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朱雀優里の話。

「先方がお着きになりました」


「分かりました」


 白龍家の一室。

 襖が開き、使用人から見合い相手の来訪を告げられる。

 重い身体を無理矢理起こして立ち上がる。


「やれやれ」


 小さく呟く。

 何だって私が見合いを?気乗りなんかする訳無い。

 両親に言われて無理矢理なんだよ。

 私はまだ19歳、大学生だし、何より私には彼が居る。

 付き合って2年になる最愛の恋人が...最近素っ気ないけど。


「失礼致します」


 広間の襖を開け、声を掛ける。

 中に入り襖を閉め、中に居る人に向き直る。

 こういうマナーは小さい頃から叩き込まれてるから大丈夫だと思うけど緊張するよ。


 格では朱雀家より今は落ちる白龍家だけど、一応は本家、筋を通さないと不味いからね。

 座布団に膝から座り、頭を上げた。


「ん?」


 視線の先に居たのは2人。

 1人は分かるよ、白龍家のお婆様。

 鋭い眼光で私を見据えているし、でも隣に居るのは....女の子?


「ご挨拶を」


「は、はい朱雀優里と申します」


 いけない、挨拶を忘れるなんて。


「私は失礼します、後は2人でお話なさい」


「は、え?」


 お婆様は呆気に取られる私を他所に部屋を出ていく。

 全く乱れの無い美しい所作に言葉が出ない。


「あの」


 沈黙の後、女の子が声を掛けた。

 幾つ位だろう?

 確か見合い相手の白龍伽羅さんには1つ下の妹が居ると聞いたが、どうみても彼女は小学生にしか見えない...


「どうしました?」


「すみません!」


 慌てて頭を下げる私、人の顔をじっと見つめるなんて無作法をするとは。


「そうじゃなくて」


 その女の子は不思議そうに私を見つめる、綺麗な瞳に吸い込まれてしまいそう。


「あの伽羅さんは?」


 頑張って出した言葉、顔が熱い、自分が保てない。

 早く見合いを終わらせよう、どうせ断るつもりだし。


「...僕ですけど」


「は?」


「だから僕が伽羅です」


「...嘘」


 この娘は何を言ってるの?

 白龍伽羅は18歳の男だって聞いたけど。


「やっぱり見えませんよね」


「...はあ」


 見える訳無いでしょ!

 小さな顔に可愛い瞳、小振りなお鼻、プックリした唇、髪形までショートボブじゃない。


「でも18歳なんですよ」


 そっちかい!

 性別が男って信じられないんだよ!


「ごめんなさい」


 彼女...いや彼は落ち込んでしまった。

 こんな可愛い娘...いや彼を虐めてしまうなんて。


「そうじゃないのよ!頭を上げて」


 項垂れる彼を何とかしなくては、私は慌てて彼の小さな肩に触った。


「優里さん?」


「失礼しました!」


 しまった、初対面の男性に触るなんて、とんでもない事を。

 でも小さな肩は意外と筋肉質だ。

 やっぱり彼は...


「男の子なんですね」


「...はあ」


 しまった!また彼は項垂れて....


「ごめんなさい」


「いいえ」


 数分後、伽羅ちゃんは少し立ち直ってくれた。

 あらゆる言葉を尽くして励ました効果かな?


「今日はありがとうございました」


「え?」


 なんで感謝してるの?


「お見合いです」


「あ、ああ」


 そうだ、今日はお見合いだったわ、完全に忘れてた。


「気兼ね無く断って下さい」


「ふぇ?」


 一体何を彼は?


「だって急にお見合いですよ?

 優里さん好きな人とか居るでしょ?」


「あ、そうですね」


 いけない、完全に伽羅ちゃんのペースに乗せられてたよ。

 そう、私には恋人が居るんだ。

 今日のお見合いが彼に知られたら大変だよ。


「やっぱり好きな人と結ばれたいですよね」


「え?」


「結ばれるって、私はまだ身体を...」


「は?」


 何を言うのって顔だけど、私何か間違った事言った?


「あの結婚って意味なんですけど」


「あぁ!」


 真っ赤な顔で俯く伽羅ちゃんに私はなんて淫らな事を!


「違うんです!彼は(しき)りに迫りますが、それだけはまだ...」


「...うぅ」


「...あ」


 混乱すると、とんでもない事言っちゃうね。

 伽羅ちゃん、益々真っ赤になっちゃったよ...


「...大好きなんですね」


「ええ」


 10分程の沈黙、伽羅ちゃんが再び口を開いた。

 もうどうでも良いわ。


「恋人とよくお会いになるんですか?」


「いいえ」


「どうして、優里さんは寂しく無いの?」


 意外と年相応なんだ、恋バナに興味があるんだね。


「遠距離なんです」


「成る程」


 納得したね、彼は東京の大学生。

 私は地元、着いて行きたかったが両親が許してくれなかった。


「でも連絡は」


「はい、最近はたまにですけど」


「たまに?」


 不思議かな?伽羅ちゃんが私を見つめる。


「でも大丈夫です、彼を信じてますから」


 そうだ、ちゃんと信じなきゃ!


「羨ましい」


 伽羅ちゃんは小さなタメ息、ひょっとして?


「伽羅ちゃん、恋人は?」


「伽羅ちゃん?」


「ごめんなさい」


『ちゃん』付けは不味いのか、伽羅ちゃんは少し悲しそうな表情。


「...居ません」


 そんな悲しそうにしないで!


「でも僕、絶対に恋人を作るんです。

 そして大好きな人と結婚したいんです」


 力強い伽羅ちゃん、意外と男らしいのね...って、どうして私の顔が熱いの?


「あの優里さん?」


「な、何でも無いです、何でも...」


 深呼吸だ、私の方が年上なのに。


「次はいつお会いに?」


「いつでも大丈夫です!」


「は?」


「え?」


 どうしたのだろ?伽羅ちゃんが固まってる。


「あの恋人と会う話しですが....」


「......」


 ダメだ、認めるよ。

 もう私は堕ちた、完全に。


「次に会う時話を着けます」


「そうですか」


 明るい表情の伽羅ちゃん、何か誤解してるけどたぶん違うわね。

 話を着けるのは彼氏との関係だ。

 認めたく無かったけど彼は浮気をしている。

 彼と同じ大学に通う知り合いから報告は沢山聞いてるんだよ。


「今日はありがとうございました」


 1時間後見合いは終了した。

 最後の話はとても楽しくて私は夢見心地だった。


「ご返事は」


「ええ、また連絡します」


 しっかりしますよ、良い返事をね。

 伽羅ちゃんと部屋を出て玄関でしっかり握手。

 なんてしなやかな指、離したくない。


 抱き締めたい衝動を抑えながら白龍家を後にする私だった。


「伽羅ちゃん、絶対に離さないよ...」

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― 新着の感想 ―
[一言] ばあちゃん、絶対全部分かってやってるよね。
[良い点] あーーーーー。 [一言] まあ、恋人居るのに乗り換えだと浮気者ですが、今まで認めたくなかったけど、可愛い彼見て清算決意と。
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