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ユウゲンの①

外伝です。


「おかえりユウゲンさん。今回は特に長かったねぇ」


 宿屋の女将さんに声をかけられ、ユウゲンは曖昧に笑い返答する。


「いやぁ、魔王が討伐されて大陸はビジネスチャンスがそこら中に転がってますから。今が稼ぎ時ですよ。今回は大聖王国まで足を延ばしてきました」


「へえ! がんばったねえ! 今日の風呂は特別に薬湯を入れようかねぇ」


「それは楽しみですね。遠出したら腰が痛くて痛くて、歳は取りたくないですね」


「何言ってんだい。まだ40もいってない若造が年寄りズラすんじゃないよ」


 ガハガハ笑う女将さんは50代くらいだろうか。

 頼もしい体格を動かして厨房へ向かう。


 ユウゲンは挨拶を済ませると、魔防都市メサルテでも中の下辺りの宿屋である《友人の幸せ亭》。

 その二階にとってある自分の部屋へ戻り、大きなリュックサックを降ろすと一人用のベッドにどかりと身体をあずける。


 今回の遠征は疲れた。


 普段行き慣れてない土地は神経を使う。

 新規開拓とは、普段お付き合いをしている取引先の交渉とはワケが違うのだ。


 情報収集から始めて、さらに種族人口の比率調査。

 ニーズの確認。

 

 商売を始める前にやることは多い。

 営業をかける前に、如何に事前準備をしていることが重要になる。

 一度失った信頼は取り戻すのに時間が掛かるからだ。


 西側へ渡る前の仕入れも重要だった。

 要求されて準備したのでは遅すぎる。

 東に少ない資源を調査して、西で出来るだけ買い込む。


 要求に即座に対応して、信頼を得る。

 

 それが如何に難しいか。

 

 服装も重要だ。

 靴は動きやすく、高級さが伝わるようなS級冒険者も履いている超級の魔獣の皮を使用した一級品を身に着けている。

 服装はシュウ大帝国でも一等人民の専用である辛子色の高級品だ。

 商売が上手くいっているというイメージを相手に持たれるように気を配った。

 第一印象がその後の交渉をスムーズにする。


 とはいえ相手の顔色を窺い、店の品ぞろえを見極め、立地的な条件、店の問題点を判断し、交渉相手の要求……顕在的ニーズだけでなく、本人も気が付いていない潜在的なニーズを掘り下げて提示するのは、精神をすり減らす。

 

 時には店のプロデュースのような事もした。

 もちろんゼロから信頼関係のない相手にそんな事はできない。

 数日を使って交渉する価値のある相手を見極め、飛び込みで営業をかけた後に会話を重ねてからだ。


 シュウ大帝国の出身ではないユウゲンだが、顔立ちがシュウ大帝国の人民に似ていたのは僥倖だった。


 魔王軍に滅ぼされた国の出身というのは相手の同情を誘ったからだ。

 それだけでアポイントを取りやすくなった。

 同業者からも情報を集めやすかった。


 昔とった杵柄きねづかというか、以前の経験がこの世界・・・・でも役に立つとは。


 


 ベッドの上で溜息を吐く。


 自分の、今の成功はこのリュックサックのおかげだ。

 これを授けてくれたサンジェルマン卿には感謝してもしきれない。


 しかし、多少の依頼は聞いても全てを捧げるわけではない。

 ご丁寧に恩を受けたからといって、命を懸けてご恩を返すなんて時代錯誤だ。

 

 自分の目的は金を稼いで、働く必要が無くなったら辺境で隠居して旅行を楽しむ。

 この目的の為に商売で金を稼いでいるのだ。

 

 ゴロリと体勢を変える。


 しかし、自分の能力で成功するというのは思いのほか気分がいいものなんだな。

 と、思う。


 以前は嫌な上司に罵倒され、社用の携帯電話で相談すれば一時間もダメ出しされ、年下の先輩に馬鹿にされ、顧客には陰口を叩かれていた。


 使えないヤツ、と。


 悔しくて悔しくて、ビジネス本を読み漁るも実行出来ずにいたけれど、環境が変わるとこんなにも上手くいくものか。


 いや、環境が変わったから、今までの自分を俯瞰して見ることが出来るのかもしれない。


 今や自分は商業ギルドでも最上位のブラックランクの二つ下、シルバーランクの商会の会頭だ。



 商会員は自分だけだけれども。



 もっともユウゲンはこれ以上ランクを上げるつもりはない。

 名が上がり過ぎれば、有名税というモノが付いて回ると思っているからだ。


 ユウゲンは静かに隠居して、たまの旅行を楽しむ。

 その目的の為に金を稼いでいるのだから。


 自然に囲まれ、本を読みながら季節の移り変わりを楽しむ。

 思いたったら旅行に行き、自然に触れて美味い旬のものを楽しむ。

 

 胸が躍る。


 もうひと働きすれば目途がつく。

 今の現金資産は白金貨が22枚。純金貨が8枚。

 辺境ならば十分に余生を過ごせる額だが、念のためにもう少し貯めておきたい。

 せっかく大陸東部が好景気に沸いているのだから、この好機を逃す手はない。


 また大森林へ行って近くの村から薬草を買い取ってくるか。

 あれはハイポーションの材料になる。

 大嶮山ふもとで魔石を買い集めて、ザバナン大連邦国まで足を延ばすか。

 東では魔石の供給が追い付いていないだろう。

 持っていけば持っていくだけ買い取ってもらえるはずだ。

 リュックサックのおかげで尋常でない品数が確保出来る。

 

 東か……。


 大聖王国で出会った異界人の事を思い返す。


「《赤べこ》なんか久しぶりに見たな……」


 

 

 

あかべこって知ってますか?

田舎のばあちゃんちの、ブラウン管テレビの上に飾ってある……

そうそう!

それです。

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