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第10話 秘密バレ 


 血が壁に模様を描き、臓物の匂いが鼻をつく。


 転がっているのはテロリストの過激派たち。

 プリンが肩で息をしつつ見下ろすのは、その重鎮で深藍色の軽鎧をまとった白仮面の男テイアンペイだ。 

 プリンは仰向けに倒れているテイアンペイの足を踏み砕く。


「くっふっふ」


 乾いた音を立てた自身の足を意に介さず、ただ笑う白仮面に気味の悪さを感じつつも、その理由に思い当たった。


「余裕じゃのう……ああ、魔術で逃げれるんじゃったか」


 ならばと次は、両腕を順番に踏み砕いた。

 たしか大皇国の通信で聞いたところによると、白仮面の転移術師は仮面を割れば倒せるとかなんとか。

 両腕両足が砕けた今、転移術は行使できないだろうが万が一はあるかもしれないと考えた。

 プリンは右の爪を振り上げる。


「大族長殿、それはまだ早いと存ずる」


「……わぁっとるわい」


 シクロ・テガフールの制止を受けて、トドメを刺す寸前で思いとどまった。

 そういえば大皇国からの通信で、白仮面の転移術師は復活する可能性があるので殺さず捕縛が望ましい。とも言っていた気がする。

 そして自分は「任せておけ」と言っていた気もする。

 危なかった。


「オウ、楽に死ねる思わんこったのコラ。集会ん連れてって吊るし上げたるわい」


 プリンはテイアンペイの胸倉をつかみ、白い仮面を自分の額まで近づけて睨みを効かせた。


「くふふ。ワタクシは特別でしてねぇ……」


「あん?」


 その言葉にプリンが疑問をもった瞬間、テイアンペイの軽鎧から煙が噴き出す。

 テイアンペイの身体はみるみるしぼみ、最後には白仮面が粉々に割れた。

 残ったのは、抜け殻のようになった深藍色の鎖かたびら・・・・だけだった。

 

「は、勝手に死によったで」


 振り返ったプリンが視線を送ると、シクロは腕を組んで難しそうに唸る。


「むぅ、仕方ありもうさん。拙者らが知らぬ手段もあって当然、ここは手勢を退けただけでもと致そう。過激派の幹部も数名は捕縛できそうでありもうすしな」


 やや遅く、聖堂の入り口から亜人の何名かがドカドカ入ってきた。

 一瞬警戒するが、亜人たちにシクロが手を上げて指示を出していく。


(シクロの舎弟共か、ややこしいのぅ)


 名札でも付けておけと思いながら、プリンは自分の手下共の様子を見に行く。


「どうや? 何人死んだ?」


 カドタースが顔を伏せて答える。


「レヌドマのオジキが。テスライカのオヤブンも、じきに」


「そうけ」


 プリンは若い衆に回復魔術をかけられている、上半身だけになったサイ獣人のテスライカに歩み寄る。


「ぉお、姐さん。不覚をとりましたわい」


「今まで、ごくろうやったのぅ」


「はっは、この歳になって、勝ち戦で死ねる儂は果報者ですわい」


「娘夫婦の後見はお前の弟に移す。安心せい……トドメはいるか?」


「大族長直々にとは、贅沢ですな……頼みますわい」


「じゃあ、またの」


 プリンはテスラカの喉を引き裂き、血のついていない方の手で目を閉じさせた。


「坊さん引っ張って《鎮魂の儀》してもろうとけ。レヌドマの分もな」


「了解ッス」


 テロリスト共は片付けた。

 プリンは息を吐きながら感傷に浸りつつ、一時間ほど前にまみえた黒と白の人獣を思い起こす。


(テスライカのじいも、レヌドマのオジキも、ワシの旦那選びに気ぃもんどったのぅ)


 回復薬を頭からかぶりながら魔人族のオウゴン教大司教が慌ただしく入ってきて、辺りを見回した後に《鎮魂の儀》の詠唱を始めた。


(下っ腹にクル・・ようなオスは今までおらんかった。でも、あん黒白の人獣はビッときよったんやけどの……)


 魔獣であろうがなかろうが、言葉を解して意思の疎通ができれば構わない。

 重要なのは強いか、そうでないか。

 あと下っ腹にクルかどうか。


 魔物は人族に敵意を持つと言うが、ねじ伏せて屈服させれば問題ない。

 獣人族はより《獣》に近い見た目に魅力を感じるのだ。

 野生の獣に欲望をぶつける同族もいるくらいだ。


(死んだやろから、考えてもしょうがねえの)


 プリンは溜息を吐きながら、聖堂に浮かぶ手下とシクロの部下、テロリスト共の魂を眺めていた。




◇◆◇◆




 歪んだ景色が形になって、下っ腹がヒュンてなる。

 相変わらず転移はジェットコースターみてぇだなって思ってると、小一時間前にいた場所に戻ってきてた。


「お、戻れた」


「ね? 戻れたでしょ?」


 ドヤッてるマキマキの頭をクシャクシャ撫でて辺りを見回した。

 戦闘は終わってるみてぇだな。

 亜人さん達と獣人さん達がユルユル鎮魂の儀をしたり、怪我人に回復薬を飲ましたりしてる。

 あ、俺らが敵じゃ無いって言わないと。


「お疲れ様ですぅ!」


 俺がしっかり頭を下げて挨拶をかますと、白オオカミの女の人がダッシュで近づいてきた。

 やっべ! また攻撃されるか!?


「生きとったんかワレぇ!」


 あれ? 嬉しそう?

 敵意も無いし。


「あん仮面野郎に飛ばされて死んだか思とったわ!」


 肩、肘、太ももとバシバシ叩かれて、ニカッと笑顔を向けられた。


「ど、どうも」


「災難やったのう! 安心せい! ワシが後見になったるけぇの!」


「こ、後見?」


「守ったるっちゅうこっちゃ!」


 んん?

 誤解が解けたのはいいけど、急に友好的になりすぎじゃない?

 メチャクチャ機嫌いいじゃん。

 俺が首を45度に捻ってると、うろこがスゴい角のお兄さんが声をかけてきた。


「お主ら、さては《銀伯爵》殿より聞いておる異界人であろう? 赤い戦士と幼き蒼の天使……なるほど、その通りの見目でもうすな」


 なぁんだサジーさんの連れか。

 連れの連れは連れだ。


「お、幼き?」


 マキマキは不服そうだけど無視する。


「そうですそうです。なぁんだ聞いてたんスね。サジーさんは?」


 鱗の角お兄さんが両手を差し出してくる。

 とりあえず握手ね? おっけおっけ。

 両手でシェイクハンドだ。


「銀伯爵殿は外周で露払いをしておりもうす。大皇殿も同様だ」


 そっか、良かった。

 サジーさんと合流できねえと来た意味がねえもん。

 俺がホッと肩のチカラを抜いてると、白オオカミのお姉さんが耳元に顔を近づけてきた。


「自分、本当は異界人や無いやろ?」


 は?

 突然そんな事を言われて慌てて否定する。

 異界人だし。


「異界人スよ? なんでです?」


「……黒白の狂獣」


 血の気が引く。

 知ってたのか……。


「大丈夫じゃ! 黙っといたるわ!」


 肩をバシバシ叩いて、人懐っこく笑う白オオカミさん。


「ワシけっこう偉いけえの! なんかあったら頼り! ああ、名乗って無かったのう、ワシはプリンや、プリン・ティーラマーヤ」


 カラカラ笑う快活さに、弱みを握られてんのを忘れそうになる。


「プリンさんスか……カワイイお名前ッスね」


「カブラギさん!?」


 俺の素直な感想にマキマキが大袈裟に反応した。

 何よ?


「ほうか、ほうか! カワイイか! 嬉しいのう……嬉しいのう!」



 ゴオオォオオオン!!



 大聖堂が揺れた。


「警戒せよ! スコティッシュ大司教殿!!」


「ええい皆まで言うな! 大転移陣の修復を急ぐ! 有象無象! 補助に周るべし!」


 猫背の魔人族さんが大転移陣があった場所まで走り、魔術師ぽい人らが後に続いてなんかモチャモチャ始める。

 慌ただしく場が乱れる中、建物内に聞きなれた声が響いた。


『おっほっほ……踊れや踊れ、哀れな割り木。嘆きも慟哭も要りませぬぞぉ』

 

 ハンショか。

 入り口からサジーさんを先頭に、頭巾を被ったちっちゃい女の子と数人が慌てて走ってきた。

 サジーさんお抱えの執事、フリードリッヒさんもいる。


「カブラギくん!? マキマキさんも!」


「サジーさん! フリードリッヒさん! 久しぶり! 何があった!?」


 サジーさんが慌てるなんてレアだ。


「うん! 前に白仮面が赤龍を操ってたって言ってたよね!?」


「言った!」


「言いました!」


 サジーさんは俺たちの前まで来ると立ち止まり、チラッと天井を見た。


「龍への対策はしてたのさ、うん。でもね、まさか、あんなものまで連れてくるなんて……」


「あんなもの?」


「《暴虐龍》さ」


 小さい頭巾の子がサジーさんの袖を引っ張った。


「師父よ! そのような者共に構もうておる場合か! 大転移陣が再接続の補助にまわらんか!」


「そうですね、うん。ごめんよ二人共」


 サジーさんが猫背の魔人族さん達の所へ走る。

 その背中を見送り、頭巾のチビッ子へ声をかけてみた。


「お嬢ちゃん、暴虐龍ってヤツが来たのか?」


「無礼者!!」


 ええ……なるべく優しく声かけたのにすごい剣幕。

 チビッ子に侍ってたヒゲ長のおじさんがそっと近づいてくる。

 あれ? 見た事あんなこの人。


「サイベリアン伯爵さま……ですよね?」


 マキマキの言葉に記憶が刺激された。

 ああ、確か魔防都市メサルテの偉い人……大皇国の貴族だっけか。


「救世の戦士様は謁見へ来られなかったのでご存知無いでしょうが、この方こそがゼギアス大皇国が大皇であらせられる、アビシニアン・ディア・ゼギアス陛下その人であります」


 うそ。

 そういや俺ってば偉い人とか苦手だから、みんなが大皇国で謁見に行った時は留守番してたのよね。

 大皇様の見た目は小さい女の子みたいって言ってたっけか。


「スンマセン。偉い人って知らんくて」


愚昧ぐまいの弁明など耳にしておる場合でないわ! 貴様ら! 大転移陣の再接続を急がんか!」


 感じ悪ぅ。

 なぁにを焦ってんだか。


「サイ……伯爵さん。何があったんスか?」


「神話級の知恵無き龍種、大陸最強の魔獣で大災害そのものである《暴虐龍》が白仮面の手におちておったのです。この大陸西部の大聖堂も塵にされる寸前であり、急ぎ場を離脱する必要があります」


 威厳のある見た目の割に不安そうな顔で説明する伯爵さん。

 この人確か《崩国の姫》と対峙した時はもうちょい毅然としてたよな。

 という事は、アレ以上の脅威って事か。

 

 俺はガイアセンサーを強めに起動する。

 ……なるほど。

 こりゃ無理だわ。

 

 大聖堂の周りに多分龍が複数いて、一体バカみてぇに強いエネルギーのヤツがいる。

 ダルダム大首領とどっこいどっこいのヤツだ。

 

 そいつの内包エネルギーがみるみる上がっていく。

 ……やっべ。

 龍ってブレス吐くんだよな?


 水素爆弾に匹敵するエネルギーが上空に膨らんだ。



 



蛇足


自国に対し『大』という敬称は使いません。

テスライカ爺が《大族長》とプリンに言ったのはナイスジョークです。

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― 新着の感想 ―
[一言] プリン姐さん良いですね。 マキマキちゃんも気苦労が絶えませんね。 とか思っていたら、とんでもないレベルの敵の登場ですね。 次回も楽しみにしております。
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