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第32話 感傷とこれからの事


 明くる朝。


 ボーニア伯爵邸の人たちから見送りを受けて、街を出た。

 食糧の補充を終えた魔導車は街道を進む。

 途中いくつもの馬車とすれ違ったが、みんな例外なく振り返っていた。


「お、見てる見てる。よっぽど珍しいんだな」


「そりゃそうさ。ザバナン大連邦国のドワーフが似たものを作ってるらしいけど、西三国ではまだ開発されてない技術だし。魔獣を使役せずにこれだけ速く走る乗り物は初めて見るんじゃないかな」


 ガイアセンサーで分析すると、魔導車の速度は約40キロ。

 最高速度は二倍弱らしいから約80キロ。

 アベイル隊長によると、これまでは風の魔石で浮かせた荷台を素早い魔獣に引かせたモノが一番速かったそうだ。

 だけど、揺れが激しくて人を乗せる用途ではあまり使われなかった。

 手紙の配達や急ぎの使者は、魔法カバンを抱えて魔獣にまたがるのが普通なんだと。


「この進行具合なら明後日には首都ガドニアに着きそうだね。街道沿いにはいくつか村があるから、日が暮れる前には立ち寄るようにしようか」


 道の駅とかパーキングエリアみたいなもんかな?


「思ったより近いんぢゃの。国同士の主要都市が2千キロも離れていないのか」


「確かに珍しいね。まあ元々が貿易都市ボーニアが首都だったのも聖王国からの補給が受けやすいようにだし。つまり、主要都市の距離は今よりもっと近かったんだ。そして首都を移した理由も国交を結んだ他国と聖王国との仲介を担う為だから、あまり遠すぎても都合が悪いのさ」





 風を受けながら魔導車は進む。

 石畳でできた広い街道が地平線まで続いている。

 青空には雲がいくつか浮かび、その下を鳥が群をなして北へ飛んでいく。

 遠い平野には、鹿みたいな獣の親子連れが草を食ってる。

 シソーヌ姫は見えるものが一々新鮮なようで、外を眺めながら声を出してる。

 アグーが毛から豆の入った袋を出して皆に配る。

 俺は足を組んで腕を組み、流れる景色を見ていた。




 温かい日差しを浴びて物思いに耽る。

 平和になったこの世界。

 多分平和になった俺の世界。

 ダルダム団は人類を進化させて争わせ、衝突によるエネルギーを大首領に捧げる事が目的だった。

 大首領が、集めたエネルギーで何をするつもりだったのかは分からない。

 問い詰めたけど、ご丁寧に自分の目的をペラペラと喋るようなヤツじゃなかった。


 この世界に現れた魔王は地上人の抹殺が目的だったと言われてる。

 何故?

 大陸から外れた北東に、魔界の入り口があるそうだ。

 魔界から大勢で出てきた理由は?

 移住が目的なら、まずは交渉だろう。

 侵略が目的なら皆殺しにするより支配した方がいい。

 この世界の人たちは死んだら当然遺体になるが、特別な法術を施すと魔素に変わり世界に還る。

 魔素はエネルギーだ。

 火を起こし、水の恵みを発生させ、風をそよがせ、土を固める。

 光り、闇を作る。


 何か引っかかる。


 いや、全部終わった事だな。

 大首領は滅んで魔王は討伐された。


 平和になったんだ。

 問題はいくつかあるだろうが、そんなモノは乗り越えればいい。

 子供(シソーヌ姫)が笑ってるんだからいいじゃねえか。




「何を黄昏てるんですか?」


 マキマキが下からのぞき込んできた。


「うそ? オレ黄昏てた?」


「考え込んでるみたいでしたよ」


「いや、平和でいいなぁってな」


 マキマキは優しく笑った。


「そうですね。……帰る方法が分かったら、少しこっちの世界を観光して帰りませんか?」


「観光?」


「はい。実はアタシ、将来何をしたらいいのか分からないんです」


「ほう」


「今までは戦うのに必死で……。平和になった途端、少しだけ不安になっちゃって」


「なるほどねぇ……わかるわぁ」


「それで色んなものを見たくなったんです。自分探しって言うんですかね? こういうのって」


「どうかな。まあ偉そうにアドバイスなんてできねえけどさ。これは経験なんだけど……何ができるかってのより、自分が何をやりたいかで考えた方がいいよ。うん」


「ふふ、アドバイスありがとうございます」


「まあ付き合うさ。まずは帰る方法を見つけねえとな」


「ハイ!」


 ふと、アルマと目が合った。

 すぐ逸らされたけど。

 と、


「次の村で休もう、風魔石に魔素を補充する。カオッツさん、到着したら宿の手配をお願いします。ボゴゥ、コンレン。カオッツさんの護衛を」


「了承ですな」


「「ハッ」」


 アベイル隊長が日が落ちてきたのを見て、指示を出す。

 文官のおっちゃんが頷き、騎士さん2人が返事をした。

 スピードを落として、魔導車が街道からほど近い村の門に停車する。


 村っていっても立派なもんだ。

 がっしりとした丸太が立てられた2メートル程の柵。

 割と大き目な建物もちらほら。

 10メートル近くある物見やぐらの人が合図をすると、木で出来た門が開いた。

 入り口近くに停車して、駆けつけた村長さんに挨拶を済ませる。

 馬車の荷台が他にも結構止まってるし、街道警備? かなんかの兵隊さんがやたら多くて、部屋取れんのかなーなんて考えてると、魔導師のカンミさんとドウブさんが魔導車のメンタナンスをし始めたのが見えた。





「お疲れ様ですー」


 売店で買ってきた、お茶入りの水筒をカンミさんとドウブさんに差し出す。


「おや! 悪いですよカブラギ殿」


「む」


「ウチじゃこうやって相手を労う習慣があるんスよ。ずっと運転してて疲れたでしょ」


「そういう習慣ならお言葉に甘えましょうかね」


 カンミさんが人懐っこく笑って水筒を受け取り、固い表情のドウブさんに手渡す。


「……んはぁ! 美味いね! ほらドウブも何か言えって。すいませんね、コイツ昔から愛想なしで」


「む、気に障ったなら申し訳ない」


「いやいや、全然全然。二人は付き合い長いんスか?」


「そうですねぇ。オイラたちの親同士が同僚でして、その流れでそのまま。人魔大戦で親が戦死したもんだから仇討ちしようって二人で魔導師を目指した感じですかね。まあ腐れ縁ってヤツですか」


「そりゃまた……」


「今時よくある話ですよ。でも、カブラギ殿は変わり者ですねぇ。そんなに強いのに周りに気遣いもするし、驕った感じもない。珍しいですよ」


「うむ。そうだな。驕りは口にせずとも、滲み出るものだ」


 そうか。

 まあこの世界じゃ強いのは自信になるだろな。


「俺の強さは自慢できるようなモンじゃないんスよ。それに、元の世界じゃ強けりゃいいってもんでなくて甲斐性がないと」


「ハハハ! なるほど! ところでカブラギ殿、敬語はやめてもらえませんかね? 気ぃ使いますから」


「そう? じゃあカンミさんとドウブさんもやめてよ。多分歳も同じくらいだし」


「へえ! カブラギ殿って顔見えないから年齢不詳だったんだよね」


「自分たちは23になる」


「マジで!? 同い年じゃん! なんだなんだ、終わるまで後ろで見てていい?」


「いいよいいよ」


「うむ」




カブラギさんの考えは個人の見解です。

自分の特技を考えて出来る事を一生懸命やる事も大切ですよね。私みたいなモンには分かりかねますが。


カブラギとマキマキが帰る話をしてるのを、アルマは気になるみたいです。

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