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運命の眼:Destiny of Reincarnation  作者: 妖叙 九十
第一界 災狂の鎧
1/12

第1廻 始まりの輪廻

 地獄の底で僕達は向かい合った。


「──空ァァァ!」

「──ウォォォ!」


 交じり合う拳と拳。

 吹き飛んでいく死体。


 まだ子供の僕たちが、殺し合いをする。


 ここは、そんな世界。


 ………………。

 …………。

 ……。


「ママ?」


 子供も。


「おい、どこだよここ!」


 大人も。


「……え?」


 僕も。みんな突然って感じで、ここに居た。

 周りと見渡すと、僕の学校の全校生徒くらい居た。だから多分、八百人くらい。


 僕は家で宿題をしていたはずなのに、砂漠のような所に居る。テントみたいなのがいっぱいあって、同じ服を着た人達が僕達を囲んでいた。

 運動会とかで校長先生が挨拶するような立ち台もある。


 夢? そう思うが、手に持つシャーペンの感触が夢じゃないと、僕に伝える。


 僕が立ち台を見ていると、丁度そこに人が一人登り立った。

 黒いローブを着た人だ。僕たちを囲んでいる人たちの服装によく似ているけど、ちょっとこっちのほうが豪華だった。


「貴様ら、言葉は分かるな? 貴様たちにはこれより、戦争をしてもらう!」


 戦争。戦争と言うと、あの戦争だろうか。


「おいおい、どこの番組だよ! ここはどこだ!?」


 僕の隣に居た柄の悪いお兄さんが大声を出すと、ちょっと豪華な服を身に付けたリーダーっぽい人が、手を翳した。そして何かを小声で言っている、よく聞き取れないけど、まるで呪文みたいだ。


 そう思っていると、リーダーっぽい人の手が光った。その光が、物凄い勢いで飛んできた。


「──っ!?」


 お兄さんは頭が無くなっていた。

 僕よりもまだ小さい子供が泣き叫んだ。今度は囲んでいる人の手が光って、子供の胸にぽっかり穴が開いていた。

 地獄絵図、というのはこの事を言うのだろう。今まで意味を知らなかったけど、今この瞬間理解できた。

 僕も泣き叫びたかったけど、それをしてしまうと僕も殺されてしまう。そう思った。

 嗅いだ事のない臭いが辺りに漂って、吐き気を催す。


 僕は目じりに涙を溜めて、口を手で防いだ。

 周りの人たちも同様に押し黙っていた。

 こうするしか無かった。


「我々はブラーグ教! 邪神崇拝の王政を掲げ、邪神に魅入られし背教者、シューバル国王を討つ!」


 何を言ってるんだかよくわからなかった。だけど、この人たちは王様と戦おうとしている、それだけはわかる。


「貴様たちはブラーグ様の為に戦い、その魂を捧げるのだ! 異を唱える者は邪神に魅入られし者とみ見なし、即刻処分する!」


 リーダーっぽい人が立ち台から降りていくと、僕たちを囲んでいる人が近づいてきた。

 その内の一人が「付いて来い!」と大声を響き渡らせた。僕たちは歯向かう事も無く、言う通りについていった。五人ずつに分かれて、テントに入っていく。

 僕の順番が来て、僕も入る。

 いつの間にか流れていた汗がひやりとした。テントの中は丸々階段になっていて、地下に続いていた。


 ほの暗い地下を進んでいくと、壁に変な紋様がびっしりと並んでいる。

 何度も曲がって、幾つも扉を見た。一歩進むごとに不安が増す。


 僕たちを先導していた人が、ついに止まった。目の前にあるのは扉。そこを開いて見せると、中はベッドや机がある質素な部屋だった。


「入れ」


 共に歩いていた大人たちが入って、僕もそれに続いて言葉に従おうとすると、止められた。


「貴様はまだだ」


 そう言ってまだ歩かされて、やがて行き止まりに辿り着いた。

 扉が開けられると、狭い部屋に子供たちが何人も居た。僕と同じくらいの年の子や、年下、中学生くらいの人。

 大人は一人も居なかった。


「入れ」


 さっきと同じように言われて入ると、厚い扉を閉められた。


 皆の顔は暗いが、大声を出して泣く子供は一人も居なかった。

 僕もそうだ、本当は泣きたい、でももしそれを聞かれたら、あんな風になるかもしれない。

 そう思っているのだろう。


 そんな中、静かに泣いている子が居た。膝から血を流している女の子。髪の毛の色がおかしい、桃みたいな色をしている。年は僕と同じくらいだろうに、髪の毛を染めているのだろうか。お兄ちゃんは大人にならないとやったら駄目だと言っていたのに。

 僕は特に物を考えず、手に持ったままのシャーペンで服に穴をあけて、ビリビリと破いた。


「巻くね」


 そう伝えてから、女の子の足に服だった布を巻きつける。女の子は驚いた顔で僕を見ているだけだった。もしかしたら逆効果なのだろうか。テレビでこうしてるの、見た事あるんだけどな。

 でも、僕たちを囲んだあの大人たちは怖い。消毒液や絆創膏はくれないかもしれない。


 そんな事を考えていると、急に話しかけれた。


「お前、凄いな」


 一瞬、女の子に話しかけられたかと思ったけど、違った。

 僕の隣に男の子が居るのだ。

 彼も僕と年齢は同じくらいに見える。


「誰も動けなかったのに、お前だけは動いてた」

「たまたまシャーペン持ってただけだよ」

「俺は空、お前は?」


 どうやら男の子は漆真空というらしい。


「僕はおーちゃんだよ」

「は? 何だそれ? あだ名か?」


 刹那。


 ドクン、と。


「あ」

「どうした?」


 お腹を何かが通り抜けた。体内と同じ温度の風が突き抜けていく感覚。

 そして、未来が聞こえた。


『大人たちは全員死ぬ、ここに居る子供も年齢の高い順に死んでいく』


 僕は、未来が聞こえる。誰かの声が教えてくれる。今までも、何度もあった事だ。周囲にはひた隠しにしてきた。僕に語りかけてくるその声を、誰にも言わなかった。

 お母さんにも、お父さんにも、兄にも。

 そしてこれが聞こえたからと言って、何か行動する事も無かった。


 なぜなら今まで、死を伝えられた事が無かったから。

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