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第19話 宮廷魔術師長の杞憂

別視点の続きです。


「……失礼を承知で申し上げます。異界人の方々が間者でない確固たる証拠はございますか?」


 口火を切るラムーベ辺境伯の言葉に余裕はない。

 結論を急ぎ過ぎているし、唯でさえ乏しい思慮がより浅くなっている。


「言葉が過ぎますぞラムーベ卿。魔王軍の間者ならば我らに手を貸す必要はなかった、彼らがいなければ国都は堕ちていたわけですからな」


 バラックは穏やかに、しかし言外に馬鹿な事を言わないでくれとたしなめる。

 しかしラムーベ辺境伯は論外の揚げ足取りを声に出し、それに反応したアベイル騎馬隊隊長が声を荒げる。

 それを皮切りに、会議室に怒号が飛び始めた。


 異界人の面々に不快感を感じている様子はないが、カブラギ殿は仮面をかぶっている為に実際のところは分からない。

 彼らを呼んだ宰相殿はこの場をどう収拾するのか。

 様子を伺うと、妖精と名乗るアグー殿に目配せをしていた。

 アグー殿はそれに頷くと声を上げて皆の注目を集めるが、飛び出した言葉にバラックは驚いた。


「おほん! 私は妖精アグーと申します。皆々様がご意見、いちいちごもっとも。今は大陸の情勢が不安定な時、国外の存在に情報が渡る危うさを考慮されるその心構えはさすが慎重と名高いジャラミ伯爵閣下ですぢゃ。ただ第三者の視点だけでなく我々異界人側の情報もあった方がよりご判断の精度も上がろうというもの、いかなるご質問にもお答え致しましょう。海千山千の皆様方なら答えの真偽も見極めて下さると考えておりますぢゃ。その上で我らが帰還の助力を改めて慮っていただきたく存じます」


 下手に出るとは。


 チカラを改めて示し、自身らを敵にするべきでないと脅しつけた方が帰還への協力を取り付けるには最短であろうに。

 知恵を駆使する猛獣……いや! この意図はまさか!


 バラックは玉座での、聖王から異界人への魔王討伐依頼を知らなかった。

 君主が頭を下げた事実は秘匿されるべきだったから。

 彼らが国の分裂を防ぐために、聖王国の事情を考慮するとまで考えが至らなかったのだ。


 なんと甘い事か……いや、慈悲深いのか。

 まるで正義の使者ではないか。


 論議は続く。


 ラムーベ辺境伯は魔物に謀られて自領を蹂躙された事が余程こたえたようで、異界人を信用できないと責め立てるが、妖精アグーの返答に答えを窮す。


「ラムーベ辺境伯は魔王軍の間者にしてやられましたからな。妖精殿がいかようにおっしゃろうとも平静ではおれぬでしょうて」


 そこにジャラミ伯爵がラムーベ辺境伯に嫌味をこぼす。


 中央に近い領を任されているジャラミ伯は、辺境でお山の大将を気取っている同格のラムーベ辺境伯を以前から見下していた。

 同じく自領を蹂躙されたジャラミ伯は同格のラムーベ辺境伯をこき下ろすことで、自分の失態を薄めようとしたのだろう。

 しかし思わぬところから弁護が入った。


 妖精アグーが、ラムーベ辺境伯が自領を失った事は過ぎた事と断じ、追い詰められた中で領民を半数以上国都まで避難させた事を持ち上げたのだ。

 確かに彼は気前が良く、正義感が強く、他者に甘い。

 見前も悪くなく、才覚は乏しいが目下の者に慕われていた。

 事実、国都防衛において辺境の避難民たちの士気は高かった。


 これにはジャラミ伯も恥をかかされたように見えたが、妖精アグーはジャラミ伯すらも持ち上げた。


 敵の軍勢を確認後、早期の撤退戦。必要な物資をまとめ避難民の為に高価な魔導具や聖水を惜しげも無く使い、防衛に不向きな商業都市でなく、国都で敵を迎え撃つ戦略眼の高さを見事と評したのだ。


 バラックは知っている。


 ジャラミ伯は臆病な男で魔王軍の動きを常に気にし、戦いなどしたくなかった。

 周りの領地に物資の支援もしていたが、自分の代わりに魔王軍を追い払わせる為だった。

 それが叶わないとみるや溜め込んだ財産物資を抱え込み、領民を連れてほうぼうの体で逃げてきたのだ。

 高価な魔導具を惜しげもなく使ったのはケチな性格だが、命の方が大事だから。

 避難民が傷つくのを避けたのは領地に再び戻れた際、生産性が損なわれるから。

 財産物資を国都防衛に全て提供したのも実は当初渋っていたのだが、命には代えられないと折れただけだった。

 しかしその自領を富ませる能力は確かで、実際に提供された物資がなければ10日も持ちこたえられなかっただろう。


 さらに論議は続く。


 一連のやり取りを静観していた、一番の厄介者であるゴラモ侯爵が妖精アグーに突っ掛かった。

 異界人たちが味方を増やすような、事実そうなりそうな場の空気に焦燥を覚えたのかもしれない。

 さらに言えば、国都が落ちれば膠着状態だった魔王4将軍の《剛腕》を背にし、残った聖王国全土を扇動する事で国都を奪還して代理王に収まろうとしていたはずだった(あわよくば新王を名乗ったのではないかとバラックは疑っているが)。

 しかし、異界人のせいで防衛に成功してしまった。


 この功績で領主不在の地域を異界人が治めるかもしれない。

 そうなれば、自分に与してない異界人を擁護している派閥のチカラが自分を上回るかもしれない。とでも考えているのだろう。


 アグーはゴラモ候の言葉を一意見としつつも、民草こそが国を動かすと説いた。

 これにはゴラモ候もバツが悪そうにしたが、そのゴラモ候の当時の動向も正当化して他の貴族たちに評価を上げさせた。





 物事には二面性がある。


 良い面と悪い面が必ずあるのだ。


 本人たちが意図していなくとも、得られた利益を取り上げて彼らを正当化した妖精アグー。

 ゴラモ侯爵、ジャラミ伯爵、ラムーベ辺境伯は異界人に大きな借りが出来た。



「そのものを知りたければ、成した事柄で判断するべきですぢゃ」



 彼の言葉を思い出しながら、バラックは妖精アグー殿ならどんな手綱も握れるだろうと感心し、自身の不明を恥じた。


おじいちゃんも納得です。

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