第31話 ロンメル・ソセン・ボーニア伯爵
関門を越えてガドニア侯国の領内へ入った俺たちはそれから2時間後、《貿易都市ボーニア》に着いた。
馬車だと半日以上かかるらしいけど、流石は聖王国最新の魔導車。
速度も申し分なく、快適な旅そのものだった。
元々はこのボーニアがガドニア侯国の首都だったそうで、本来は防衛を主とした城塞都市だっただけあって、高い城壁に囲まれた横長の街が広がっている。
今はゼギアス大皇国とアークガド聖王国に国交が開かれて、さらに七国同盟が成立すると大嶮山の山道が整備されて貿易が盛んになり、堅固な城壁には複数の門が設けられたそうだ。
俺たちはいくつかある内のひとつ、要人専用の華美な中門から入らせてもらった。
アベイル隊長が紋章の入ったベーゴマみたいなモンを門番の騎士に見せると、慌てて通信魔道具を使って迎えの人たちを呼んでくれた。
是非領主さまの館にって話だったけど、遅くなっちゃってもう日が暮れるし悪いからと、一度は断った。
でも使者の人が首都から特使の来訪は伺っておりましたし、準備もすでに済んでおりますのでお気になさらずって言うから、それじゃあってところで落ち着いた。
今は大きな来客用の部屋で貿易都市ボーニアの領主、ロンメル・ソセン・ボーニア伯爵さんと家来の人たち、それと俺たち特使団20人が食卓を囲んでる。
「叔父上、夜分の訪問に手厚い持て成し、心より感謝いたします」
「何を水臭い事を仰られる殿下、久方ぶりにお会いできると聞いて首を長くしておりました。ただ、特使団に大聖王国の姫君が同行されていらっしゃったのは些か驚きましたな」
そう言って笑うボーニア伯爵は優しそうで、恰幅の良い50過ぎくらいのおじさんだ。
アベイル隊長が叔父上って呼ぶのは遠い親戚だからなんだって。
「ボーニア伯爵のお話は伺っておりました。戦時中は聖王国への補給支援、まことに感謝いたします。御礼は後日改めて必ず」
「いやいや! 兄弟国であり庇護国でもあるガドニアが大聖王国の兵站を担うは当然! 特に大嶮山は地上人の絶対防衛線でもありましたから西三国からも支援を頂きました。なので別段難しい事柄というわけでは、お気になさらず」
シソーヌ姫とのご挨拶を済ませると、ボーニア伯爵が手を叩く。
「さ! 話はこれくらいにして食事をお楽しみください! 異界人の方々にも楽しんで頂けるよう、我が家の料理人が腕を振るいました。最近は商人たちが多く領内を出入りしている為に食材も豊富ですぞ」
お許しが出た。
腹減って堪らんかったのよ。
でも作法とかワカランから隣のマキマキとこそこそ喋りつつ、皆の様子を伺う。
「食べる順番とかあんのかな?」
「ナイフとフォークですよねコレ? このお米みたいなのそのまますくって食べて大丈夫ですかね?」
「ワシはどうすればいいんぢゃ……」
「あぁ! 異界人の方々、お好きに食されよ。文化の違う方々の揚げ足を取るような事はありませぬゆえ」
まごまごしてる俺たちに気づいて、ボーニア伯爵がフォローしてくれた。
ホント良い人!
見た目通り!
それからは和やかに夕飯を楽しんだ。
細切れの肉が散りばめられた米の炒め料理。
ひと切れひと切れに肉の油がギュッと凝縮していて、噛むとその肉汁がジュワッと溢れてパラパラの米に口の中で混ざり、しつこくなくジューシー。
散りばめられた葉野菜の水分が、味の濃さを丁度よく調節してくれる。
あと騎士のみんなが言ってた、トマトスープを使った名物の魚の姿煮込み。
昔安いイタリアンで食ったアクアパッツァを思い出したけど、使われているハーブがココナツ風味の辛さを出しつつ、淡白でプリプリな白身によく味が浸み込んでなんというか……、
チョー美味い。
サラダも、舌がピリピリする酸っぱいドレッシングが噛むたびに野菜の甘みを引き出していた。
ムシャムシャと食べる俺を見て、ボーニア伯爵は上機嫌なようだ。
「良い食べっぷりですな! 仮面の戦士殿に妖精殿!」
ふと見ると、アグーがバクバクと食い散らかしてマキマキが頭を抱えてる。
「仮面を着けられたまま食事をするとは、何とも不可解ですな。こちらも一杯いかがか? この地方自慢の酒ですぞ」
酒を進めてもらった。
「じゃあ一杯だけ」
「一杯だけ?」
「いやあ、酒で失敗したことがあったんで自粛してるんスよ。最初は禁酒してたけど、頑張った日は一杯くらい呑むのが男の嗜みって言われたことがあって」
「ハッハッハッ! 英雄殿が一気に身近に感じられますな! そうそう、頑張られた日と聞いて思い出しました。どうも道中で赤龍を討伐されたとか……」
ボーニア伯爵にお願いされて、関所の件や王都防衛の話を皆でした。
伯爵だけじゃなく、他の家来の人たちも興味津々で聞いてくれて、ついついいつもの調子で喋っちまった。
マキマキに叱られたけど、伯爵領の人たちは楽しんでくれたみたいで良かった。
◇◆◇◆
食事会が終わって風呂に入り、今はシソーヌ姫の部屋でトランプをしてる。
面子はシソーヌ姫と俺たち異界人組にアベイル隊長、アルマの6人だ。
部屋の外は騎士さんが2人、交代で見張りをしてくれてる。
「カブラギ楽しそうだったねー……そろった!」
「まあなぁ……こっちの人たちって良い人ばっかだよな。あ! くそ」
「ホントですよね。ん!」
「ババ引いたな……確かに、人族は善良な者が多いようぢゃの」
「たまたまさ、善人もいれば悪人もいる。それは元の世界もそうじゃないのかい?」
「聖王国周辺は特にオウゴン教の教義が浸透していますからね。……アガリです」
「早くない!? でもボーニア伯爵ってイメージと全然違った! 戦争前から凄腕で鳴らしてたって聞いたから、もう少しおじいちゃんかと思ってたよ!」
「おじいちゃんって年齢でもないだろ? あぁもう!」
「親戚のおじさんって感じでしたね。アベイルさんの遠縁なんでしたっけ?」
「マキマキ分かりやすすぎるぞい……よし!」
「叔父上は昔からあの見た目なんだ。本人は若作りしてるだけって言ってるけど……ボクもアガリだね」
「ゼギアス大皇国には歳を取らない貴族もいるって聞いたから、そういう薬があるのかも……またそろった!」
「まあ、エルフなんて長生きの人たちがいるくらいだから別に驚かねえけど……くそ」
「ホント地球と違いますよね、新鮮で楽しいですよ。オワリ!」
「戦後の処理など、これからが大変ぢゃろうがのう……、まぁこちらの人々は逞しいようぢゃし道徳観もしっかりしておる。よっしゃおわりぢゃ」
「んー……、私たちは三人の世界を知らないからわかんないけど……こっち!!」
明日も早いし、そこそこで切り上げて解散した。
俺が負けた。




