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第25話 狂獣のダンジョンを進む



 角から冷凍光線を出す物騒な鹿。

 両手で斧を操るマッチョな狒々ヒヒ

 水晶の身体を持つ暴れん坊なサイ。

 虹色に燃え続けるアッチッチな孔雀クジャク

 分身する三つ目のデブッた灰色熊などなど。


 珍獣たちを退治しながら森の中を、

 泥の上を、

 氷の床を、

 溶岩の流れる通路を日を跨ぎつつ進み続けた。


 四日目の夕方ごろに地下48階層の安全地帯へ到着。

 今日もお疲れさんってなもんで休憩を取る。

 安全地帯は極端に魔素が薄い場所だ。

 つまり上質な魔素を好む魔獣が寄り付きにくい。

 上の階層に希少な植物や鉱物が密集している場合、魔素をスゴイ吸うからこういった範囲がたまにあるんだ。


 もちろんリュアザさん達の受け売り。

 受け売りを自分の考察として提示できるメンタルはスーパーヒーロー故だ。

 そんで地図を記憶しているエルンさんのおかげで道中迷う事はなかった。

 この人たちと一緒じゃなかったらもっと時間かかったろうな。


 俺とアグー、リュアザさん桜井さんの四人がサラサラの砂の上の暖色ライトを囲む。

 後ろでは自衛隊の人たちがメシを用意してくれていて、マキマキとユウゲンさんがそれを手伝う。

 ソレガシの旦那とエルンさんシュクさんが念のために見張りを買って出てくれた。

 

「明日で最下層まで到達するね! 最下層には絶対にプネウマ結晶はあるから安心しておくれ!」


「弾薬は十分ですが、想定以上に魔獣がタフでしたからね。我々だけでは正直きつかったです。皆さんの協力があったればこそですよ。アチチ」


 明かりを見つめてお湯に口をつける桜井さん。


「気になった事が幾つかあるんぢゃが」


「なんだアグー?」


琥珀猩々アンバーイビルエイプ灰色熊亜種アザーアグーロぢゃったか? リュアザ殿。あれほど進化した魔獣は滅多に遭遇せんほどに珍しく、危険だと言っておったの?」


「……まあ! そうだね!」


「そのような魔獣と遭遇率が高いという事はぢゃ、その分魔素の濃度が普段より濃くなっておるという事」


 魔素の濃度が濃いと素材の質も上がるんだろ?


「いいじゃん。プネウマ結晶がいっぱい取れるじゃん」


「普通では無いという事に警戒すべきぢゃ」


「ええ。アグーさんのおっしゃる通りですね」


 桜井さんも納得のご様子。

 なんかスンマセン。


「俺もそう思ってたぜ。他に気になった事が幾つかって言ったな? 他には?」


「……冒険者は他にも探索しておるはずぢゃろう? なぜ鉢合わんのぢゃ? リュアザ殿らの地図は他の冒険者から高額で買い取った物のはず、同様の道筋を進む者がおらんのはどうしてぢゃろうか?」


「確かにそうだね! でも! 戻るという選択肢はないだろう!?」


「まあのう。懸念があるとは言え、予定を変更するにはちと弱い」


「何かあるとしても、その何かに見当を付けるには情報が少なすぎますな」


 三人の話し合いが一段落した頃合いを見て疑問を投げかける。


「ところでなんだけどさ……」


「なんぢゃ?」


「なんで俺がここに混ざってんの? せっかく鉄板があるみたいだしお好み焼き焼いてきていい?」


 なんでこのヒト達は俺の場所に集合してきたんだろうか。

 頭脳労働は得意な人に任せたい気分。

 小麦もあるし、有り合わせの具材になるけどごちそうするぜ?


「だめぢゃ。カブラギはわしらのリーダーぢゃろうが」


「……シソーヌ姫じゃなくて?」


「旅のリーダーはシソーヌ姫ぢゃが、異界人組の指針を示してきたのはお主ぢゃろうが。自覚せい」


「カブラギくんは! 自然体で周りを引っ張れる資質があるんだね! 羨ましいな!」


 羨ましい?


「リュアザさんだってエルンさんとシュクさんが付いてきてくれてるじゃん。立派なリーダーだろ」


 俺の言葉にリュアザさんが複雑な顔をした……後にニカっと笑う。


「そうだね! いやー! リーダーはツライな!」


 用意してもらった食事を渡されて、見張りの人たちと交代で頂く。

 豚チヂミやら味噌汁やら、大商国だからこそ揃う乾燥小魚の出汁とか中力粉などの食材で和風の味を堪能した。


 マキマキなんか毎回「美味しい美味しい」言いながら大喜び。


 ソレガシの旦那は大魔皇国とか大共和国じゃあ濃い味付けをガツガツいってたクセに、薄味に想う所があるようで「丹まで沁みる味である」とか呟きながらしんみり口布を捲って口に運んでいた。


 あとユウゲンさん。

 物思いに更けながら一点を見つめつつ、ゆっくりゆっくりと噛みしめるように顎を動かしていた。


 アグーは残飯処理。


 ご機嫌のソレガシの旦那が秘蔵の酒を出して、喜んで飲む自衛官さんたち(特に梅原さん)と共に夜は更けていった。


 片膝を立てたままでニコニコそんな皆を眺めるリュアザさんが印象的だった。



 ◇



「あの木のテッペンだ!」


「サファイアロー! ライトニングレイン!」


 密林の中、大樹の上に落雷が降り注ぐ。


「キュエェアアア!!!!」


 咆哮のみが虚空から大地へ落ちると、茂みがドンッと音を立ててくぼんだ。

 そこへ桜井さんたちの自動小銃《三壱》から集中砲火が放たれる。


「キ! キキ! キャェアア!!」


 光学迷彩のように景色を歪ませて現れたのは、牛ぐらいある爬虫類。

 カメレオンだ。

 ビッタンビッタン暴れる暴れる。

 

「ウィルニッケンの弾でも貫通しないのかよ!」


「効いている! 手を休めないで!」


 竹内さんが悪態をつき、菊月さんが叱咤する。


「気を付けて! コイツの尾は凄く伸びるよ!」


 言ってる間に牛カメレオンが暴れたままの姿勢でビュッとしっぽを突き出してきた。

 菊月さんがあわやといった瞬間、ソレガシの旦那が盾になる。


「ソレガシさん!!」


「これしき」


 尖った先端は旦那の鎧にヒビ一つ入れられない。

 そのまま尻尾を掴んで……


「カブラギ殿!」


「よしきた!」


 引き寄せる!

 それに合わせて右手にガイアエネルギーを溜めて!


「デラストぉ」


 殴る!!


「ナックルぅぅう!!」


 頭が爆ぜて、牛レオンはノックダウンした。


「よっしゃ。もう近くに魔獣はいねえ」


 手についた血を払いながら周囲に危険が無い事を確認。


「お見事です。護衛も形無しですな」


「何をおっしゃる。牽制あったればこそであろう」


 お互いを労いつつ陣形を保ったまま先へ。

 そんで密林の中に見えてきたのが苔生こけむす岩山にまぁるく空いた洞窟だった。


「この先が狂獣のダンジョンで一番魔素の濃い《根源アルケー》と呼ばれる場所よ。……先客はいないようね」


 エルンさんが胸元の双丘を腕で持ち上げながら振り返る。


「エルンさん。中には魔獣がいるんだっけ?」


 実は昨夜の内に聞いてたんだけど、おさらいしましょうかって事で改めて説明してくれる。


 中には魔素を濃厚に含んだ水源があって、その時期いっちばん強い魔獣が独り占めにしているそうだ。

 S級の冒険者たちがタッグを組んで攻略する場所。

 先駆者たちの情報によると、陣取っている魔獣は以下の三種類のどれからしい。


 極魔狸ギガアーヴァンクっていうビーバーみたいな魔獣。

 怪力で狂暴。さらに賢い。鋭い爪はアダマンタイト鋼すら切り裂く。

 好物は人族・亜人族の女性。胸糞。


 真水晶犀トランスペアレンタライノス。先に退治した水晶犀クリスタライノスの上位種で、凄まじい防御力と攻撃魔術耐性で手に負えないそうだ。まいったね。

 

 最後は金白山羊ズラトロク。白ヤギさん。カラスみたいに光り物を集めるのが好きな魔獣で、高価な装備をつけているほど狙われるらしい。体液を凝固させて攻撃してくるんだと。汚ったね。

 

「どの魔獣が居座っているかは分からないけど! 対策は十分さ!」


「ええっと……。ギガアーヴァンクは遠距離で攻撃。トランスペアレンタライノスは外皮でなく内臓にダメージがいくように。ズラトロクは頭蓋骨を一撃で砕くのが最善……でしたかね?」


「さすが桜井サン! 問題なさそうだね!」


「おし。じゃあ行こっか」


「ハイ!」


「うむ」


「いざ」


「ええ……」


 気合入れて踏み込んだ先は超級の上、赤龍に匹敵するような魔獣の巣窟。

 前へ進むと、高濃度の魔素で上手く機能していなかったガイアセンサーに魔獣の情報がぼんやり浮かんでくる。

 あれ?

 一番強い魔獣が一体って言ってたのに。


「三体の反応があるんだけど?」


 キラキラと光の魔石に照らされた空間。

 そこで待ち受けていたのはヒグマ大の青毛ビーバーと、ダイアモンドみたいな身体のサイと、金の角を突き生やした白いヤギ。


「全部いるじゃんか……」


 奥にはチョロチョロ流れる湧き水が見えた。


 戦闘が始まる。


ソレガシさんが幼いころに故郷で食べていた食事は味噌と塩で味付けされた小麦を練ったパンでした。

彼は三男坊です。

お兄さん方に頭を撫でられて「早く大きなって共に武功を立てよう」とか言われながら食べたおふくろの味に近いのでしょう。

主君に出会って各地を転戦した晩年は米や粟を中心に食べていたので、とても懐かしく感じたのです。

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