第42話 三英雄VS終世の代行者
三者三様に構えて、終世騎士ザサールに向き合った。
スーパーヒーローの決めポーズを待つとは、礼儀はわきまえてるみたいだな。
「おっほっほ。これは期待できそうですなぁ……」
「ハンショさん。もういいかな?」
「お願いいたしまする……」
ザサールがバトラズソードを肩に抱えて突進してくる。
アスガイアーアイを起動しないと捉えられない程の速度。
でもなぁ!
「アスガイアぁ! ギガガードぉ!」
最強の盾だ!
これを砕けるモンなんて無え!
俺が繰り出した障壁に、大剣が片手で振り下ろされて火花が派手に飛ぶ。
「バトラズソード! 威力を示せ!」
両手で持ち手を掴み直したザサールの言葉に反応して、ギリギリと震えながら大剣がぼんやり赤く光った。
パキっと高い音が小さく聞こえて障壁に亀裂が走る。
「……オイオイ嘘だろ」
あったね砕けるモノ。
驚いたけど、戦闘中の不測の事態なんてしょっちゅうだ。
俺はガード役。
「サファイアロー! スターライトショット!」
アタッカー役は別だ。
即座にソレガシの旦那がマキマキを上空に放り投げ、弧を描きながらマキマキが超超速の一矢を撃つ。
撃ったの分かった。
でも白光の矢はガイアセンサーですら追えなかった。
まさに光速。もはやレーザービーム。
シャマカの攻撃とはチャージの速さと威力が違う。
超上位互換の攻撃だ。
ザサールの仮面の突起が折れて漆黒のスーツに大きく穴が空く。
でも油断はしない。
アスガイアーガードを解いて振り下ろされる大剣をバックステップで回避。
そのままバク宙して、後ろから繰り出された旦那のタックルを避ける。
肩を突き出した白銀のカタマリがザサールに衝突した。
「なんと!?」
大剣の剣先を前方に刺したまま、ザサールは頭頂部で旦那の突進を受けとめて微動だにしなかった。
マキマキが音も無く着地。
その間に終世騎士ザサールのカラダの穴は塞がって、ついでに折れた仮面の突起も伸びて修復される。
バギン!!
振り上げた大剣の腹に殴られた旦那が、ピンポン玉みたいにバウンドしながら弾き飛ばされていく。
あ、脇腹が空いた。
「デラストナックル!」
渾身の右フック。
それをザサールは左のヒジで叩き落とし、右のヒジで俺の横顔をぶん殴った。
景色がグルグル回る。
も、なんとか体勢を整えつつ片手をついて着地。
慌てて距離を取る。
すぐにマキマキが弓を構えたまま横に来た。
胸元のペンダントからは光が消えている。
「カブラギさん大丈夫ですか?」
「チョー痛てぇよ。マキマキ見た? 直ぐ回復したぞアイツ。どうすっかなぁ……」
ソレガシの旦那も後ろから走って合流してきた。
「むう。武器があればやりようもあるのだがな……」
「アタシも、さっきのでアグーからもらったジュエルパワー使っちゃいました……」
燃費悪いなぁ……。
旦那も素手だしな。
いや俺も素手だけど、旦那は武人さんだから武器があった方がいいよね。
「誰かに借りたら? 周りに武器もってる人いっぱいいるし……ああもう来たせっかちさん!」
ザサールが迫ってくる。
両拳にガイアエネルギーを集め、ギガガード並みに硬くして大剣の剣戟をいなして隙を伺う。
ガンガンと衝撃を感じながらも刃の直撃を避けるけど、アレな。剣戟が速すぎるな!
終世騎士になる前は振るう時に多少の重量感があったのに、枯れ木を振り回すようにドでかい大剣をぶんぶん叩きつけてくる。
手が痺れてきた。
剣速は鋭く重い。
その割に剣身に小回りを効かせて細剣のように扱ってくる。
大剣一本に対して両拳を使って防いでも、なおザサールの手数が勝ってきた。
このままじゃ追い付かねえぞ! 正直キツイ!
「誰か武具をお貸し願えぬかぁ!!」
旦那がギャラリーに向かって叫ぶと、その中の一人から剣が二振り投げられた。
パシンと両手でしっかり掴む旦那。
「我が双剣! 好きに振るえ!」
「有難く」
旦那が二刀流で構えた。
構えられた二振りの剣。
真っ直ぐ伸びた剣身は旦那の体格に比べると短く、一見心細く感じる。
でもソレガシの旦那が慣れた様子で構えたら途端に様になって見えた。
後ずさりながらザサールとの攻防をソレガシの旦那と入れ替わる。
両手の手首をグルグル回しながら、器用に双剣を振るって旦那がザサールの剣戟を食い止めてくれた。
今の内だ。
「マキマキ。これ使いな」
俺はガイアコアをこすってガイアシューターを出現させ、マキマキに投げる。
「これ……カブラギさんが使ってる銃ですよね?」
「うん。俺じゃなくても使えるんだよ。人によるけど」
マキマキが、ガイアシューターの引き金に指を添えた。
「なんだろう……凄く手に馴染みます」
そのままチャキっと銃口を前に向ける。
「やれそうです」
「よーし。第二ラウンドと行くか」
「はい!」
ピュンピュンとマキマキがガイアシューターを撃った。
超高温のガイアエネルギーが放射され、動き回るソレガシの旦那の脇や首筋の隙間を抜けてザサールに命中する。
びっくり。
「……なんで当たるんだ? 旦那の動きが分かんの?」
「そういうわけじゃないですけど、感覚ですかね?」
なんじゃソレ。
俺、射撃苦手だから羨ましいわ。
ガイアシューターを撃って攻撃を続けるマキマキ。
俺も攻撃の機会をうかがいながら右手にガイアエネルギーを溜めていく。
ガイアシューターの熱線を喰らっても、ガイアセンサーに反応するザサールの内包エネルギーにダメージはほとんど無い。
しかもジュエリールのさっきの攻撃、スターライトショットとかいうヤツの方がガイアシューターより威力が高いみたいでザサールの身体を熱線が貫通する事は無い。
でも貫通しない代わりに熱線が当たる度、ザサールの身体がほんの僅かに仰け反るから意味がないわけじゃ無い。
そんな隙を、旦那が見逃す訳が無い。
「超技! ソレガシ必殺・何度も小刻み切り!!」
目にも止まらぬとはこの事だ。
二の腕の先が消えるほどの速さで双剣を振るい、ソレガシの旦那が前のめりにピタリと止まった。
しかし、一拍の時を置いて砕けたのは旦那が握った双剣の方だった。
終世騎士ザサールのスーツにも数多の切り傷が刻まれるも、すぐに蒸気を上げて修復される。
そこで旦那が柄だけを残した剣をポイと手放して、ザサールにガッと組み付いた。
「カブラギ殿ぉ! やれぇ!!」
背中をこちらに向けた旦那の言葉に、ピンとくる。
「了解だ旦那ぁ! アスガイアァ――」
「カブラギさんダメぇ!!」
マキマキの制止を聞き流し、右手に溜めてたガイアエネルギーを硬質化。
更に背中とヒジからガイアエネルギーを一斉放射して加速をつける。
「――ギガパぁあンチぃぃいいいい!!!!」
今の戦闘フォームでできる、最大の攻撃。
それを旦那の背中に振りかぶった。
そのまま右拳を前に出そうとした瞬間、旦那の鎧が上半身と下半身にバカっと割れる。
その隙間を縫うように一直線。
カラダごと終世騎士ザサールのどてっ腹に……叩きこむ!!!!
「おらぁあああ!!!!」
――――ドッ!!!!
直近にいるにも関わらず、遅れて響く打撃音と確かな手ごたえ。
終世騎士ザサールはマスクから黒い液体を飛び散らせて景色の彼方へ消えていった。
「……ふう! やったか」
俺は拳に残った感触を確かめながら手の平をグッパグッパして、飛んで行ったザサールがガイアセンサーの範囲から消えたのを確認した。
「見事! やはり連携とはチカラを大幅に発揮できるモノであるな!」
旦那の上半身が下半身に着地。
満足そうに頷きながら俺に歩み寄ってくる。
「てっきりソレガシさんごと攻撃すると思っちゃったじゃないですかぁ!」
プンスコしながらマキマキも寄ってきた。
旦那の鎧は中身が空っぽだからできる奇襲だな。
「俺が旦那をどうにかするわけねえじゃん」
「さよう。それに、某が死ねばマキマキ殿は悲しむであろう?」
「もう! そうですけど心臓に悪いですよぉ!」
さて、緩い空気はここまでだ。
俺たち三人は離れた位置で様子を見てた、今回の元凶に向き直った。
「残念だったなこの野郎……お前の企みはぜぇんぶご破算だざまぁみろ」
ボロきれをまとった猫背の仮面男、ハンショが黙って佇んでいる。
「助けてママ~って泣いても許してやんねえからなコラ」
軽口叩いてみるけど、正直ハラ立ちすぎてヘソがカッカしてるぞ。
俺の言葉に返答せず、黙ってハンショは黒渦を出した。
逃げる気か!?
「てめ! え……ぇえ……」
逃がすか! って思って身構えたところで、言葉がつまった。
黒渦から漆黒のスーツを着た仮面の男が出てきたからだ。
「スゴイねカブラギくん! こんな痛かったのってそうないよ! 内臓が弾けたらこんな感覚になるんだねエルンの気持ちが知れて嬉しいな! ソレガシさんも初めて武器を使ったところ見たけどあんなに見事な剣さばきは地界でも四天王のサネモリくらいだよね! マキマキさんの遠射能力もこれまた見事だよあの速さで動き回る味方の背後から標的に当てるなんてさ! それにしても痛かったなぁでも痛いって生きてるってことだから素晴らしい事なんだよね! 何事にも感謝は必要だし今後は死ぬ人たちが生きてた事に感謝するようなるべく痛く――」
「おっほっほ……ザサールさまその辺で」
「……そうかい?」
《蛇足》
双剣を投げたのは剣聖って呼ばれてたおじさん。
第三章第10話でソレガシさんが撃剣も使えるって言っていたので使ってもらいました。
ガイアシューターは第一章アスガイアーの⑥でマチ子も使ってました。
マキマキの手に馴染むようです。
ソレガシの旦那が上半身下半身の分割を思いついたのはジオルグが斬られたのを見て。
そのうちロケットパンチとかするかも。




