表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/191

第37話 ひっくり返る盤面


「貴様に死を送り損ねた為に、地獄の底から戻ってきたわ……」


「おかえり。そんでさよなら」


 先手必勝。

 ガイアエネルギーを右手に込めて、中距離攻撃にうってつけのバクレツナックルをお見舞いしてやる。

 でもやっぱそう簡単にいかず、透明の壁に阻まれた。

 魔防障壁だっけ?

 そういや魔導具使わずにこれ出すの、白い仮面付けたヤツらばっかだな。


「そうせっつくな赤い戦士よ……きっひっひ」


「軍のかなめである御老が前に出るのは遠慮願いたいが……仕方あるまい。この者共は敵の主力。協力して迎え撃つぞ」


「きひひ……そうじゃな」


 ボンボンって名乗ったトロルが拳を握って前に出た。

 さっきまで血だらけだった身体の傷が、ジュクジュクと修復している。

 ははーん。自己治癒能力が高い系だな?


「ははーん。自己治癒能力が高い系だな? なら傷の回復が追っつかないくらい痛めつけてやる」


「賛成だ。「もう許して~ママ~」って泣いたら許してやるよ。ハハハ」


 ……負ける方っぽいセリフ言うのやめてくんねえかな。

 白人の人と褐色系の人、アジア系の人たちが武器を構え、俺もガイアエネルギーをガイアコアから拳にチャージする。

 《狂獣のダンジョン》の根源アルケーって所でバッチリ自然エネルギーを補充できたからな。

 応援オウエンエネルギー以外は十分だぜ。


 ボンボンがのっしりと俺たちに向かって体勢を低くした。

 来るか? と思った瞬間、ボンボンの腹から尖った太い骨が突き出した。


「が……御老……な、なにを」


「安心して死を受け入れるが良い……お前の誇りはわしが守ってやる」


 崩れ落ちるボンボン。

 戸惑う軍人さんたち。


「オイオイ! 仲間割れか!?」


 あれだけ傷つけても回復していたヤツが一撃で倒れた。

 ガイアセンサーでボンボンの体の中の魔素のカタマリが、バラバラになったのが分かった。


「魔石を砕いたのか」


「きっひっひ……いかにも」


 シャマカの背中から尖った骨が三つずつ左右対称に突き出して、その一本がボンボンの腹から抜かれた。


「さあ、死する者よ、生ある者を蹂躙せよ……死こそが安らぎ、死こそが友である……立て、デストロール・ジェネラルゾンビよ」


 ボンボンが立ち上がった。

 目からは光が失われ、口からダラダラとよだれが垂れている。

 誇りを語った男が見る影もねえ。

 ……ムカつくぜ。


「じいさん……やっていい事と悪い事の区別もできねえのかよ……そのおっさんは! ガチンコで俺らと向き合っただろうがぁ!!」


「きっひっひ……勝たねば負けるのだ。負けて守られるモノなど、無い。負けて保たれる誇りなど文字通りホコリ以下のゴミじゃ」


「あームリムリ。価値観が違い過ぎる。変身! 戦闘バトルフォームぅ!!」


 戦闘バトルフォームにチェンジして、ポーズ。

 いかんいかん。腹立ったせいでちょっと憤怒フューリアスが混ざっちまった。

 ボンボンさんよ、なるべく手早く成仏させてやるぜ。


「行けぇ! デストロール・ジェネラルゾンビぃ!!」


「オオオオオオオオオオ!!!!」


 ボンボンが大きく振りかぶって、右のグーを俺に叩きつけてくる。

 

「アスガイアー・パンチ!」


 腕を振り下ろしきる前にヒジから上をぶっとばす。

 即座にボンボンは同じ態勢で無い右腕を振りかぶって、無いはずの右腕を再生させながら再びコブシを振り下ろした。

 ちょっと予想外。

 

「アスガイアー・メガガード!」


 腕をクロスして防御したらボンボンの腕がバラバラになった。

 そのまま振り切ると、千切れたままの腕をしゃくり上げて俺の腹に骨ごと殴りつけてくる。

 ガードの下を潜り抜けた攻撃。

 アスガイアー・ガードが解けた。

 痛ぁ! って思う間も無く、今度は左手のストレートパンチが顔面に。

 俺は勢いでクルッと一回転してバタンと地面にうつ伏せで倒れる。

 痛ぁ!


「ヘソががら空きだぜ?」


 褐色系の人が迫撃砲を発射。

 倒れた俺の頭上を、砲弾が一直線にボンボンへ向かう。


「伏せろ!!」


 俺は伏せてるけどね!

 強風が吹き、砂ぼこりがぶわっと舞う。

 でもアスガイアー・アイで視界は良好だ。

 ボンボンのどてっぱらに大きな穴が空いたのが見えた。

 穴の向こうでシャマカが指先に魔素を集めてんのも。


「避けろおぉ!!」


 俺が軍人さん達に言うよりも早く、シャマカの指から黒い熱線がいくつも放たれた。

 軍人さん達もすげえ身体能力で避けていくけど、三人ほど身体を熱線が通り過ぎる。


 近未来の最新戦闘服すら貫通する攻撃。

 軍人さんの半分が倒れた。


「がはっ……しくじっちまった……」


「ブルース! しっかりしろ!」


「ウィル……お前がノースカロライナに帰ったら……俺の家族に、愛してると伝えてくれ……」


「くそ! 自分で言え!」


 ホントだよ。

 大事な人に大事な事言う責任は自分で負えっつーの。

 俺は腰のポシェットから三つ、霊薬を出して無事な三人に放り投げる。


「回復薬だ。後は下がって、スーパーヒーローの活躍を特等席で見ててくれ」

 

 俺の言葉にアジア系の人が無言でうなづいて、倒れた人たちを引きづって下がっていく。


「きひひ、逃がすものかよ」


 再びシャマカが指に魔素を集めた。


死熱線デスレイザー――」


 アスガイアー・ガードを展開して攻撃に備える。

 でもガードを出した後は動き回れねえ。

 ボンボンもいるし、このままじゃ軍人さん達が離れるまでジリ貧だぞ。


「させぬわぁ!!」


 火の玉がたくさん降ってきた。

 そのどさくさでゴッツイおじさんも同じく降ってきて、大上段にシャマカへ剣を振り下ろした。


「あ! えー……ゴラモコーさん!」


「久しいな! 救世戦士アスガイアーよ!」

 

 口の端を吊り上げて笑うゴラモコーさん。

 聖王国の偉い人で、大陸の北東辺りで魔王軍残党とバトル中のはずだ。

 なんでこんな所に?

 ボロ切れになったシャマカのローブが地面へ落ちて、白い仮面が転がった。

 

「仮面から離れろゴラモコーさん! 白い仮面のヤツは復活すんだよ!」

 

「分かっておるとも」


 仮面からグワッと起き上がるようにシャマカが現れた。

 そのシャマカへ即座に空中から火の玉がぶち当たる。

 空中に浮かんでいるのは見覚えのある魔術師のおじさん。

 一緒にアークガド聖王国からガドニア侯国まで旅した凄腕魔術師の……


「ゴリンさん?」


「大嶮山で見ておったからな。元気か? カブラギ殿」


「儂の監視だ……さあ!! 大陸連合の精鋭たちよ!! 四功臣筆頭!! このゴラモ元帥に続けぇ!!!!」


 スケルトンの超大軍へ切り込む兵隊たち。

 ドワーフ族やハーフリング族も混ざってる。後方にはエルフ族が魔法陣を出して支援魔術を使ってるみたいだ。

 大声を上げながら決して弱くないスケルトン共を、バッタバッタと打ち倒していく。


 それに連動して首都側の陣地からも装甲車や機動パワードスーツが出動。

 たくさんの人たちが追随しつつ、武器を振るって敵を押し返している。

 挟み撃ちだ。


「おお! 盛り上がってきた! ゴリンさんコレいけるかな?」


「油断はできん。普通は恐慌状態になって総崩れとなるところだが、敵は感情の無いアンデッドだからな。復活を封じたとはいえ数も多い」


 ふんふん。

 油断は禁物ね。オッケオッケ。

 話してる俺とゴリンさんに、のそっと影が覆いかぶさった。

 再生しつつ身体をいびつに曲げたボンボンだ。

 構える俺ら二人を押しのけて、ゴラモコーさんがボンボンと向かい合った。

 スケルトンたちを抜けた親衛隊っぽい人たちが合流してくる。


「近づくなぁ! ……儂がやる」


 ゴラモコーさんが剣を構えた。


「惨めだな《剛腕》よ。せめて、戦士として散らせてやろう」


 ああ、ゴラモコーさんは国境で《剛腕》のボンボンと戦い続けてたって聞いたな。

 因縁アリか。そりゃ譲らねえと。


「ゴリンさん」


「うむ。ゴラモ侯爵を死なせはせんよ。万が一は割って入ろう」


「すまねえ」


 ゴラモコーさんが死んでいいはずねえもんな。

 男と男の戦いに割って入る。

 あんまり褒められたモンじゃねえのは分かってるけどさ。

 アニキはそれであんな事になっちまったんだし。

 

(いつの間にかシャマカの気配がねえ)


 あんにゃろう。

 俺を殺したがってたはずなのに、形勢が不利だと見るとスッといなくなっちまった。

 自分が死んだらこの大軍勢が消えちまうんだから当然っちゃ当然なんだけど。


「どこ行きやがった……アスガイアー・アイ!」


 ガイアセンサーにエネルギーを集中させつつ、アスガイアー・アイで視覚を強化した。

 キョロキョロしながらエネルギーの流れを確認してシャマカを探す。

 おえっ吐きそう。


「ん? なんだ?」


 さっきまで俺がいた外壁の塔っぽい場所に、バカでかいムカデが螺旋状に巻き付いているのが見える。

 内側ではまだアグー達とザサール達がにらみ合ってるみたいだ。

 そうか、塔か。

 高い所なら探しやすいかもな。

 そうと決まればと思って猛ダッシュ。

 さっきまで一緒だった軍人さん達を追い越して、味方の人たちも飛び越えながら外壁へ向かう。

 すると、例の外壁の塔から妙な反応が。


 知ってる莫大なエネルギーが凝縮して萎んだあと、消えて、渦巻いて、巻き戻り、小さく強いエネルギーが生まれて、徐々にカタチを成していく。

 それをガイアセンサーに感知した俺は混乱しつつ、思わず腰のガイアコアに手をやった。


「……何が起きてる?」






価値観が違い過ぎるからって暴力で解決しようとするのはダメです。

相互理解が平和への一歩。


ゴラモ侯爵と宮廷魔術師ゴリンが再登場。

ゴリンは官吏も兼任してまして、外交官としてゴラモ侯爵に引っ付いてます。


あとノースカロライナ出身のブルース中尉は恐妻家。

ピーナッツバターをベロベロ舐める息子と娘がいます。



蛇足


近未来の最新戦闘服。名称は《アイギス》

2112年のコモンエネミーの襲来を受けて2114年から開発が始まった。

先進国の最新技術を流用して各国の民間会社が共同で製造した。

UNA所属を表明した32の国に技術が公開されて増産が開始。

MR流体によるダメージ時のスーツ固形化によって防御力がアップ。

戦闘服の外面の繊維として加工されたミルアニウム合金は外骨格としても機能し、身体能力を大幅に上昇させる。

ヘルメットのナノコンピュータによって生体反応の感知、情報収集能力も備えている。

カラーリングや細かい機能などは国ごとに違う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリックして応援してね↓
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ