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第12話 あ、そうか。それもあるか。


 プリンさんに引っ張られて気が付くと、別の大聖堂にいた。


 砕けた大理石ぽい壁。

 削れた床。

 どうやら大陸東部の方に戻ってきたみてぇだ。

 でも、今もサジーさんとフリードリッヒさんの笑顔が目に焼き付いてる。

 

 マキマキが振り返り、大転移陣の中央へきびす・・・を返す。


「どこ行きよんじゃ!?」


 プリンさんがマキマキの片腕をつかんだ。


「サジーさん達がまだです!」


「正気かおどれ! もう遅いわい!」

 

 そのやり取りの途中で大転移陣の光が消えた。


「! ジャマを!」


「まったまったまった!」


 プリンさんへ食ってかかるマキマキの前に、慌てて割って入る。


「もう向こうには行けねえ。落ち着けマキマキ」


「落ち着け? なんで落ち着けるってんですか!?」


「とりあえず息を吐いて、吸うんだ。その後は今やるべきことを考えて、それに対して出来る事と出来ない事を思い浮かべてみな……頼む」


 フーフーと睨んでくるマキマキに、言葉を重ねる。

 しばらく見つめ合った後、俺の言葉がマキマキに浸透するのを待って言葉を重ねる。


「その中に、良かれと思って助けてくれたプリンさんを責める事は入ってるか?」


 俺がそう言うと、目に見えて落ち着くマキマキ。


「……でも、カブラギさんは平気なんですか? 自分の身代わりに、その、誰かが……」


 そうだな。言いにくいよな。


「誰かが俺のためにしてくれた事なら、先ずは《ありがとう》だ。意にそぐわない事だとしてもな。それにサジーさん達が死ぬところをまだ見てねえ。俺は見てねえ事は簡単に信じない事にしてんだよ」


「カブラギさん……」


「次に会ったら言おう。お礼と、でも今度からそういうの勘弁してくれって……信じようぜ。サジーさんとフリードリッヒさんはアレ・・だろ?」


 不老不死のヴァンパイア。

 とはプリンさんの前だとちょっと言えない。

 知ってる人は知ってるそうだけど、一応他人様の秘め事は自分からは漏らさない。


「そうですね……」


 マキマキは俺を見上げると、くるっとプリンさんへ向き直り、


「助けてくださったのに、すみませんでした。ありがとうございます」


 深々と頭を下げた。

 プリンさんはその頭にポンと手を置く。


「ええ気合じゃったで」


 そんで俺を見るプリンさんは、


「自分、芯が通っとんの。……良かっ、良かったらじゃけどの、その、なんちゅうか……む、ムコ……」


 急にそっぽを向いてごにょごに言い始めた。

 なあに?


「スンマセン、もう一回言ってもらえます?」


「なんも無いわい!」


 プイッとされた。

 聞き返されたりするのはお嫌い?

 気まず。

 さっきの轟音でまだちょっとガイアイアーの調子悪いんかな?

 俺がマスクの耳をこんこん叩いてると、獣人の人たちが走り寄ってきた。


「姐さん! 無茶せんとってくださいや!」


「そうッスよもう!」


「うるせえ!」


 走ってきた鹿の獣人さんを殴るプリンさん。

 鹿の獣人さんが殴られて床に倒れた先の視界に、いつもの面々がいた。

 

 ソレガシの旦那。

 ユウゲンさん。

 シソーヌ姫にアルマ。

 アルセーヌさん。

 ついでにソウリマンさん。

 あとはムル・バスタルフのチビ婆さんと妖精のリンリンちゃんだ。


 《ベノムアル》とかいうヤツらはもういない。

 キョトンと俺たちを見るみんなの様子に、俺とマキマキは大きく息を吐いた。


「行ってやんな」

 

 プリンさんが俺とマキマキの背中を叩く。

 やだオトコマエ。

 俺たちが一歩ふみだすと、チビッ子がパッと笑った。

 

「カブラギ! マキマキー!!」


 俺とマキマキをいっぺんに抱きしめようと、両手を広げて飛び込むシソーヌ姫。

 この欲張りさん!


「シーちゃん! 無事だったんだね!」


「当然!!」


 抱きしめ合ってクルクル回る少女二人を微笑ましく見守ってると、回るスピードが中々になってきた。

 俺はキリがねえなって思ってチョップを刺し入れ、回転を止める。


「《ベノムアル》とかいう奴らは?」


「カブラギたちが向こうに行った後は出てこなかったから、楽勝だったよ!」


 転んで後ろ頭を撫でるシソーヌ姫が俺の質問に答えてくれる。


「姫さまはいつも通り何もしてませんでしたが?」


「後半はね!? 前半の頑張りを称えて!」


 アルマもいつも通りだな。

 他のみんなにも目をやると、旦那とユウゲンさんがこっちを向いて親指を立てていた。

 俺がそんな二人に頷くと、シソーヌ姫が小首をかしげて答えにくい事を聞いてくる。


「あれ? サジーは?」


 マキマキと顔を見合わせて、ごほんと咳を一つ。

 

「実はちょっと、用事が出来てすぐ来れなくなったんだよ。あー……いや、ちゃんと言うわ」


 子供だけど、肩を並べられる仲間だ。


「サジーさん。あとフリードリッヒさんの二人は《暴虐龍》の攻撃で俺とマキマキの身代わりになった。安否不明だ」


「え……はぁ!? じゃあ助けに行かないと!」

 

 そうだ。

 サジーさんがいねえとシソーヌ姫の親父さんが復活できない。


「だな。サジーさんがいねえと聖王さま復活できねえもんな」


「……あ、そっか。それもあるか」


 おお……。

 そうか、このコは純粋で肝が据わってるくせに、自分の事情よりも他人の心配を先に考えるんだった。

 無意識で。

 聖王さま、この反応見たらどう思うかな?

 寂しそうにしながらも誇らしく思って笑うんだろうな。


「お待ちください」


 内心感心してると、アルセーヌさんが燕尾服を揺らして俺とシソーヌ姫へ近寄る。


「元あるじの生命反応ですが、確かにございます。サンジェルマン卿、フリードリッヒ殿。共に消滅は免れたかと」


 おおそうか!

 アルセーヌさんはサジーさんの眷属だからそういうの分かるのね!


「なぁんだ! なぁんだ……はぁ。じゃあ俺迎えに行ってくるわ」


 大嶮山だろうが、戦闘フォームならひとっ跳びだぜ。


「お待ちくださいです」


 さぁ行こう! ってところに、仙人ぽいおじいちゃんに止められた。

 サジーさんの眷属のカツゲンさんだ。


「カツゲンさん。ついてきたいんスか?」


 ご主人が心配なのかなって思って聞くと、カツゲンさんは長いアゴ髭を揺らしながらゆっくり首を横に振った。


「何事かありました場合、主より言付けを受けておりますです。それによれば、別行動はアルただ一人にさせるようにと。主が同行できぬ事態になれば、わたくしカツゲンが《神霊薬》を精製するようにとの事です」


 ぼそぼそと喋るわりに通る声で言うカツゲンさん。

 それを聞いて、アルセーヌさんは腰に手を回したままシソーヌ姫に視線を向けた。


「なるほど確かに。私がこれ以上ムリに同行する必要は無さそうですしね」


 アルセーヌさんを見上げるシソーヌ姫。

 

「えぇ……アルセーヌ別行動するの? 寂しいなぁ」


「申し訳ありません姫様。アルマ様、私が離れている期間よろしくお願い致します」


「承りました。サンジェルマン卿は大聖王国の尊き友人でもあります。言うまでもありませんが、必ずサンジェルマン卿の御身の保護を」


「言われるまでも。宿の手配、道中の交渉事はユウゲン様がいらっしゃれば問題ありませんね?」


「ええまぁ、雑務は自分が担当しますよ。お給料分は働きます」


「護衛などの荒事も、ソレガシ様がアルマ様を補ってくだされば安心できます」


「うむ。当然である。仙人殿もそう期待しておろう」


 最後にソレガシの旦那とのやり取りを終えると、アルセーヌさんが満足そうにうなづいた。

 引継ぎは終わったかな?


「じゃあそっちは頼んだぜアルセーヌさん。でもなんかあったら言ってくれよ? 通信魔導具ってやつで連絡してくれ」


 俺の提案にアルセーヌさんが険しい顔で首を振る。

 

「それは止めておきましょう。白仮面どもならば通信を傍受するくらいの事はしますでしょうし、恐らく暗号なども意味を成しません。こちらはこちらで何とか致しますのでカブラギ様方は《神霊薬》の作成と、姫様を無事に七国会議の場へお連れすることに専念してくださいませ」


 むぅ。

 そうか、アルセーヌさんがそう言うならそうしよう。

 あ! でも。


「あ! でもさ、暴虐龍ってヤツがこっちまで追ってくるって事があるかも」


 俺の懸念に、アルセーヌさんは泰然として頷く。


「暴虐龍は赤子のような気質でして、一度ブレスを吐けば疲労で睡眠を優先させると聞き及んでおります。しばらくは問題ないかと。他の龍種も、大転移陣付近の大嶮山に張り巡らせた聖結界を越える事は敵いません。当面の危機は去ったとお考え下さい」


 ふうん。


「分かった。じゃあみんな疲れてるだろうし、とりあえず休もう。西側の人らもすぐには出発しねえだろう? おーいリンリンちゃん!」


「呼んだ!?」


 ピュンとすぐ飛んできてくれる妖精ちゃん。


「これ大司教! 挨拶の途中ですぞ!」


 向こうで竜人の兄さん方と喋ってるムル婆さんのお叱りをスルーして、俺らの周りをクルクル回る。


「なあに? アタイに御用事? 役に立つオンナよアタイは!」


 ちっちゃいカラダを仰け反る妖精さん。


「他の人らに俺らの紹介してくれよ。気の良いヤツらだって」


 西側の偉い人らに顔を繋いでおかねえとな。

 味方は多い方がいいんだ。


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