第4話 決戦である
「ただ仮面の魔術師! しばし待たれよ!」
マルク将軍が城壁に向き直り、周りの騎馬兵が壁となって敵を迎え撃つ。
どうするつもりだ?
と、
「注目!!!!!!」
マルク将軍が、尋常じゃない怒声を上げる。
「敵本陣を急襲する!! 小休止中の全兵は城外にて防衛!! 遠射兵は総出で援護!! 騎兵は我が旗下へ集合!! 以上!!!!」
ビリビリと命令が響くと、一拍の時をおいて城門が開き、大勢の人が出てきた。
鎧を着ていない民間人がほとんどだが、半分が身体をすっぽり覆うほどの盾を構え、もう半分はやたら長い槍を持ってんのが見えた。
いつの間にか城門の上にも弓を構えた人間と、杖や大筒を構えた人間が交互にズラッと並ぶ。
要塞。
人間すらも資材としたような、鉄壁の要塞の完成だ。
俺が感心してると、下の人垣が整然と動いて隙間ができる。
その隙間から騎兵が隊列を組んでこちらに走ってきた。
万を超える人間が動いたとは思えねえ速度。
これだけの人数が武器を持ってる事といい、この国が日頃から戦い続けてんのがよく分かる。
「聖浄衝撃波!!」
騎兵の先頭から衝撃破が飛んで、俺たちの近くにいるガイコツを吹っ飛ばしてくれた。
あの人も隊長格か。鎧が立派だ。ピカピカしてる。
一息つこうとすると、周りの味方が困惑したような声を出し始めた。
なんだ?
「陛下!!」
陛下!? 今ガイコツを吹き飛ばしたのは王様かよ!
曇り空の下にもかかわらず、輝く鎧を着た王様が俺たちの傍で手綱を引いた。
馬がいななく。
「シソーヌより聞いておる。異界人カブラギ殿よ。敵の本陣、なぜ知りえた?」
「王様、負のエネルギーが特に濃い場所があります。東におよそ800メートル。えっと、敵が特に密集していて、他に同じような場所はないんですよ」
王様としゃべるのは初めてだけど……失礼じゃなかったかな?
「ふむ」
マルク将軍が王様に詰め寄る。
「陛下! なりませぬ!」
「マルクよ、そう申すな。これにしくじれば死ぬのだ。ならば余のチカラ、存分に振るうまでよ」
城から複数飛ぶ援護の火球を背にして、火花が舞う中で王様が空に剣を突き上げた。
さながら、物語の一場面みたいだ。
「これよりは決戦である!!」
俺は固唾を飲む。
王様が叫ぶ。
「人間を! 隣人を! 家族を守る為! 皆!! 砕身せよ!!!!」
オオオオオオオオオオオオオ!!!!
そこら中から雄たけびが上がった。
ガイアスーツに、ビリビリと振動が伝わる。
鳥肌が立つぜ。
……良い国だな。
よし。気合は入った。なら後は始めるだけだ。
俺は両手を押し出して、踏ん張る。
「アスガイアぁぁあ……メテオストーム!!」
この技は、前方に超高熱の風を纏った直径5メートルの火球を放つ。
直線状の敵はまさに骨も残らねえ。
このまま敵本陣も焼き尽くせれば御の字だが……。
遥か向こうで火球が爆ぜて、火柱が上がった。
壁役が密集して威力を殺したんだろう。
だが、熱風が周囲のガイコツを吹き飛ばして道が出来た。
「突!! 貫!!」
王様の号令。
マルク将軍を先頭に騎兵たちが駆ける。
王様は将軍の後ろだ。
俺は最後尾。
一人だけ自分の足で走りつつ、アスガイアー・コアから右手にエネルギーをチャージさせる。
半分以上進んだ辺りで、左右から敵が迫ってくる。
俺のガイアエネルギーは次の技で打ち止めだ。
ここは王様たちに任せるしかない。
「聖浄衝撃波!!」
左右に広げた王様の腕から衝撃波が飛んだ。
詰めてきた敵が景気よく吹き飛んで、霧に変わる。
「3番隊4番隊は左右に展開!! 道を維持せよ!!」
「「「応!!」」」
マルク将軍の号令で騎兵が二手に分かれた。
そうだな。
俺は知ってた。
遠すぎる本陣への道は、脱落者を生む。
敵を押しとどめる盾になった騎兵は無傷ではいられない。
間髪無く王様が衝撃波を飛ばすが、だんだんと威力が下がってきてる。
衝撃波を逃れたガイコツをマルク将軍が蹴散らしていくけど、進むうちに迎え撃つ敵も増えてきた為に、速度も落ちてきた。
けどもうすぐだ。
残ったガイアエネルギーは全て右の拳に集まった。
いつでも撃てる。
駆ける、駆ける、駆ける。
その時、
左右の敵を止めていた騎兵たちに敵の槍が突き刺さる。
落馬した一人が、俺の足元に転がってきた。
目が合い、思わず左手を伸ばすーー
「行けぇ!!!!」
倒れた名も知らない騎兵が、俺に叫んだ。
そうだ、俺は分かってたはず。
そしてこの男も分かってたんだ。
でも覚悟した。
自分以外を守る為に、自分を捨てる覚悟。
ちょっと前の俺と同じ。
倒れた男に槍が突き立てられる。
だがそれを背にして、俺は行く。
「抜けるぞ!!」
ガイコツ共の軍勢を抜けると、祭壇があった。
仏壇くらいの大きさだが、骨だけで組まれた見るからに邪悪な祭壇だ。
そこから黒いモヤ、いわゆる負のオーラが噴き出している。
禍々しくて……寒気がするぜ。
それを守るように、他よりも二回り大きく、鈍色の全身鎧を着たゴツいガイコツが3体。
あれが指揮官か?
3体か……。
俺がどの技で一掃するか思考を巡らせていると、ゴツいガイコツたちの間から一人、ゆっくりと前に出てくる。
濃い紫色の、ススけたローブを着た老人だ。
くすんだ赤色の肌に、深くシワが刻まれた顔。
下顎から二本の牙が突き出ていて、額からは鋭い角が一本伸びている。
年老いた鬼といった見た目だ。
王様とマルク将軍が馬から降りて、老人に剣を構える。
「辿り着いたぞ。魔王4将軍が一席、死のシャマカよ」