遭難はすでに…監禁に変わっているんだぜ
ある絶海の無人島。
その砂浜で、膝を抱えて佇む二人の女子。
正確には、一体と一人。
片や立派な魔族。黒い髪に黒い瞳、立派な角と尻尾。青い肌が実にわかりやすい。
淫魔系の方かな? と言う印象を受ける露出度の高さも実にそれっぽい。
片やどこにでもいそうな人間の町娘……なのだが、妙にゴツい剣を背負っている。
何か薄らと七色に光っているし、勇者とかが元気よく振り回している系の剣っぽい。
水平線に沈む夕日を眺める一体と一人の目は、揃って光が無い。
「……あの、魔王軍の幹部さん」
「四天王ヴィアンよ。……なに? 勇者の相棒」
「あ、私は勇者様一行の荷物持ちアルバイトをしているレイーズです」
「ああ、道理で勇者の聖剣をアンタが背負って……いや納得できるかーい……」
魔族の方による力無いふにゃっとしたノリつっこみ。
対して、町娘の方は「ははは……」と渇いた笑いを返す。
釣られるように、ヴィアンからも渇いた笑いが零れた。
トワイライトな波打ち際に、哀愁ただよう女子たちの笑い声が虚しく響く。
――小一時間前。
とある大陸にて、勇者一党と魔王軍四天王の衝突があった。
四天王は「正々堂々とか知るかァァァ!!」と不意打ちに近い速攻を展開。
四天王側の知能指数低い枠の食欲魔族が初手から「空間ごと食べます」系の奥義を発動。
対して勇者一党の魔法使いは咄嗟に「空間ごと死なします」系の魔法を展開した。
結果として空間がすごく歪んだ。
そうして四天王の紅一点・ヴィアンと勇者一党の臨時アルバイト・レイーズはこうして無人島の砂浜に転送されてしまったのだ。
要するに、空間事故による遭難である。
(黄昏ていても仕方が無いわ……)
魔王軍で四天王まで登り詰めた要領は伊達ではない。
ひとしきりの現実逃避の後、ヴィアンは現状打破に向けて思考を傾けた。
まずは現状の整理から。
ヴィアンに空間をどうこうする能力は無い。
レイーズも、勇者一党とは言え荷物持ち……見た目もいたって普通の小娘。荷物を運ぶ以外に何ができるとも思えない。
一足飛びに事態を好転させる術は無さ気。
であれば、地道な解決を目指す。
ひとまずは、
「勇者の荷物持ち……レイーズ、と言ったわね。ここは一時、手を組みましょう」
「え……?」
「魔族と手を組むなんて抵抗があるでしょうけれど、命には代えられないはずよ」
ヴィアンはスススッとレイーズに接近。
ヴィアンは完全な戦闘タイプの魔族だ。
無人島であれこれ都合良くサバイバルできるような能力は持っていない。
しかし、空間移動はできない上にここが一体どこのどの島かもわからない現状、長期間のサバイバルは不可避。
欲しい、労働力。この際、歴史的に魔族と敵対している人間でも構わない。
とくれば、やる事はひとつ。
篭絡する……この荷物持ちを!
精神面を何かこう上手い具合にからめとって、体のいい奴隷にするのだ!
「アタシだって、人間と手を組むのは抵抗があるわ。でもまぁ、構わない。よく見ると、アンタ可愛いし」
「ふぇッ……!? か、かわ……?」
――ちょろいわね!
赤面して照れるレイーズを見て、ヴィアンは内心ほくそ笑んだ。
以前、魔王軍の総司令が「敵を知ってこそ必勝」と人間の書物を読む事を推奨していた際、ヴィアンは人心掌握に関する本を読んだ。
そこにはハッキリとこう書かれていた……「人間は優しくしてあげたり、褒めてあげると簡単に好感度を上げられる! スキンシップも交えるとGOOD!!」と。
なのでヴィアン、「うんうんカワイーカワイー」と雑に褒めながら、レイーズに肩をすり寄せる!
レイーズの好感度をあげ、懐かせる事で、ナチュラルな奴隷として仕上げるために!
「そ、そんな……からかわないでくださいよう……」
「からかってなんていないわ。本当よ、本当。ほーらよしよしよし、よぉーしよしよし」
対人間のスキンシップなど存じ上げないので、ヴィアンはとりあえず魔獣と接するようにレイーズの頭をわしわしと撫で回す。
レイーズは「はわわ……はへ、ほあああ……」と口角をへにょへにょさせながら狼狽えているが、不快そうではない。
「こ、こんな風に優しくされたのは……は、初めてです……」
「そう。それは(都合が)良かったわ」
例の本にも書いてあった。人間は妙に初体験を尊ぶと。
気が付けば、レイーズの方から体を押し付けて擦り寄ってきている。
ヴィアンとしては人間に擦り寄られるなんて割と不愉快なのだが……今それを表に出しては水の泡。
「こんな状況だもの、アンタみたいな可愛くて弱そうな人間を放っておくってのもアレだし。ね? ここは手を組むって言うのが最善だと思うのよ、アタシ」
「……魔族は恐い方ばかりだと思っていましたが……勇者一党の方々なんかよりずっと優しいです……」
(人間を引き合いに出されても腹立たしいだけなのだけれど……我慢我慢)
ヴィアンは笑顔を取り繕い「でしょ? だから手を組みましょう」と返す。
レイーズは何やらうっとりした表情でヴィアンの笑顔を見つめながら、こくりと頷いた。
「よし、決まりね。それじゃあ早速、森に入ってみましょう」
「森に……ですか?」
「ええ。魔族と言えど、水と食べ物が無ければ死ぬわ。人間もそうでしょう? まずはそれらの確保よ」
「私は……このまま並んで沈みゆく夕日を見送ったあと揃って綺麗な星空を見上げて私が『星が綺麗ですね』って言ったらヴィアンさんが優しく私の髪を撫で上げながら『アンタの方がそそるわよ』って言ってくれる感じの展開を所望します」
「…………?」
魔族は言語をニュアンスで理解し、理解させる便利体質を持っている。
なので、人間の言葉は理解できるはずなのだが……レイーズがやたら早口だったせいか何を言っているのか理解できなかった。
「よくわからないのだけど……一緒に星を眺めていたいって事? 人間はアンポンタn……げふんげふん、悠長なものね? 端的に言って却下よ。星の美しさを愛でる感性は共感するけれど、この状況で星を眺めていても仲良く餓死するだけだもの」
「私はそれでも一向に構いません! ヴィアンさんとなら死ねます! あなたと一緒なら地獄に落ちたって笑顔でいられる気がするんです!」
「そう。想像以上に懐いてくれたみたいで嬉しいわ。でも却下よ」
篭絡作戦はこの短時間で予想以上の成果をあげていた。
それは喜ばしい事だが……その好意は「一緒に生き残るため」方面に活用してもらわなければ困る。
「良い? 死ぬ事を前提に動くだなんて馬鹿げた事。一緒に死んだって、死後の世界でも一緒にいられるとは限らないわ。大体、死後の世界なんてものが本当にあるのかも怪しい(あと、あったとしてもアタシは地獄には落ちたくない)。都合が良いだけの不確定な信仰に頼るのはやめなさい。アタシと一緒にいたいのなら、今この世で生き延びる事が堅実よ」
「……! まったく以てその通りです! さすがヴィアンさん! 大好き!」
(さぶいぼ)
レイーズに抱き着かれ、何やら首元の匂いをハスハス嗅がれる感触にヴィアンは不快感から身震いしかけたが、我慢。
「納得したのなら、さぁ、行くわよ」
「はい!」
と言う訳で、ヴィアンとレイーズは探索のため森へと入った。
「夕暮れの森って、その……ちょっと不気味ですね……あの、ヴィアンさん。不安なのでその、御尻尾を掴んでいても良いですか? ヴィアンさんに触っていれば他の何も気にならなくなると思うので……」
(はぁ? ったく、人間ってのは繊細ね……)
ここで面倒くさがって適当にあしらえば、せっかく稼いだ好感度を下げてしまうかも知れない。
ヴィアンはやれやれと溜息を吐きつつ、手を差し出した。
「へ……?」
「魔族の尻尾は感覚器官なの。鋭敏だから触られるのはあまり好ましくないわ。どうしてもと言うのなら、手を繋いであげる」
「い、良いんですか……!?」
「良いも何も、アンタが言い出したんでしょう?」
途端、レイーズは肉に食らいつく犬のようにヴィアンの手をがしっと掴み、何やら執拗に指を絡めてきた。
「ちょっと、そんなにがっしり繋ぐ必要があるの?」
「あります」
力強い断言。
いざと言う時にすぐ両手をあけられないと困るのだが……まぁ、良いだろう。その時はレイーズもろとも腕を振り回して鈍器として扱えば良い。
「ハァ……ハァ……ヴィアンさんの掌……皮が厚くて力強い……ハァハァ……」
(……何か、手を繋いでからの方が挙動不審になっている気がするのだけど……?)
人間ってほんとよくわかんないわ……と理解する努力すら放り捨てて、ヴィアンは森の探索に意識を割く。
「……ん?」
ふと、ヴィアンはあるものを発見した。
森の中、ほんの少し開けた場所に何やら淡く光る円形の石板が敷かれていたのだ。
「あれってもしかして……ちょっとアンタ、こっち来なさい!」
「へ、あ、はい!」
レイーズを引っ張り、ヴィアンは石板へと駆け寄り、じっくりと検分。
そして――
「やっぱり……帰還の石板! どっかの冒険者が設置したのね!」
それは、旅にあると便利なアイテムの代名詞。
あらかじめ設定しておいた場所へ、一方通行でワープできる優れもの。
要するに、修学旅行先や迷宮などでホームシックになった際、これを使って一瞬で自宅に帰る事ができる。
「光が消えかけだけれど、まだギリギリ消費期限が残っているっぽいわ! 帰還設定場所は……しめた! がっつり魔王軍領地内! これを使えば帰れるわよ! 喜びなさいアンタも……って、どうしたの?」
レイーズは何やら、背に負っていた勇者の聖剣の柄に指をかけ、するすると引き抜くと……、
「まだ早い!!」
「何が!? って、あぁーッ!?」
レイーズは意味不明な叫びと共に、帰還の石板を聖剣で叩き割った!!
「な、ななななななななな……何してんのよアンタァァァ!?」
さすがは聖剣。物理攻撃力も圧倒的。帰還の石板はすっかりサラッサラの砂状に粉砕されてしまった。
「だって……だって……帰ったら……立場上……ヴィアンさんは私とは一緒にいられないじゃあないですか……!」
「そりゃあそうだけど! どんだけ懐いてくれてんのォォォ!?」
「同じ御墓で眠りたい……」
「結婚レベル!?」
想像以上とか言う次元じゃあない懐かれ方だ。
これはヤバい、この人間はもしかしたら何かヤバいアレだ、と今さら気付いたヴィアンはレイーズと繋いだ手を振りほどこうとするが……すごいちからだ! 振りほどけない!
「んぎ……!? な、何で……!? アタシはパワー系魔族だのに……!?」
「魔法使いさんの荷物に身体能力を爆上げする護符があるので、起動しました。離れたくない」
「ッ! しまった……勇者一党の荷物持ち!」
そう、勇者一党の荷物持ち……つまり、勇者一党の武器や防具は非戦闘時、レイーズが持ち歩いている。
そしてここに飛ばされる直前の戦闘、魔王軍四天王は勇者一党に不意打ちに近い速攻をしかけ、連中がレイーズから武器防具を受け取る前に事故って現在に至る。
即ち……レイーズは勇者一党の装備品をほぼ丸ごと所持したフルアーマー荷物持ち!!
「ヴィアンさんとお別れだなんて絶対に嫌です!! 魔王軍四天王の立場とかどうでもよくなるくらい愛を深めてから帰りましょう!! そして私たちは魔王も勇者も関係無い土地で幸せに暮らすんです!!」
「ふ、ふざけるんじゃあないわよ!!」
気色悪い! と言う叫びを乗せて、ヴィアンは大きく口を裂き広げた。
ヴィアンはドラゴン系の血を引いている魔族だ。
最大の武器は、体内にあるドラゴン器官で精製される強烈なブレス系攻撃。
その最大奥義――超強烈な闇の波動をぶちまけ、敵を消滅させる一撃【ダムド・ストレイム】!!
これを防げるのは、ヴィアンと同格以上の光属性を帯びた魔法かアイテムのみ!!
荷物持ち程度に防げるはずが――
「ヴィアンさん、照れ隠しが激し過ぎますよ!」
あははは、もー、ヴィアンさんったらおちゃめェェェ!!
くらいのテンションで、レイーズはダムド・ストレイムを斬り払った。
聖剣――魔王すらも祓い得るとされる、光属性の最強剣。
「んなッ……何でアンタが聖剣の力を引き出せてんのォォォ!?」
「聖剣は心の力に反応するんですよ。私の愛は、勇者さまが『世界を救いたい』と願う気持ちに匹敵していると証明されただけです」
「反応する相手は選びなさいよ聖剣!!」
誰にでも
光り輝く
ビッチ剣
「さぁ、ヴィアンさん。探索の続きをしましょう。帰還アイテム系以外のものを探しましょう。さとうきびとか見つけたら両端から一緒に食べ始めて最後は最高のゴールでフィニッシュです」
「ひッ、この……放せ! 放して! 離れて! 何か恐いわ! アンタからは関わっちゃあいけない気配を感じるわ!!」
「あら、もしかして今さら恋人つなぎが恥ずかしくなったんですか?」
仕方無いですね、とレイーズは少し手を緩めた。
その隙に、ヴィアンは手を振り払って全力で後退。
「あ、何でそんなに離れちゃうんですかぁ? 恋人つなぎはダメでもどこかしら触らせてくださいよう。寂しいです。落ち着かない、落ち着かないんですよう。ほら、お願いしますからぁ」
「お断りよ……!」
ヴィアンは両手に闇の波動で作った手甲を纏い、臨戦態勢!
「……? 何でそんな敵意を剥き出しに……? あ、成程……そう言う事ですか」
レイーズは何かに納得したように頷くと、恋人つなぎ解除により空いた手で腰の収納袋から棒を取り出した。
その棒を軽く振ると、シャコン! シャコン! と言う音が連続し、棒が延長。勇者一党の斥候が使う光の三段ロッドだ。
聖剣の刃と三段ロッドを交差させ、レイーズは紅潮の笑顔を浮かべる。
「さっきの会話で結婚を意識してしまったんですね? まぁ当然のゴールですから。でもやっぱり、ヴィアンさん的にはまだ、私との絆より魔王軍四天王と言う立場の方が重い。だから人間との結婚、となると二の足を踏んでしまう。ええ、大丈夫です。怒りません。理解します。仕事と私どっちが~なんて言って相手を困らせるだなんて、そんな無粋な真似はしません。ヴィアンさんも葛藤がありますよね。ええ、わかります。悩み悩んだ末、私よりも魔王軍四天王である事を選ぶ。はい、充分に理解できます。だから私は落ち着いています。冷静さを欠こうとはしていません。少しショックですが、仕方がありません。だって私たち、まだ出会って数時間。そのたった数時間でどんな海溝よりも深い愛を結んだとは言え、やはり何年何十年何百年と仕えてきた魔王軍への忠義の方が重いのは当然なんです、すごくショックですけど。でもそれでも私を切り捨てる事もできない優しい優しい素敵なヴィアンさんは、こう考えたんですよね? 『ここで戦い、負け、捕虜にされた末に強制的に結婚させられたと言う事にしてしまえば、魔王軍への忠を破る事なくレイーズと添い遂げられる』と。だから、私たちはここで一度、戦う。理解できました。とても。ええ、すっごく、すごく良いと思います。さすがはヴィアンさん。私としても、あなたが故郷の同胞たちと仲違いをしてしまうのは心苦しい。これが最善なんですね。文句なしのハッピーエンド直行ルートなんですね!!」
「……意味がわからないわ……!」
何をブツブツとつぶやいているのかさっぱりだか、ひたすらきもい。
ヴィアンは全力でこの場から離脱したい気持ちに駆られる。
しかし……逃げ場は無い。
ここは一体どこかもわからない無人島。
一時的に距離は取れても、この島を出ない限りはいずれ見つかる!!
この海に囲まれた島と言う立地が、天然の檻と化しているのだ……!
(倒すしか、無い……!)
ヴィアンが尻尾を垂直に立てて腰を落とした、その時、
「ッ、が……!?」
何かが、背後からヴィアンの首に巻き付いた!!
「何これ……首輪……!?」
「はい。勇者一党の魔獣使いさんが使う、自動追尾式の光の首輪です。三段ロッドを取り出す時に、こっそりと放っておきました」
「おのれ……って、手甲が……!?」
闇の波動で編んだ手甲が、霧散してしまった!
新たに作ろうとしても、ダメだ。魔力が上手く扱えない。
「初期調教用の、魔力を封じる事に特化した首輪らしいです。魔力以外は抵抗の余地を残し、それを組み敷く事で『ああ、自分は魔力を封じられただけでこんなクソ虫になってしまうんだ』と言う圧倒的な屈服感と無力感を植え付けるためのものだとか」
「人間の発想……!」
そういうところよね……! とヴィアンは舌打ち。
首輪を外そうと試みるが……ダメだ。神経系にも干渉されているらしい。首輪に触れようとすると、指が動かなくなる。
本来、この手のアイテムは低級の魔獣にしか効かないはずなのだが……。
忌まわしきは勇者の聖剣。あれは、使用者の能力、装備品、行動、すべてにポジティブな加護を付与するインチキアイテムだ。そのせいで、この趣味悪の首輪はヴィアンに対してもきっちり効果を発揮している!
「やっぱり、形骸的な戦闘とは言え、ある程度はきっちりやらなきゃですよね。と言う訳で、手足の甲を砕きましょう。両手足の甲が砕けたとなれば戦闘不能と判断するには充分なダメージですし、後で骨折の痛みにどうしても耐えられなくなったら手首足首から先を斬り落とせば解決です。私は気遣いのできる荷物持ちですので。アフターケアも視野に入れて行動をしますよ」
「このイカれ人間!」
付き合っていられるか! とヴィアンは身を翻して逃走開始!
先にも考えた事だが、この島を脱出する算段が無いので逃げ切る事は難しい。
それは重々承知、一旦は離れて首輪をどうにかしなければ!!
しかし
「んみゃああ!?」
突然、足元の草葉が絡まりあって輪っかとなり、ヴィアンの足を引っかけた!
思わず、ヴィアンは転倒してマヌケな悲鳴をあげてしまう!
「んぎゅぅ……な、何が……」
「ヴィアンさんの悲鳴が可愛すぎる件。鼓膜が孕む」
「だまれ!! どうせアンタが何かしたんでしょ!?」
「はい! 私の事は何でもお見通しなんですね!!」
嬉しそうにはしゃぎながら、レイーズはいつの間にか取り出していた指輪をヴィアンに見せつける。
翡翠に透き通った宝石で装飾された指輪だ。
「叡智の指輪(緑)。賢者さんの荷物で、植物を操る事ができるアイテムです」
「ッ!」
言っている側から、草葉や木の根が触手のように這い出し、ヴィアンの肢体に絡みついて来た。
「厄介な!!」
ヴィアンはそれを筋力任せに引き千切り、振り払う!!
「まぁ、この程度では抑えられませんか。ちなみに、植物から情報提供を受ける事もできるので……どこに逃げても無駄ですよ? 森のすべてが私の目と耳と鼻です。今もあなたの全身を感じています。芳しい」
「くッ……!」
さながら、勇者一党を丸ごと、単独で相手取っているようなものだ。
ろくに身を隠す事さえもできない!
「……上等!」
ヴィアンは拳を構える。
魔力を封じられようと、身に付けた筋肉は裏切らない。
そして、例え装備が充実していても、相手は素人の町娘!
「アタシは魔王軍四天王のヴィアンよ! 人間の荷物持ちなんかに、絶対に負けたりしないんだから!!」
魔王軍四天王ヴィアン VS 勇者一党荷物持ちレイーズ。
さながら監獄と化した絶海の孤島にて、戦いの火蓋が切られた!!
果たして、圧倒的不利な状態にある上に「魔族は尻尾が敏感」だと知られてしまっているヴィアンに勝機はあるのか!?
響け、気高き魔族の咆哮!
逆境など吹き飛ばせ!!
次回「咆哮はすでに…喘ぎ声に変わっているんだぜ」。
頑張れヴィアン!
例えどうなっても生かされている内は負けじゃあないぞ!!