第4話 仲間
俺たちは街へ戻った。
そんでリザードマンの過激派を治安維持隊の役所へ連れて行ったあと、冒険者組合でゴブリン討伐の報奨金を受け取った。
今は宿屋の酒場で魔人族の人たちと食事会……いや、こりゃ宴会だな。
宴会中だ。
メガネのソマリさんは最初恐縮してたけど、酒が入ると吹っ切れたみたいで今はアグーが披露する《鳥の丸焼き一気飲み》に手を叩いて喜んでいる。
魔人族の人たちは公女のメイ姫を入れて6人。
食事代はあちらさんの奢りだ。
アグーは図々しいね。
受付のある広々としたロビーは酒場も兼ねてる。
二つのテーブルをくっつけて、俺たちと魔人族の一行が料理と酒を並べて歓談中だ。
高級な宿だけど金持ち=上品ってわけでもないみたいでガヤガヤと場は騒がしい。
俺たちのテーブルはその中でも一際賑やかだが、アルセーヌさんが人のいるテーブルへ挨拶へ向かった後にお酒が運ばれてたのを見ると、気配りはバッチリみたい。
アルセーヌさんチョー有能。
「マキマキ様は素晴らしい能力をお持ちだ! 見前も良いし東ではさぞ名の通ったお方なんでしょうね!」
「ああ! こんなにも可憐で、かつ戦闘での凛としたお姿は正に《花》と形容するに相応しい!」
「いや、そんな……エヘヘ」
マキマキは若い魔人族の二人に囲まれてヘラヘラしている。
あのコ、褒められ慣れてないみたいだけど大丈夫かな……。
お兄さん心配。
「その時私言ったんですの。おととい来やがれって」
「オモシロい! オモシロい! メイ姫オモシロいじゃーん!」
シソーヌ姫とメイ姫がゲラゲラ笑ってる。
あれ酒入ってねぇか?
こっちの世界じゃ酒に年齢制限とかはないそうだけど。
お兄さん心配。
「ねーメイちゃんって呼んでいい? 私の事シーちゃんって呼んでいいからさー」
だいぶ御機嫌だな。
まぁアルマが付いてるから飲み過ぎる事はねぇか。
俺の隣ではソレガシの旦那が、口の手ぬぐいを捲りながら飯を食ってる。
「……なんで鎧だけの身体でメシが食えるんだ?」
「お主こそ。なぜ仮面を被ったまま食事ができるのだ? 羨ましいぞ」
どっちもどっちか。
「このピリリとした舌触りはなんだ? 酒がすすんでしまうではないか」
「胡椒だよ。臭みを抑えて香りが付くんだ」
「ほう! これが胡椒か! 我が祖国でも耳にした事はあったが高級品でなぁ。このシュワシュワとした酒によく合うではないか」
「そりゃビールってんだよ。麦で作った酒だ」
「麦だと? 美味いな。この杯も持ちやすくて良い」
「ジョッキって名前なんだよ。旦那は古い時代の人だから色んな事が新鮮なんだな」
「うむ、楽しいぞ。二度死んだ身だ。それゆえ今世は楽しむと決めたのだ」
もぐもぐしながらそう言うソレガシの旦那。
カラッポの身体でどうやって咀嚼してるのか知んねえけど、口にモノ入れて喋るのは行儀が悪いぞ。
俺を見習ってほしいもんだ。
「そういや旦那は新しい槍とか欲しくねえのか? 壊した俺が言うのもなんだけどさ」
「ちょっとカブラギさん! 食べカスが飛んできたじゃないですか! 飲み込んでから喋って下さいよ!」
マキマキになんか怒られた。
「そうだがなぁ。並みの槍では振っただけでグニャリと曲がってしまうのだ。突くだけでも先が折れてしまうのでな」
そうかぁ。
折れる度に新しいの買うわけにいかねえもんな。
毛の大食漢と燃費の悪い魔法少女がいるから、金食い虫がこれ以上増えるのは困る。
俺なんか風に吹かれたり、火にあたるだけでガイアエネルギーをチャージ出来るからスゴイ経済的なんだけどね。
金が掛かんねえのは俺だけかぁ……。
「カブラギ様ー、飲んでますかー?」
メイさんが絡んでくる。
「よう、メイさん。頂いてるよ。ありがとね」
お茶だけど。
「皆さま気さくな方ばかりで驚きましたわ。シソー様なんて幼いながらも高潔な態度で最初は圧倒されましたけど、蓋を開けてみればお喋りが楽しくて楽しくて」
「だろ?」
「私ったら領内から出る機会が少なくて。領民たちは敬ってくれますけど、こんなに人と気さくに言葉を交わす事ってないのですわ」
「まあ、公女さまだもんな」
「皆さまは皇都へ向かうんでしょう? 私たちもゼギアス大皇へ謁見に行きますの。途中まで同行していただくことになりましたから、何かありましたらまたお守り下さいね♪」
バチンとウインクされた。
「メイちゃん戻って来てよー!」
「はーい!」
そんでまたシソーヌ姫の所へ戻っていく。
「モテる男はつらいな」
「からかわねえでくれよ旦那」
まあ悪い気はしねえけどさ、複雑だよ。
俺たちは地球に帰っちまうんだから。
しばらくしてお開きになり、魔人族の人たちは部屋に戻っていった。
この宿には風呂がある。
高級な宿だからね。
俺はガイアスーツを脱がない。でも風呂には入るんだ。
気持ちいいからな。
スーツのまま浴場に入ると他の客から変な顔されたけど、湯船に浸かる前にしっかり身体を洗うと何にも言われなかった。
他にも屈強な男が服着たまま入ってたから、強い冒険者とかには身体の傷を隠したりする人もいるのかも。
さっぱりしてアグーと旦那との3人部屋へ戻ろうと、浴場と母屋を繋ぐ渡り廊下を歩く。
ふと気が付くと、アルマが柱に寄っかかって立っていた。
「よーアルマ。どした?」
「カブラギ殿……」
アルマが俺を見た後、庭に目をやる。
その先には寝間着を着たシソーヌ姫が、欠けた月を見上げていた。
「……姫様は、本当はお辛いのです。陛下の石化を解くこの旅で、気丈に振る舞ってはいらっしゃいますが……あのコはまだ10歳なのです」
……そうだな。
「あ、カブラギ殿」
俺はシソーヌ姫に近づいて、肩に手をやる。
「カブラギ……」
「よ」
目が潤んでた。
シソーヌ姫はゴシゴシとその目を拭う。
「い、いまね。ママにお願いしてたんだ。パパが石になっちゃって、暇だろうから話し相手になって……あげてって……」
拭った瞳が、また揺れる。
「アレ? 違うんだよ? おかしいな。泣くつもりなんてないのに……」
拭う手から涙がこぼれる。
「泣くつもりがねえのに泣いちまうのはな、泣いた方が良い時なんだよ」
シソーヌ姫がハッと俺を見上げると、しがみ付いて声を上げる。
俺は小さな背中を支えながら、しばらくのあいだ欠けた月を見ていた。
「……ホントは悲しいのに、みんなにウソついてたね。ごめんね? 仲間なのに、隠し事は良くないよね?」
顔をうずめたまま呟く。
「いいんだよ。隠し事したって嘘ついたって、人間なんだからな。自分の全部をしゃべる必要なんかねぇよ、仲間ってのはそんな薄っぺらいモンじゃねんだ。気にすんなって」
「そうだよシーちゃん」
マキマキとアルマが歩いてきた。
「一緒に頑張ろうよ。友達じゃない」
「付き従う。と誓いました……身命を賭して、ね」
シソーヌ姫が笑う。
「うん!!」
守りたい。この笑顔。
「アグー殿。若いというのは良いな」
「そうですのう」
「漢帝国は滅び、滅ぼした国も滅び、その次もまた滅びたと言ったな?」
「ワシらの歴史では、ですけどな。盛者必衰とでもいうのか、滅びは平等です。ワシの故郷も滅んだ。しかし絶望はない、今はあの海崎真希菜がワシの生きる希望ですのぢゃ」
「後進を導き、先の世へ繋げる……か。それが、某が本当にやりたかった事かもしれんな」
「これからも、お付き合い願えますかな?」
「当然だ」
「では飲み直しましょうか。年寄り二人で」
「当然だ」
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