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第34話 三大国共同戦線


 爆炎が迫り、俺はアルマを庇って身を屈める。

 砂ぼこりで視界がきかないが、ガイアセンサーで《崩国の姫》の魔素エネルギーがバラバラになったのが分かった。

 とんでもない熱量だったけど、みんな無事みたいだ。

 一人を除いて。


 ネカジャノ大伯の魔素は消えた。


 どういう人だったのか知らねえけど、

 立派だった。

 誇りある貴族だった。

 自分以外を守る為に、自分を捨ててみんなを守った。


 何がスーパーヒーローだ!

 俺が!

 もう少し強けりゃ!


「俺がもう少し強けりゃ! くそぉ!」


「カブラギ殿」


 つい声を荒げると、目の前のアルマが俺の頬に手を添えてきた。


「貴方は背負い過ぎる。万能の者など……いません。貴方が守る対象に、貴方自身も入っていますか?」


 アルマが優し気に囁く言葉に、少し冷静になれた。


「はは、どうかな」


 心配させちまったかな。

 まあ、俺はスーパーヒーローだから。

 守れなかった事に負い目は感じないといけないから。

 アニキと約束したし、親父と母ちゃんが生きた証になれるように、天国で誇りに思ってもらえるように頑張らねえと。

 口には出さないけどね。


 切り替えていこう!

 まだ終わってねえ!


「見事な散りざまであった! ネカジャノ大伯殿の覚悟! 無駄にせぬ!」


 視界が戻ってきた平原で、ソレガシの旦那が叫んだ。

 そうだな。

 蜘蛛の大軍がまだ片付いてない。


 爆発跡の方を向いて、胸に手を当てていたサジーさんが顔を上げる。


「さあ、ユーたち。仕上げといこうか、うん」


 促されて、俺たち6人は魔獣の群れに向かう。

 



 ◇◆◇◆



 ポロイス共和国の司令である、ホブ族のゴファルスは上空から戦場を眺めていた。

 ホブ族とは魔物であるゴブリンに良く似た種族だが、知能が高く共和国では頭脳労働に従事する事が多い。

 ゴファルスは特に優秀であった為に代議員を務め、魔獣の駆除や原種過激派、野盗の掃討を主に担当している。

 その経験を買われて今回の、侵攻軍撃退の共同軍司令に抜擢されたのだ。

 ホブ族をその見た目から、ホブゴブリンと呼ぶ者もいる。

 それは侮辱であり、人族を猿。リザードマンをトカゲと呼ぶ事と同義だ。


「ポイズン系のスパイダー種に直接攻撃はダメ! 固まってる場所を空兵が合図で砲撃隊に知らせて!」


「ハッ! 第一! 第二ワイバーン小隊は確認次第、光魔法で信号を落とせ!」


「ゼギアス魔導砲撃隊! 信号着弾点に砲撃準備!」


 指示に従い、命令を飛ばす。

 指示を出すのは大聖王国の第一息女、シソーヌ・ヒーメ・アークガド。

 共に並び、自分と同様命令を出しているのは、迎え撃つ予定であったゼギアス大皇国の幕僚の一人だ。

 

 ゼギアス大皇国と共同戦線を張るという、今の状況。

 腑に落ちない点があるのは否めなかったが、今は理解できる。

 

 伝説の魔獣である、《崩国の姫》が生み出した蜘蛛の魔獣群はその数だけでなく、かなり強力な種も多く混在していた。


 巨顎蜘蛛ジャイアント・スパイダージョー

 忍び寄る暗殺蜘蛛クリーピング・スパイダー・アサシン

 地獄毒蜘蛛ポイズン・ヘル・スパイダー

 徘徊する幻影蜘蛛ワンダラー・ファントム・スパイダー


 どれも出現したなら町が滅ぶ、危険な魔獣ばかり。

 特に恐ろしいのが、暴君の死蜘蛛タイラント・デス・スパイダーだ。


 危険度は間違いなく特級。

 人魔大戦で魔王軍が使役していたらしいが、実際に目の当たりにすると映像魔導具で見るよりもはるかに恐ろしさが伝わってくる。

 あんな魔獣共を相手取っては5万の大軍といえど、壊滅は免れなかっただろう。


 しかし、ゼギアス大皇国の魔導兵器は凄まじく、魔獣は数を減らしていく。

 特に蒼光の矢を上空へ飛ばし、落雷と変えて広範囲へ落とす技術は驚愕の一言。

 ただ魔人族は個々の戦闘力がやはり低いようで、キラースパイダーから二段階進化しただけの魔獣に接近戦で手こずっていた。

 小型の魔導兵器も連射性は乏しいようで、密集して襲ってくる魔獣に対処しかねている。


 そこに我らが共和国の、共同軍が露払いをしていく。

 同種族の強い連携で小型の魔獣を次々と駆逐し、魔導兵器の隙を無くしていた。

 分担して事に当たっていたならば、今以上の被害が出ていただろう。

 

 これは共和国、大皇国のどちらかではまとまらなかった。

 大聖王国が間に入ってこそだ。


 それに、


「左軍は魔防障壁を展開! 騎兵は回り込んで魔獣を押しつぶして!」


「第5歩兵部隊は下がれ! 第3魔導隊は魔防障壁を出せ!」


馬人族ケンタウロス隊は左へ回り込め! 勢いのままに突進せよ!」


 指示も流動的で的確。

 まだ少女であるにも関わらず、素晴らしい才能だ。

 これが《勇者》を輩出した一族か。

 

 このまま押し切れる。

 ただ懸念なのはやはり、伝説に謳われる魔獣《崩国の姫》だ。

 

 戦闘で兵の数は徐々に減り、総勢7万の兵は現在見たところ6万強。

 数にモノを言わせれば討伐も可能かもしれない。

 しかしその場合、一体どれだけの被害が出るのか。

 それに天空から山を転移させてきた、伝説の英雄を名乗る仮面の男も不安材料だ。

 二国の重鎮を操り、争わせた。ヤツこそが此度の元凶。


 《銀伯爵》と供の者達が挑んで行ったのが見えたが、可視化された負の魔素が濃く、上空からでも戦闘の様子は伺い知れなかった。


「不味い!」


 ゼギアス大皇国の幕僚が叫喚を上げる。

 視線の先を見ると、後方で待機していた一際巨大な暴君の死蜘蛛タイラント・デス・スパイダーが進行を開始していた。

 他の蜘蛛を踏みしだきながら迫ってくる。


「シソーヌ姫様! 砲撃を開始します!」


「待って!!」


 魔人族の幕僚をシソーヌ姫が制し、新たな指示を飛ばす。


「全軍後退!! でも後方の魔導砲撃隊は指示が出るまで待機! 水平に砲撃準備をして!」


「「全軍後退せよ!」」


 ゴファルスは魔人族の幕僚と声を合わす。


「第8! 第9砲撃隊は魔石装填! 砲身を水平に向けて待機せよ!!」


 追加の指示が飛び、潮が引くように自軍が下がっていく。



「マキマキ!!!!」



 シソーヌ姫が謎の呪文を叫んだ。

 自軍の中から蒼光の矢が飛び、暴君の死蜘蛛タイラント・デス・スパイダーに命中する。

 巨蜘蛛が爆散した。


「魔導砲!! 撃って!!」

 

「魔導砲!! 撃てぇ!!」


 魔導砲が火を噴き、迫る蜘蛛の群れに着弾する。


 その時蜘蛛の群れの、遥か後方でも爆発が起こった。

 可視化された魔素は吹き飛び、伝説の魔獣の姿は消えていた。


 一拍の静寂。


 晴れた魔素の辺りから《銀伯爵》が雲に乗り、ペガサスに乗った魔人族の女が、背中に羽を生やした燕尾服の男が、人間の騎士が、大柄な白騎士が、赤い仮面の男がこちらへ向かって来る。


「伝説の魔獣は滅びました!! 後は殲滅戦です!! 持てる全てを出し切りなさい!!」


 少女が声を張り上げ、叫んだ。


 


 

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