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第23話 商人のやり取り


 目の下にクマのある、黒髪アジア系で30代後半くらいの優男が店に入ってきた。

 辛子色の中華服みたいな服を着て、登山用みたいなリュックサックを担いでる。


「しょうゆ顔って感じの方ですね。こっちじゃあまり見ない感じ」


 マキマキがそっと耳打ちしてくる。

 そう言われて優男の顔を見ると、少し驚いたように目を見開いてた。


「驚いたかぁ? ユウゲン商会の。変わったカッコしてんだろ? ウワサの異界人御一行さまだ」


 カークスじいさんがそう言ってパイプを吸い、口からモワッと煙を出す。


「……あ、ハイ。そうですね、こちらでは見かけない格好で驚いてしまいました。すみません。私ユウゲン商会の会頭でユウゲンと申します」


 丁寧な挨拶をされて、俺たちも頭を下げる。


「カブラギです」


「海崎です」


「妖精アグーですぢゃ」


 今度は俺がマキマキにこそっと耳打ちする。


「……マキマキ、会頭ってなんだ?」


「社長さんってことですよ」


 小声で返すマキマキだが、ユウゲンさんには聞こえたみたいで、


「会頭といっても個人でやってますので大した事はありません。商業ギルドに登録するために商会を立ち上げただけですので」


 って謙遜された。


「そんな事よりも、国を救った英雄にお目にかかれて光栄です。顔を覆った赤い兜の戦士のお方、それに天使様と聞いていましたが、いざお会いすると成程その通りというところですね」


 ユウゲンさんは笑顔でそう言うと、カークスじいさんに向き直る。


「失礼しましたカークスさん。お時間をいただいてしまいまして」


「なに、構ねえさ。流れの商人には顔つなぎも大事な事だろうよ。じゃあさっそく商品を見せてもらおうか」


 カークじいさんが台に左手を付いてのっそり立ち、2メートルは超えてそうな身体をのっしのっしと揺らしながらこちら側に来ると、俺たちの横にある、商品が乱雑に置かれた長テーブルの端を拳でダンッと叩く。

 するとテーブルが縦にクルリと半回転して、何もない面が出てきた。

 マキマキがびくびくしてる。


「並べてくれ」


 俺たちは3人で円陣を組む。


「どういう仕組み? どういう仕組み?」


「知らん知らん、魔法ぢゃ魔法ぢゃ」


「あのおじいさんコワいんですけど」


 小声で俺たちが喋ってるのを意に返した様子もなく、ユウゲンさんは担いでいたリュックサックを降ろして中から商品を出し始めた。

 ひょいひょいと出してるが、どうもリュックサックよりデカいものもあるし、量もそんな入んねえだろってくらい多い。


 俺たちが興味深そうにその様子を見ていると、


「量の多さが気になるか? 今国都はこないだの防衛戦で物資が全然足りてねえ、でも仕入れ金はある。だから他所から商人が山ほど売りモン持って集まってんだ。金が他所に流れんのは国にとっちゃ痛手だが急場は凌がなきゃならんからみんなバンバン買う。他所モンも全部じゃあねえが多少は金を落としていく、一時的に好景気到来ってわけだ」


 魔法のリュックサックが珍しかっただけだが、誤解したカークスじいさんが国都の現状を教えてくれた。

 景気が良いのはいい事だけど、国内から金が出ていくのは長い目で見りゃ不味いね。

 コッチの世界は関税とかねえのかな?

 いやそれよりも……。


「通貨ってどうなってんだ? 他の国でも使えるとは聞いてるけど国ごとに出回ってる金って違うのか?」


「ん? ああそうか、異界人だから知らんのか。七大国が同盟した時に通貨は統一されたんだ。国ごとに使っていた貨幣はオウゴン教の中央教会が回収して統一貨幣と交換した……オウゴン教は知っとるか?」


 たしか執事のアルセーヌさんから勉強時間に聞いたな。


「一番大きい宗教って聞いてる」


「大陸で一番盛んで、いくつかある信仰の中でも母体となっている宗教組織ぢゃな。魔王軍が来る前は四年に一度、聖地で七大国の首脳と分派の教皇が集まり会談が行われていたらしいの」


 アグーが補足してくれた。


「そうだ。まだ各国の辺境じゃあ昔の貨幣を使ってる地域もあるが、そこでも統一貨幣は使える。だから今は大陸中から商人が集まって来てるってわけだ。ユウゲンも元はシュウ大帝国の出身だそうだ」


 シュウ大帝国ってたしか、最初に魔王軍と戦って壊滅した大陸七国だ。


「そりゃ……何というか……」


「いえいえ! 当時は辺境の方に住んでましたので速やかに避難しました。その後は戦火を逃れて大嶮山を超え、ゼギアス大皇国の周辺で商売してましたのでお気になさらず」


 そう言いながらユウゲンさんはリュックサックから商品を出し続ける。


「ずいぶん入るんですねぇそのカバン」


「多く入るカバンは行商人の生命線ですから」


 マキマキが感心していると、ユウゲンさんが愛想よく答える。


「確かにそんだけ入る魔法カバンはめずらしい、ゼギアス大皇国には腕のいい魔工技師がいるんだろうな」


 パイプを咥えたまま、商品を検品するカークスじいさんが関心する。


「そうなんですよ……こちらで卸したい商品は全部です。いかがでしょう? ご希望があれば可能な限り追加も伺いますが」


「そうだな、出されたモンは全部買い取ろう。追加でマウントスコーピオン除けの粉を320グラム、あとハイポーションを8ビン足してくれ」


「かしこまりました」


 ユウゲンさんがリュックサックに手を突っ込んで、商品をテーブルに追加する。


「待ってろ」


 カークスじいさんは一度奥に引っ込む。

 取り残された俺たちにユウゲンさんが話しかけてくる。


「カークスさんはぶっきらぼうな方ですが、信頼の置ける方です。個人の利益だけでなく国全体の利益を考えて取引されます。二等地区の商業組合のまとめ役で、聖王国商業ギルドの重鎮でもありますから。こちらに出入りしていると一目置かれて商売もやりやすいんですよ」


 へぇ、あんなにパッと見は恐いのに。


「やっぱ人は見かけによらねえんだよな」


「大聖王国の国都に他からの商人が入ってきた時、いち早く取引の制限を決められたのもカークスさんです。商業ギルドに登録していない顧客への販売商品を限定してさらに一日の販売数も上限を定めたり、それが絶妙な数字なんです」


 奥からじゃらじゃら袋を鳴らしながらカークスじいさんが戻ってきた。


「そうしなきゃ国都が干上がっちまうからな。食いモンに関しちゃ制限ナシだ。商業ギルドに登録してる顧客にも制限ナシなんだから文句ねえだろ」


「ええ、全くありません」


 そう言ってユウゲンさんは重そうな袋を両手で受け取り、そのままリュックサックに放り込む。


「確認はしねえのか」


「時間の無駄ですね」


「フン」


 鼻を鳴らすとカークスじいさんは足元から木箱を拾い上げ、片手で抱えたままテーブルの商品をその中に入れていく。


「ほらよ、ご注文の品だ」


 その木箱を受け取って代わりに金の入った袋を手渡す。

 袋から金貨をテーブルに出していくつか取り、懐に仕舞うと残りをまた袋に入れて突っ返してきた。


「聞いてた金額よりもずいぶん安いようぢゃが」


 アグーがそう言うとカークスじいさんが、


「姫様からのお使いなんだろ? 今後ともご贔屓に」


 って言って最初の位置に戻ってパイプを燻らせる。

 コレがツンデレってヤツか。





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