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第13話 話し合うのも必要かなって思うのよ



――キョウジぃ!! 俺の命が燃える様ぁ! お前の(しん)に刻み付けろぉ!!


「アニキ! アニキぃいい!!」


『英雄ノ燃エル輝きソノ光り! ナ、ナ、懐かシイ! センチメンタぁル!!』


――俺は父さんと兄さんが引いた道を歩んだ……お前は! ご両親と俺が引いた道を行けぇ!!!!」


「嫌だよアニキ! 家族を亡くすのは! もう嫌だぁああ!!」


――甘えんなよスーパーヒーロー……マチ子とおやっさん、ガキ共をよろしくな・な・な・な――






 ん?

 

「カブラギさん、もしかして寝てました?」


 ふっと顔を上げると、マキマキが俺の顔を覗き込んでた。

 他の面々……シソーヌ姫、に抱かれた毛玉、顔色悪い中年、白い鎧のデカブツも視線を俺に向けている。

 馬が走る音。

 そこそこ広い微振動する個室と、向かい合わせの長椅子。

 馬車の中か。

 

「え? 寝てたように見えた?」


 たしか、みんなでなんか喋ってた途中だったよな?

 おいお~い……話し合いの最中に寝るとか最悪じゃ~ん。


「というか、あの……泣いてません、でし、た?」


 おずおずと申し訳なさそうに言葉をつなげるマキマキ。

 そう言われて思わず頬を触る。

 仮面付いてるよな?

 

「……全然? 気のせい気のせい。で、なんだっけ?」


 上手く話しを戻す俺を見て、みんな一応の納得を見せつつ空気を変えてくれる。


「まあ、カブラギにとって目先の気がかりであるオウゴン教、その本拠地へ向かっておるんぢゃ。夢に不安が出てもおかしく無かろうて。良ければフロイトの論に照らし合わせるぞい?」


「夢って怖いですよねぇ。自分なんか未だにブラック企業時代の夢見ますよ……未だにですよ?」


「ふむ……そういえば《胡蝶の夢》という逸話を仙人殿に聞かされた事があるな。内容は覚えておらんが」


「カブラギはのんきだねぇ。ま、そんぐらいが丁度いいかな?」


 ……寝てねえって言ってんのに。

 寝てたけど。

 

 でも、アスガイアーのヒーロー仮面の下を見透かすみんなに対して居心地の良さを感じるのもまた事実だ。

 付き合いはそんな長くないけど、全力でそれぞれと向き合った付き合いの濃さがこの空気を作ってんのかって考えるとまぁ、悪い気はしないかな。


「カブラギ殿! 眠たければ! その……私のヒザが空いておるが!?」


 進行方向の、ほろの外から声がする。

 馬を引いてるアルマだ。

 縦揺れに脳みそ揺らさせながら膝枕してくれるってか?

 もう、ホント優しいなアルマは。


「チッ! 色気づきやがって……」


 シソーヌ姫が黒さを出すのをスルーして、俺は背もたれに改めて体重をかけた。


「ありがとアルマぁ! また今度頼むわ! ……さ、何の話だっけか」


「もぉ、やっぱり寝てましたね」


「うん」


 隣のマキマキの頭をくしゃくしゃ撫でて、向かいの旦那とユウゲンさんを見た。

 すると、マキマキを挟んで座っていたシソーヌ姫が身体を乗り出して、眉間にシワをよせた目で俺を見る。


「オウゴン教の話だよ。カブラギが気にしてるってアグーが言うから」


 ああ、なるほどね。


「確かに。俺がびっくりしたオウゴン教の《大祈念》の話、みんなにはまだしてなかったな」


 この事に関して隠し事は無し。

 全部喋る。全部だ。

 

《過ぎたる悪に、明日を生きる資格なし》

 

 その言葉に対して思う事。

 俺の中で結論は出てないけど、正直俺は頭があまり良くない。

 じゃあさ、信用できる人間に打ち明けて、あの、ディスカッションっちゅうの?

 話し合うのも必要かなって思うのよ。


 自分の中だけじゃあ出せない答えを、仲間と探る。

 集団で生きる《人間》の強みっつうヤツだ。


 俺の中で一つの可能性が頭をもたげる。

 桜井さんたちUNAの物語・・では超エネルギーの衝突が異界への道を開いた。


 じゃあアニキが、初代アスガイアーがDrザンコックと刺し違えた・・・・・あのエネルギーの奔流。

 あれでアニキがこの世界に来てる可能性を考えるのは、俺の願望でしかないのかな……。


 分からねえ。

 分からねえ事は第三者の視点から意見をもらおう。

 道中はまだ長ぇんだから時間はあるしね。


「実はさ――」


「なんじゃなんじゃ? ワシも入れてくれや」


 引窓から、白い体毛をなびかせた女性が顔を覗かせる。

 

「プリンさん!?」


「そうじゃプリンじゃ。カワイイ名前じゃろ?」


 俺の驚きに対し、シシシと笑う獣人女性。

 みんながシソーヌ姫の顔を咄嗟に見て、注目を集めた少女が苦々しくうなづいた。


「まーたカブラギが粉かけ……おほん! カブラギ殿が友誼ゆうぎを広げられたようですね」


 シソーヌ姫がそう言うと、急に馬車がジグザグに走り出した。

 

「おっとと」


 揺れに任せてゴロンとプリンさんがほろの中へ転がり込んでくる。


「チッ!!」


 運転席のほうから舌打ちが聞こえた。


「なんじゃあ自分……そう! カブラギ言うたの! カブラギよ、外のんはつがい・・・か?」


 馬車の進行方向をアゴでしゃくるプリンさん。

 つがい?


「マキマキ、つがいって何?」


 こそっと聞いてみる。


「えっと、多分、アルマさんとお付き合いしてるのかって意味、だと……」


 俺はプリンさんに向き直って、誤解が解けるよう真摯に訴える。


「違うよ?」


「アルマ……」


 なんかシソーヌ姫が気の毒そうな声を出した。


「ほうかほうか! まあええわい! よっこいしょ」


 向かい合わせに並んだソファの間の床に、どっかと腰を落とすプリンさん。


「ワイドアムズ獣国が統括族長、プリン・ティーラマーヤじゃ。改めてよろしくのう」


 ザ・姉御って感じのケモケモしいお姉さんが、あぐらをかいて腕を組んだ。


「発つ前は簡易的なご挨拶しかできませんでしたね。私は聖王国第一息女、シソーヌ・ヒーメ・アークガドでございます。大獣国にて大陸全土に分布する獣人族百万の頂点に立つ、ティーラマーヤ大族長閣下へお目見えできまして光栄の至り。さあ、上席じょうせきへおかけくださいませ」


 シソーヌ姫が向かいのソファを手で差して、腰を掛けたまま深々と上半身を倒した。

 抱かれていた毛玉がヒザと上半身に挟まれて潰れそうになってるけどまあいいや。

 そんな事より大陸七国のボスとは出発する前に聞いてたけど、獣人族百万の頂点か……敬語使った方がいいかな?

 最初の言葉遣い修正するの恥ずかしいのよね。


「えれぇ堅っ苦しいのう大聖王国の娘っこ。そんなんええけぇ気さくに喋らんかい。なぁカブラギ!」


 あ、そうなの?


「そうだぜシソーヌ姫。プリンさんってば丁寧なの苦手みたいだし、相手に合わすのも大事だよ? なぁプリンさん!」


 シソーヌ姫が勧めた隙間をスルーして、俺の隣へ来るプリンさん。

 片方の席順がプリンさん、俺、マキマキ、シソーヌ姫(ヒザに毛玉)になった。

 因みに向かいはソレガシの旦那とユウゲンさん。

 

 プリンさんが俺の肩を抱いてガハガハ笑う。

 よーし、俺も楽しくなってきた!

 ガハガハ笑う俺ら二人を一定時間観察したシソーヌ姫が、鼻から息を大きく吐いた。

 

「まあいいか……ティーラマーヤ大族長閣下。身内の無礼に寛大なるお言葉、大変痛み入ります」


「まだ固いのう……まぁええわい。にしても、身内か。カブラギよい、ここにおる連中は知っとんのか? あの事」


「あの事?」


 ああもう!

 プリンさん黙っとくって言いながらスキだらけ!

 どうやら賢くないな?

 まあいいや。

 

「ああ。黒白の狂獣が誰なのかプリンさんにバレちゃった」


 俺が一人で抱え込むより身内にフォローしてもらった方がいいだろ。

 プリンさん口滑らせそうだし。


「バッカじゃないの! バ! もう! バカじゃん!!」


「痛い!」


「シーちゃん出てる出てる。素が出てるよ」


 腰を浮かせて俺を叱る姫。

 姫に毛をむしられるアグー。

 アグーを気にかけずに姫をたしなめるマキマキ。


「仲良さそうでええのう! ええのう!」


 それを見て笑うプリンさん。

 俺も便乗しようか。

 笑っとけ笑っとけ。

 

 




蛇足


シソーヌ姫が上席座ってなかったのは単純に、景色が良い方の窓際にいたからです。

アルセーヌさんが別行動なので、形式を気にして最初の席決めで促す人がいない為。

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― 新着の感想 ―
[一言] カブラギさんモテモテやねw オウゴン教とカブラギさんの元居た世界とのつながりは気になりますね。 今後の展開が楽しみです。
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