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第31話 道筋は不器用で、斯くも歪む


 最後に、旧エクセリード武大国陣営の話。


 場所は首都ローシスを囲む第一外壁の望楼の一つ。

 人の姿に再び擬態した若き魔領主ザサールは、大きく開かれた切り窓から身を乗り出して正門より先を俯瞰していた。

 

 隣に並ぶのは隠密活動中、エルンを名乗らせていた旧エクセリード武大国の元六大侯爵、エメルス・リリン。

 後ろには白仮面で顔を覆う協力者ハンショと、異界の不可思議な術を使うユウゲンがいる。

 

 あとは石造りの壁に寝かされている少女が一人。毛玉の妖精が一体。


 ザサールの視線の先は外壁より向こう側。

 首都入城の待機民が使用していたテントは撤去され、神兵たちが拠点を築いて未知の兵器を整然と並べていた。

 その後ろにはワイバーンストロンガーを使役した兵団や、飛行魔導具・魔導武具を携えた大商国の契約兵たちも多く見える。

 

 彼方からウゾウゾと迫るのは、地平の端から端まで埋め尽くした大軍勢。

 いかに神兵たちが脅威的な兵器を駆使しようとも数の暴力には抗えない。

 

「間に合ったみたいだね……」


 安堵の声を漏らすザサールに、ハンショが白仮面を揺らして応じる。


「当然でする。我ら使徒・・は記憶を共有致しますので、時期を逸する事はありませぬ……おっほっほ」


「便利な物ね。敵で無いのが心強いわ」


「おほほ。では予定の確認を致しましょうか」


「待ってもらえませんか?」


 ユウゲンが口を挟んだ。


「ここまでくれば自分の仕事は終わりでしょう? 先に報酬をいただきたいのですが」


 ユウゲンの仕事は異界人たちの行動の報告。

 さらにダンジョンへ誘導し、魔法少女ジュエリールとかいう少女の神器・・を手に入れる支援をする事だった。

 報酬は、創世神の加護。

 

「おっほっほ。そうですな。ではこちらを……」


 ハンショが袖から小瓶を取り出した。琥珀色の液体がユラユラと中を満たす。

 ユウゲンが手をかざして念動力で小瓶を引き寄せて手の平に収めると、フタを外して一息にあおる。


「ふう。これで……」


「そう。貴方様は不老となり、外的要因以外で死ぬ事は無くなりました……おっほっほ」


(ハンショさんは伝えてないんだろうな)


 ザサールは知っている。

 創世神の加護がどういった物か。

 思考は偏り、意識は共有され、創世の使徒の下僕となり下がるのだ。

 死す事無く、永劫に。

 地界では知る者ぞ知る事実だ。

 哀れだがザサールにそれを伝えるつもりは無い。


「じゃあ改めて予定の確認をしよう。ユウゲンくんにも協力してもらえると助かるな。もちろん報酬はあるよ。先立つ物は必要だろう?」


 ユウゲンの不可思議なチカラは有用だ。

 不測の事態に備える為にもこの場を離れてもらっては困る。

 まあ、創世神の加護を受けた今となっては近いうちに傀儡となり果てるわけだが。


「あ、そうですね。関わった手前、先行きも気にはなりますし、はい」


 ハンショが仮面を揺らして前に出る。


「おっほっほ。先ずは魔王軍がアッキンド大商国を蹂躙する様を見守りましょう」


 分かっていた事だが、ザサールの胸が重くなる。


「戦闘で発生する魔素が大気に浮揚ふようするでしょう。命が散り、聖魔素も同じく漂うでしょう。それらをこの――」


 取り出したのは、両手に収まる半透明の球体。


「《迷宮の種子》の特性をもって回収。異界からもたらされた神器であるジュエルジュエリーとやらは、魔素を物質に一度蓄積せねば吸収補充できないそうですからなぁ。そして……」


 ハンショは肩を揺らし、愉快そうに言葉を続ける。


「おっほっほ……ジュエルジュエリーのチカラをもって、偉大なる武王陛下を現世に呼び起こすのでする……」


 ザサールが聞いたのは、ジュエルジュエリーが生命を作り出す・・・・・・・という神の如きチカラを持つという事。


「身体の一部でも残っていればまた違ったのでしょうが……しかし、幸いにも武王陛下の形見であるバトラズソードがございます。それに残された記憶があれば、莫大な魔素と引き換えに武王陛下を作り出す事が可能でしょうて……おっほっほ」


「そうだね。祖父王である武王陛下ならば、エクセリード家を再興して大魔王の虐殺政策を止めて下さるだろうさ」


 ザサールも元々は圧倒的なチカラを誇る大魔王を打倒するなどと、そんな大それた事は考えなかった。

 地上に派遣が決まった後、補佐に付けられたハンショから大魔王の企みを聞かされたが為に今回の事に踏み切ったのだ。


「でもいいのかい? たしか創世神の戒律では法術を伴う回復はご法度だろう? ましてや命の復活なんて物に聖魔素を使うなんて」


 臣下たちの話では信用に足ると思う。

 だが、ハンショは創世の使徒だ。

 心変わりはしないでくれという、言外の牽制だった。


「おっほっほ……場合によるのでする。大気上の聖魔素を消費しても、それによってより多くの魔素を還元できれば問題ありませぬ。投資という事ですな。まあ、例え戒律に反しようとワタクシはこの場におりましたとも。武王陛下に受けた恩もありまするが……創世神に捧げる魔素は、戦争などによる衝突で大気に還すのが最善。それを、無辜の民を虐殺などと……」


 初めて顔を合わせた時にハンショは言った。



 大魔王は、地上の生命を、すべからく抹殺するつもりだと。

 そして、創世神に捧げる命が足りなければ、地界の生命をも。



 創世の使徒であるハンショは、元々エクセリード武大国に落ちてきた異界人である。

 武王陛下と共に戦場を駆け、異界の戦略・戦術を駆使して覇業を支えたと父に聞かされていた。

 共に異界に落ちた友と出会う為に創世神へと身を捧げ、国を離れた後でエクセリード武大国は大魔王との決戦に入ったのだ。


 地上へ出る前にハンショはこうも言った。


 武王陛下に恩を受けたまま返せぬ無念。

 大魔王に面従腹背で仕えてこの時を待っておりましたと。

 今こそ恩を返す時だと。


 ハンショと面識があったジオルグ・アドリアール。

 今は自分の影武者としてエクセリードを名乗るデーモンロードは、その言葉を聞くと涙を浮かべて再会を喜んでいた。

 

 ……本来は現当主である自分が、皆を牽引し旗を振るべきだとは思う。

 しかし、ザサールには自信が無かった。

 部下の命を背負い結果を出せる自信が。

 だが祖父王ならば権威も十分。

 皆を導き、正しい世を築いてくれるだろう。

 

 ドゥオオオオオオン!!!!


 轟音が鼓膜を揺らす。

 神兵たちの兵器が起動したのだ。

 大陸の魔導兵器や魔術では不可能な、超長距離の攻撃。


 スケルトン共が弾け飛ぶ。

 驚くべき面積を千の裂炎魔石が破裂したが如く大地を削る。

 確かに、以前魔王軍精鋭を撃退したというのも頷ける。


(凄い。けれど……)


 霞となった負の魔素が寄り集まり、砕けたスケルトン共が復活していく。

 死を運ぶ侵攻は止まらない。

 あの場の生物は、皆死ぬ。


「ザサール陛下。ご気分が優れぬようですなぁ……お優しい陛下のこと、胸を痛めていらっしゃると愚考致しますが……」


 ハンショが気遣うような言葉とは裏腹に、感情のこもらない態度で声をかけてくる。


「なに、大丈夫さ。覚悟は出来ていると言ったろう?」


 仮面に目を向けて心を奮い立たす。


「確かに被害は少ないに越したことはないけれど、大魔王タオを止めなけりゃ億万の死人が出るんだ。彼らは戦いに身を投じる戦士たち……死は受け入れてもらわないとね」


 願わくば彼らが善戦し、祖父王を復活させられるほどに魔素を大気にばらまく事を祈るのみだ。

 でなければ死の軍勢は首都へ雪崩れ込んで民間人をも殺しつくす。

 日常は消え失せ、老若男女問わず全てが死にまみれる。

 叫び声、泣き声、断末魔の声が都を包むだろう。

 

 凄惨な情景を想像していると、己の指の震えに気が付いた。

 その指をそっと包む柔らかい手。


「業を背負うのは我々も同じですわ。果てまで、御身と共に」


 金の目隠しから下の唇が優しく微笑む。

 部下であり、幼馴染であり、理解者でもあるエメルス・リリンの温もりが胸の重しを払い、心を奮い立たせた。


「そうだね。平和の為に戦争を起こす……歪だけれど、必要な事だ」

 

 決意をもって、ザサール・ビブラ・エクセリードは戦場を見渡す。


「さあ、世界を守る戦いを始めよう」



解説


ジュエルジュエリーの《デウスエクスマキナ》の説明がとうとうできます。

その効果は《やり直し》

上手くいかなかった事を、失敗する前の状態に戻せるんです。

並行世界パラレルワールドに分岐する事なくです。

生命とか複雑な物が対象で、更に亡くなってから時間が立つほどエネルギーを大量に使いますが。

「上手くいくように自分で何度でもやり直せる」そのチカラを、妖精アグーは《時の氏神デウスエクスマキナ》と名付けました。

でも……


補足


第一章43話で完璧復活パーフェクトリザレクションを使った理由がやっとこさ出せました。


第三章19話でユウゲンがあっちこっち行ってプネウマ結晶を探していたと言っていましたが、カブラギたちと離れているこの五日間にエクセリード陣営とか・・と接触していたんです。


 

神器と呼ばれる魔導具は異界からもたらされた物です。

アルマのクロラブリュス。

ソマリのデュライセイム。

シャマカのイグニストム。

ザサールのバトラズソード。

あとシソーヌ姫がサジーからもらったコンゴショも。

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