第41話 オウゴン教の祈り
「我が名は終世の騎士! ザサール・ビブラ・エクセリード!! 地上と! 地界! その全てを魔素に還す! 世界に終わりを告げる代行者なり!!」
大剣バトラスソードを天に掲げて、ザサールがなんか叫ぶ。
その横でハンショが楽しそうに手をパチパチ叩いた。
静まり返った戦場に乾いた拍手の音が寂しく響く。
その中でいち早く反応したのが魔王軍側の一人、鎧を着た黒い肌のトロルだった。
「その名乗りはエクセリード家当主、本人と受け取って差し支えありませんな!? 身分を偽り別行動を取った上! その宣言は大魔王陛下への反逆とみなしますぞ! 皆の者! 閣下を捕らえろ! 我に続けぇ!!」
徐々に歩速を速めながら、三つ又の矛を振り上げて黒いトロルがザサールへ躍りかかった。
「バカ! やめろ!!」
俺の制止も聞かず、矛を振るうトロルの身体に一陣の風が吹く。
黒いトロルは走りながらバラバラと身体を微塵にして崩れ落ちた。
その様子に言葉を失っているトロルやオーガ、ゴブリンの一団に対してザサールが大剣バトラスをもう一振りする。
数十の魔物達が細切れに弾け飛んだ。
グロい。
凄惨な惨状にマキマキを気にするも、しっかりと目を見張る少女に覚悟を感じた。
ダンジョンの時とは違う。
状況によって心を置くべき場所へ置ける精神力に、マキマキの辿ってきた人生を垣間見た気がした。
「カブラギさん。あの形態って……」
終世騎士ザサールを見据えたまま、マキマキが俺に問いかける。
「ああ。あの形態はガイアコアに負の感情だけが溜まりに溜まった時に変わるヤバいヤツだ。一度だけ元の世界で見た事あるけど、俺の先輩アスガイアーがギリギリで相打ちしてた」
「ギリギリで、ですか」
「ギリギリで。ちなみに、先輩アスガイアーに俺は勝ったことない」
「じゃあ……あのザサールさんに勝ったら先輩を越えられますね」
「ふぅ! ポジティブぅ!」
確かにアニキは最終フォームには最後までならなかった。
それに、アニキは一人だった。
俺はその時は数に入んないほど雑魚だったからな。
俺は今、マキマキと二人。
相手も終世騎士ザサールとハンショの二人だけど、仲間と肩を並べるってのはやっぱいいモンだ。
「あの時とは状況が違うしな。あの時は仲間に、魔法少女ジュエリールはいなかった」
マキマキから柔らかい空気が漂ってくる。
「ですよね。でも問題は、巻き込まれる人たちがいる事です」
そうだな。
武器を構えつつ近寄りあぐねている周りの人たち。
アッキンド大商国の精鋭だけあって、確かに強い。
ゴラモコーさんとゴリンさんが連れてきた大陸連合の人たちもかなりのエネルギーを内包している。
でもちょっと、この場の加勢を頼むには荷が重いかなぁ……。
「救世戦士さま! 助太刀を!」
さっきの禿げたおっさんが空から降ってきて俺の後ろに着地した。
言ってる間に加勢への自己申告。
この人も実力者だけど、終世騎士相手じゃ正直足手まといだ。
「いや、気持ちだけもらっとくよ。離れて見てて」
「我が命で刹那の隙を作りましょうぞ!」
発想がおかしいな。
あ、そうだ。
「それよりおじさん、これから敵の親玉と決戦に入るからさ、周りの人らが邪魔しないようにできるかな?」
このおっさん、発言力がありそうだ。
「容易い事であります! ……そちらに伴っておる娘は……まさか!!」
ああ、気づいちゃった?
「そうそう。恰好が違うけど、天使マキマキさま」
「カブラギさん!?」
おっさんがはらはらと泣き始めた。
「おお……これぞ主神のお導き……我が生は! 今この時の為にあった!!」
おっさんが魔法陣を上空に展開し、腕輪を付けた左手を掲げて右の拳を胸に添えた。
「あれ? あのブレスレット……」
マキマキが、おっさんの神官服の袖から見えるブレスレットに反応。
ああいうのが好きなのかな?
女のコだもんなぁ。
今度カジノで大勝ちしたら買ってやるかな。
「オウゴン教の! 敬虔な先導師としてこの場の者全てに宣言する! 救世の戦士をはべらせし天使マキマキさまが降臨された!! 悪の首魁を討たんと現世においでなさったのだ!!」
何人かの人たちが歓声を上げた。
見た事ある虎毛の獣人さんも混ざってる。
「これは聖戦である!! 神歴に刻まれるこの時を! 何人も邪魔立ては許されぬ!! ただ刮目せよ!! そして祈るのだ!!」
朗々と声を響かせて、おっさんが最後に胸に添えていた拳をドンと胸に打ち据えた。
「過ぎたる悪に! 明日を生きる資格なしと!!」
え?
「祈れぇ!!!!」
おっさんの怒声に呼応して、複数の人たちが胸を叩きながら「過ぎたる悪に明日を生きる資格なし」って繰り返す。
オウゴン教の神父さん達がそれに続き、やがて場のほとんどの人が同じように言葉を重ねた。
過ぎたる悪に、明日を生きる資格なし。
聞きなれた言葉の大合唱に混乱しつつ、不思議とガイアコアにエネルギーの蓄積を感じる。
うれしかったり、頑張ろうって気分になっても応援エネルギーは溜まるんだ。
なんでこの世界の人たちがその言葉を言うのかという疑問は、ある。
でもそんな事よりも、アニキの決めゼリフが強敵に対してほんの少し残った不安を埋めてくれた。
アニキは、いつでも俺に、勇気をくれる。
「アニキの想いはぁ! ここにある!!」
たまらず俺も胸を叩いた。
合唱が止んで歓声が上がる。
それを聞いて今度は英雄エネルギーがガンガン溜まった。
よし!
「変身!! 戦闘フォームぅ!!!!」
拳を握って、ポーズ。
その右横にマキマキが弓を構えて並ぶ。
左側にドシンと砂煙を上げて、ソレガシの旦那が着地した。
「お。旦那、大丈夫?」
旦那は身体が鎧そのものなのに、その鎧にヒビ入ってたからな。
鎧の損傷って回復魔術は効くのか?
俺の疑問をよそに、身体を起こしたソレガシの旦那が堂々と胸を張る。
「いかにも! 大丈夫たるもの、このような事態に腰を下ろして居れようか! 今こそ友と肩を並べて! 武を振るう時である!」
うーん。
話がかみ合ってないけどその気合はイイネ。
自分で言うのもなんだけど、今英雄が、
それぞれの世界でラスボスを倒した英雄が三人そろった。
これは盛り上がる場面だろう。いっちょ決めとくか。
決めポーズ後ろの爆発は想像で補ってくれ。
「呼ばれなくても現れる! 救世戦士アスガイアー推参!」
「義を見てせざるは勇無きなり! ソレガシ見参!」
「魔法少女ジュエリール! 海崎真希菜です!」
三者三様に構えて、終世騎士ザサールに向き合う。
向き合った先の漆黒の男は、大剣を地面に斜めに刺して柄に両手を添えたままアゴを乗せていた。
《蛇足》
《剛腕》の副将バウブブがザサールをエクセリード家の当主だってすぐに信じたのは、進化の限界爆発に吹っ飛ばされたザサールをジオルグが慌てて助けた上、あっさり真っ二つにされたからです。
《何人かの人たちが歓声を上げた。見た事ある虎毛の獣人さんも混ざってる》
の部分のこの人たちは天使マキマキ守護騎士団の連中です。
禿げ僧侶ソウリマンが着けている腕輪はオウゴン教の司教以上に下賜される装飾品です。
信仰を止めていた間は外していたけど捨てきれず、信仰を取り戻してから再び身に着けるようになりました。
カブラギの《大丈夫》は平気?って意味。ソレガシの《大丈夫》の認識は偉丈夫・益荒男




