第21話 召喚術の真価
誤字報告いつもありがとうございます。
「シーちゃん? ……そっか……秘術はずっと成功してたんだ」
「半分な」
マキマキが納得し、桜井さんたちの目が俺に注がれる。
「……聞かせてもらえますか?」
俺もきっちり把握できてるわけじゃねえけど、喋りながら整理しよう。
「俺たちが、聖王国のお姫さまに召喚されたことは話したッスよね? その召喚術ってのは異世界から直接呼ぶんじゃなくて、他の世界から弾かれたヒトを引き寄せるものなんです。えっと、磁石みたいに」
「なるほど。つまり、吸引機のようなモノですか」
吸引機? まあいいか。
「そう。そんで、聖王国のお姫さまは魔王軍から大陸を守る為に、英雄を求めて召喚術を繰り返したんです。何度も。でも誰も現れず、ずっと失敗しながらもお姫さまは、信じて、信じて、やっと現れたのがこのマキマキと、俺だった……ってわけです」
桜井さんが、背もたれに体重をかけた。
「その何度も繰り返した失敗は失敗ではなくて、召喚場所がズレていただけだった。この世界に英雄は集まり続けていたってわけですか」
「そうか……だから同じ時期に異界人が、大陸各地に現れていたんだ」
ユウゲンさんがぽつりと声を出す。
そういえば、ユウゲンさん前に言ってたな。
異界の人らはほとんど同じ時期に、大陸の各地に現れたって。
「理解したぞ。某や桜井殿らはその、えねるぎぃとやらで飛ばされた為にカブラギ殿やマキマキ殿らと違い、元の時代がかけ離れておるというわけか」
「我々が100年そこらで済んだのも、人数が多かったからでしょうね」
「カブラギよ。知恵が回るようになったのう」
毛玉からお褒めの言葉を頂いた。
「こっちに来て頭使う機会が増えたからなぁ」
マキマキがテーブルに手を突いて立ち上がった。
「じゃ、じゃあ! 大きなエネルギーを生み出せば元の世界に帰れるの!?」
自衛隊員の人たちも表情を明るくする。
でも、アグーの反応は微妙だ。
「そう単純ではないぞい。確かに、こちらに来るよりも帰る方が成功確率は高い。元の時代にポッカリ空いた存在は、なるべく似た存在で埋めようとするぢゃろう。パズルのピースのようにな。本人ならば問題なく元の時代へ引き寄せられやすい。理論上はの」
暗い顔でポジティブな事を言うアグー。
何が問題なんだ?
「何が問題なんだ?」
「……検証できるか? 超大爆発に身をさらすんぢゃぞ? 一気に元の世界へ帰るとなると、それはもう恐ろしいほどのエネルギーが必要になるぢゃろう。聖王国の召喚術は舗装された道を通るようなモノだと考えると、帰るにはこちらに来た時よりも数倍のエネルギーが必要になる。ではゆっくりゆっくりと、異界を各駅停車で戻るとすれば……」
ああ……。
「2000年かかったりすんのか」
「そうぢゃ」
俺以外のみんなが、大きく息を吐いた。
ユウゲンさんが向かいに座る自衛隊の人たちへ気の毒そうに目を向け、ソレガシの旦那はなんか拳を握ってる。
マキマキなんかうつむいて、やたらしょぼんとしてやがる。
おいおい、暗いな。
俺はイスを引いて、行儀よく立ち上がった。
「やりがいあるじゃねえか」
視線が集まる。
マキマキも、ぽかんと俺を見上げる。
「理屈は分かったんだ。後はどうやって道筋を作るか……難しそうだな、うん。でも難しい事なんて――」
マキマキを見る。
マキマキが笑う。
「いっぱいしてきました!!」
その顔を見て、俺大満足。
頷いて見せた。
桜井さんが頬杖をついて、ボソッと呟いたのが聞こえた。
「なるほど。スーパーヒーローだ」
◇◆◇◆
話し合いの後、少々の休憩を挟んで町を出発した。
「皆さん……先ほどは失礼いたしました」
荷台の中で、菊月さんが頭を下げてくる。
「いやいや、そんな、いっスよ。……大事な人が亡くなった。ここにいるのはそういった経験をした人間ばっかです。だから気持ちが分かる、なんて言いませんけどね。本人にとってのその人は、自分の大事な人とは別人なんですから。……でも、想像して、おもんばかる事はできます。アナタが辛い想いをした事を、想像できない人間はここにいませんよ」
そこまで言ってからみんなを振り返ると、それぞれが頷いた。
菊月さんは申し訳なさそうに顔を歪めるけど、桜井さんが自分の頬を両指で押し上げるのを見てぎこちなく笑う。
そのやり取りを見たユウゲンさんが、なんか真剣な顔で俺を見た。
「カブラギさん」
「ん? なあに? ユウゲンさん」
「自分はまだ、アナタに伝えてない事があります」
ユウゲンさんの目が、俺の仮面を見つめる。
「伝えるべき時に、ちゃんと、伝えます」
「オッケー」
途中に小休憩を一度挟んで、日が落ちかけた頃に交友都市イクランへ到着した。
竹内さんと梅原さんが軽装甲車と牽引した荷台を預けに行く。
俺と桜井さんが、並んで大きく身体を伸ばす。
「マジで早く着いたなぁ」
「一度サンリアガ商会からの依頼で来たことがあるんで道も分かってますからね。街道が舗装されてますからその分スピードも出せました。魔法カバンとやらのおかげで荷物もかなり軽いですしね」
サンリアガ商会の高級魔法カバンに、武器弾薬がしっかり入っているそうだ。
22世紀から来たんだから、四次元ポケット的なモンがあるのかと思ったらそんなもん無いらしい。
夢が無いね。
100年未来だっていった所で、日常生活はそう変わらないんだって。
車は自動運転機能が付いたけどタイヤのままだし、
電化製品も省エネとか冷蔵庫の保存機能が良くなっただけで、ボタン一つで料理が出てくるとかも無い。
冷凍食品の栄養価が上がったとか、VR機とかいう機械がメガネ型になったとか、思ったより地味なもんだ。
強いて言えば医療技術が多少発達したくらいか。
治らない病気もまだまだあるそうだけど。
ガイアエネルギーも無い。「無いの!?」って俺が言ったら、アグーが「そりゃカブラギの世界の特異点ぢゃからな」とかなんとか。
意味わからん。
そろそろ日が暮れるし、宿に向かおうって話になった。
そういや昼過ぎたら大概埋まってるって言ってたな。
もう無理かも。
その事をあの時いなかった桜井さん達とユウゲンさんに伝えたら、どうやらサンリアガ商会の宿に部屋は用意されているそうだ。
こういう時の為に、一般客以外が泊まる用の部屋があるんだって。
じゃあ急ぐ事ねえやって事でゆっくり歩きながら宿の区画へ向かった。
そのうちにあの時通った大通りに差し掛かかる。
相変わらず賑やかで、人ごみを掻き分けながら進んでいると小さい屋台が目に入った。
屋台の中から見覚えのある獣耳の男の子が、元気に呼び込みをしている。
「よお少年! 元気そうだな!」
「あ! あの時の赤い人!」
嬉しそうに手を振ってきた。
「なんだ店なんか構えて。立派なもんだな」
「うん! ここを管理してたアイツがいなくなっちゃって、場所が空いたんだ。そしたら赤い人と一緒にいたあのお兄さんが保証人になってくれて、お店を出せる事になったんだよ!」
おお……。
リュアザさんか。流石だな。
アフターケアまでしていたとは。
少年の後ろからさらに小さい子供が二人、顔を出した。
「いらっしゃいませ!」
「いらったいまて!」
おやカワイイ。
「アグー。なんか買ってもいい?」
「しょうがないのう」
とか言いながら目じりが下がってる。
このじいさんも、たいがい子供好きだな。
色んな草を売ってた中で、暗闇で光る草と、潰すと虫よけになる草をいくつか買った。
これからダンジョンに入るんだから必要になりそうだ。
獣耳兄弟に手を振って、大通りを後にする。
マキマキと梅原さんが、いい加減まで振り返りながら手を振っていた。
いい気分のまま宿の区画まで到着。
松田さんに先行してもらいながら目的の宿を探す。
「あ、ここですね」
言われて見てみると、色彩豊かで個性的な外観の宿屋が建っていた。
派手だな。
がやがやと中に入ると、見覚えのある特徴的な三人組が。
「おや! 奇遇だねぇ!」
リュアザさんと、エルンさんと、シュクさんだった。
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