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第8話 一段落


 俺はベッドで横になり、リンゴを食べながら昨日の事を思い返していた。


 シャマカとかいう敵の親玉が死んだら、山ほどいたガイコツ共はサラサラと砂みたいに消えていった。


 うつぶせのままそれを眺めていた俺をマルク将軍が引き起こしてくれた。

 将軍の視線の先を見ると、騎士たちに地球人のお嬢ちゃんが抱えあげられて歓声を浴びていた。


 俺のマスクに付いてるアスガイアー・センサーは半径500メートルの状況を感知できる。

 あの時あのお嬢ちゃんが近づいて来て、その手に敵の親玉を倒しきれるエネルギーがあるのが分かった。


 あのタンカを切って、敵を吹っ飛ばしてたお嬢ちゃんなら任せられる。

 そう思ったから、最後の一発をデカブツガイコツに食らわせられた。

 案の定、お嬢ちゃんはバシッと決めてくれた。

 シャマカの意識がそっちにいかないよう、少々の挑発はしたけどね。


 普通は死霊術士ネクロマンサーがいなくなっても、使役されているアンデッド系の魔物が消滅する事はないらしい。

 弱体化はするが、統率を失うだけで生者を襲ってくる性質は変わらないそうだ。


 じゃあなんで今回は消滅したのかって言うと、あのシャマカが一体一体丁寧に自分の魔力を注いで影響力を高めてたみたいで、大元がいなくなるとガイコツの魔力が抜けて、カタチを維持できなくなったんじゃないかって聞いた。


 あの数を。

 20万という、あの数をだ。


 なんか、執念みたいなもんを感じるよな。

 あのじいさんにはあのじいさんの思想や考えってのがあったんだろうけど、ぶつかっちまったもんはしょうがねえ。

 大人しく殺される訳にはいかねえからな。


 この戦いでアークガド聖王国は死者が約2千人。ケガ人が約1万人は出たそうだ。

 戦争なんて経験ねえから、被害に対してどうなのかは正直分かんねえけどさ、たくさんの人間が亡くなったってのはなんつうか……胸にくるもんがあるよな。


 今は外で葬式と祝勝会をいっぺんにやってる。

 一日で2千人の葬式なんてできんのかって思ったけど、

 こっちじゃ神官さんが法術ってやつで遺体を魂に変えて天に還すから、地球の火葬土葬みたいに時間のかかるもんじゃねえらしい。


 俺に色々教えてくれた、お姫様の護衛騎士アルマも今は葬式兼祝勝会に出席中だ。


 俺は辞退した。

 良く知らない人たちの葬式で、悲しむ親族の横に並んで感傷的になれるほどできた人間じゃねえし。

 大事な人を亡くした気持ちはホントのところ、本人にしか分かんねぇよな。

 ただ、この世界の人たちは家族の戦死に誇りを持って、今後生きていけたりするんだろうか?


 俺の家族も、俺の事をそんな風に、想ってくれるだろうか。


 なんて俺は考えながら、空に消えていく光を城の客間から眺めつつ、ゴロリとしてる。


 それしてもコレ。使用人さんにリンゴですって言われたけど、微妙にリンゴじゃねえんだよな。

 リンゴの味はするけどモモみたいな触感で、シャクッてのを期待して齧り付いたら、果肉がジュクジュクして汁がボトボトこぼれた。

 使用人さんが失礼しますっつってアスガイアー・スーツを拭いてくれたけど、えらい恥かいたわ。

 今は齧る面積を少なくすることでスマートに食べられてる。


 この対応力!


 失敗を振り返り、繰り返さないよう明確に工夫することで今まで戦ってこれたからな。

 我ながら見事。


 ムシャムシャしながら足を組み替えると、扉をノックする音がした。


「どうぞー」


 こちらの返事を待つように少々時間を置いて、ドアノブがガチャリと回る。

 初老の男性使用人さんが扉を開けて、促されるように例の地球から来たっていうお嬢ちゃんと、フワフワ浮いた白い毛玉が入ってきた。


「救世戦士アスガイアーさんでしたよね。アタシは魔法少女ジュエリールのサファイアをやってます。海崎真希菜かいざきまきなです。こっちは妖精アグー」


「俺ぁカブラギってんだ。よろしくなマキマキ」


「ま! まきまき!?」


 狼狽えるマキマキの横から、アグーって紹介された毛玉が揺れながら近づいてきた。


「はっはっは! マキマキか。それはよいの! カブラギ殿は思いのほか気さくな人柄のようぢゃな」


「アンタもな、アグー。年長者さんみてえだから敬語の方がいいかな?」


「よいよい。死線を共にした仲ぢゃ。ざっくばらんにいこう」


「カブラギさん!!」


 大声の方を見ると、顔を赤くしたマキマキが眉間にシワをよせてる。


「……あだ名付けたから怒ってんのか?」


「いや、照れとるだけぢゃ。マキナは友達がおらんかったからの。ああ見えて喜んどる」


 ヒソヒソ俺らが喋ってんのを遮るように、マキマキが叫ぶ。


「アタシたちの事を話し合ったほうがいいと思うんですけど! アグーも余計な事言わないで!」


 そうだな、お互いの事を喋るのは賛成だ。

 にしても……。


「ところでマキマキ。その恰好は私服か?」


 マキマキは藍色で白のラインが入ったドレスを着てる。

 スカートは膝上あたりで、若い娘が身に着けるには少々はしたなくねえかな?


「違いますよ!」


 怒鳴ると、胸に付いた宝石に手をやる。

 するとドレスがピカッと光った。

 光がおさまって、いつの間にか白いブレザー姿に変わっていた。

 学校の制服かな?


「今のはジュエリールのコスチュームです。さっきの恰好にならないとジュエルパワーが使えないし、祝勝会であいさつしてきたんで変身してたんです。カブラギさんも、元の格好に戻らないんですか?」


 いやー……。


「俺はいいや。素顔に自信がねえんだよ」


 そうごまかして、リンゴを頬張る。


「そのマスクどうなってるんですか……?」


 マスク着けたままでリンゴ食ってりゃそう思うわな。


「しらね。俺が作ったんじゃねえしこのスーツ」


 なんかガイアエネルギーを固体化した粒子がどうとか、量子力学的になんとかって聞いたけど。

 わからんもんはわからん。


「そのスーツの事。というより、カブラギさんの……救世戦士アスガイアーの事……聞かせてもらっていいですか?」


 マキマキは、おずおずと聞きにくそうに尋ねてくる。

 お互い大変な境遇みたいだしな。

 年長者の俺から話した方がいいか。


 俺の……血で血を洗う、戦いの数々を……。



「うん。いいよ」





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