えば良いこと。
無駄な時間を使ってしまいました、急いで自室に向かいます。
人を待たせるのは苦手ですから。
「良いですか?」
「「はい!」」
襖の向こうから聞こえる元気な声に、先程までの嫌な気分が和らぎます。
襖を開けると2人の女性が、優里さんと明日美さんです。
「「お婆様!」」
私を見る2人の視線。
見合いから1ヶ月、すっかり仲良くなりました。
「安心なさい」
「...それって」
「貴女達は大切な伽羅ちゃ...孫の見合い相手。
私は認めてますよ、例え貴女達の両親が何を言っても」
「「ありがとうございます!」」
弾ける笑顔、本当に伽羅に惚れているのですね、気持ちはよく分かります。
私も伽羅が可愛くて仕方ありません(もちろん安奈も)。
「但し、どちらを選ぶかは伽羅次第、頑張りなさい」
「負けないわよ明日美」
「もちろんよ優里」
優里さんと明日美さんは強い視線を交わします。
先日の見合い結果は伽羅に伝えてません。
これからの楽しみにしたいから...
「さて」
部屋の書棚から一冊のアルバムを取り出します、これは私の宝物。
「それじゃ一緒に見ましょう」
「「...これは」」
アルバムのタイトルを見た2人の目が輝きます。
[伽羅ちゃんの成長記録]です。
「「可愛い!!」」
「そうでしょう」
当然です、私の宝物ですから。
大きな声で笑ってしまう私でした。
ありがとうございました。