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第20話 西暦2112年の話

いつも誤字報告に感謝しております。

ありがとうございます。


「多世界解釈……ですか?」


「さよう」


 中継地点の町。

 パーキングエリアみたいな目的で作られたそうで、それなりに休憩施設が充実している。

 商談用の個室を貸し出しているモーテルで、備え付けの音漏れ防止魔導具を起動させた後、アグーが代表して説明を始めた。

 地球への帰還を望んでいるという、桜井さんたち世界連合軍(略称はUNA。意味は知らん)に情報の共有をしてるんだ。

 

「我々よりも、アナタ方のほうが調査が進んでいるようですねぇ。いやぁ……こちらは行動が制限されてまして……それというのも、我々は100人を超す大所帯です。恥ずかしながら支援者の意向を無視するわけにいかんのですよ」


「だろうな。桜井さんたちの戦力を、サンリアガ商会は手放したくないッスよね」


 俺も口を挟む。

 劇場で見た映像は当時の出来事を記録したものだろう。

 後付けの映像を差し込んで、吹き替えで都合よく脚色していたけど、アッキンド大商国で対処できなかった敵を撃退した戦力。

 それを抱えている限りサンリアガ商会は他の同格の、四つの大商会より発言力が増すだろう。


「そうです。そして、先方は我々の武器弾薬に限りがある事も把握しています。ですので、魔王軍残党の殲滅を目的とした大陸軍に我々の参加を認めようとされません」


 菊月さんが返答し、桜井さんは頬杖をついて補足する。


「まあ……ウチの上層部もその判断には賛同してるんですがね。魔術、法術なんてある世界なんだから慎重になるのもわかるんですけど、私はサンリアガ商会に依存し過ぎている現状は危ないんじゃないか、なんて考えちゃいますね」


「二尉」


「涼子ちゃん。上っ面で話すべき相手と、そうじゃない相手は分けて考えないと」


 たしなめるような菊月さんに、横目で答える桜井さん。


「まあ、帰還を最優先目的に置いてるだけで御の字だ。鈍い人たちはニ階級特進して、今いるのは優秀な人ばかり。ただ考え方が違うだけさ。少数だけど、この世界に残るべきなんて言ってる人間も幾人かいるしね……」


 桜井さんが、ちらりとユウゲンさんを見た。


「考え方は人それぞれだ。そうしたい人はそうすればいい。他人を巻き込まないならね」


 そこまで言って、桜井さんが上着から紙煙草を取り出した。


「吸っても?」


 俺はチラッとマキマキに目を向ける。

 マキマキがコクコクと頷いた。


「どうぞ」


「失礼」


 安物っぽいライターで火をつけると、煙草の先がチリチリと光る。

 うまそうに、桜井さんが煙を上空に吐いた。


「やっぱり地球産に限ります。こちらにも煙草はあるみたいですが、どうも我々が知る物とは違うみたいで」


「全く、訳がわかりません。冷凍保存用の魔導箱を、ちゃんとみんな冷蔵庫って呼ぶんですよ。当初は言語の変換がされているだけだと考えていたのですが、不可解なのがアメリカ人も距離をフィートではなく、メートルで換算する事です。認識の齟齬もなくです。実行動にズレが生じるかと思えばそういうわけでもない……頭がおかしくなりそうですよ」


 長身の兵隊さんが話に乗っかってきた。


「便利な面もありますけどね。他の国の連中と言葉が通じるようになって、コミュニケーションが凄く楽になりました」


 確か、松田さんか。


「まっつんも吸わせてもらったら? 煙草」


「いえ、自分は結婚して止めました。そんな高級品、小遣いの範囲ではとても」


「そっか。独身の特権だね」


 桜井さんが携帯灰皿をテーブルに置くと、灰を落とした。


「シソー商会さんが我々に接触した理由についてなんですけど……そういうわけで、現状はそこまで期待に添う事は難しいと思います」


「現状は……ですな」


「ええ」


 アグーが分かったように頷く。


「どういう事?」


 俺が聞くと、アグーがこちらを向いて解説を始めた。


「今回でアークガド聖王国と神兵団が、サンリアガ商会公認の関係を持てた。サンリアガ商会と蜜月の関係といえ、神兵団はあくまで独立勢力ぢゃろ? アークガド聖王国から直接なにがしかの依頼をしたところで、神兵団がそれを了承する事に不自然は無くなるということぢゃ」


 ほうほう。


「なるほどねぇ」


「なるほどねぇではないわい。それを見越しておったんではないのか?」


「全然」


 アグーが溜息を吐いて、弛緩した空気が場に流れた。

 不本意。


「不思議なものですねえ。過去の世界から来たっていう変身ヒーローに、そちらのマキナちゃんは魔法少女なんでしょ? それに、悪い神さまを退治した古代中国の武人さん……自分たちの知る歴史にはいないんです。まるで、物語の主人公たちが飛び出してきたみたいですよ」


 肩幅の広い、竹……内さんか、竹内さんが楽しそうに喋る。

 主人公だなんて、アニキに比べたらとてもとても。


「タケちゃん、漫画やらアニメやら好きだったね」


「ええ隊長。自分今、ワクワクしてます」


 バン!


 菊月さんが、テーブルを叩いた。


「竹内二曹。それならば、我々は何? あの《コモン・エネミー》を殲滅せんと、世界中がオーストラリア大陸で繰り広げた……あの地獄・・も物語の一つだとでもいうの?」


 竹内さんの顔から、スッと血の気が引く。

 俺もはらはらする。


「いえ、そんなつもりは……」


 菊月さんが髪をかき上げた。


「はあ……頭を冷やすわ。すみません皆さん。先に席を外します」


 頭を下げて、退室する菊月さん。

 閉じた扉を黙って見守る俺たちに、桜井さんが頭を下げた。


「私からも謝罪します。菊月三尉は先の作戦で、兄を亡くしているんです。私の同期で、勇敢な男でした。もちろん他にも多くの同胞が命を散らしました」


「失言でした……」


「無神経」


 女性の、梅原さんが竹内さんを肘でつついた。

 ちょっと空気が重い。

 みんなが黙ってると、マキマキが思い切った様子で身を乗り出した。


「えっと、皆さんは、あの……《コモン・エネミー》っていう敵をやっつけて、こちらに飛ばされたんでしたよね?」


 煙草の火を消して、桜井さんがマキマキを見た。


「ええ」


「飛ばされた時の状況を……お聞きしても……」


 声をしぼませながらマキマキが聞くと、桜井さんもテーブルに両肘を乗せて身を乗り出す。


「先にお話しした通り、西暦2112年、健正19年5月14日。オーストラリア大陸に隕石が衝突しました。未曽有の大災害として国連はオーストラリアへ支援団を派遣するも、隕石衝突から15日後にオーストラリア政府との連絡が途絶え、さらに2日後、支援団からの通信も途絶えます。さらに3日後、周辺の海域に未確認生物の情報が多数寄せられ、インドシナ・太平洋の各諸島が未確認生物からの攻撃を受けました。そこから未確認生物はアフリカ大陸・南アメリカ大陸へ上陸。この時点で死傷者は概算で一億人を優に超えました。世界は事の重大さを認識します」


 桜井さんが背もたれに体重を乗せる。


「中華人民解放軍の入国をインド政府が受諾し、南アメリカへもアメリカ軍が派遣されました。自衛隊も国際平和支援法の元、補給活動を行いました。そんな中、ロシアが先駆けてオーストラリア大陸へ核を搭載したミサイルを発射したんです。先の隕石が原因だと、その頃には判明していましたから」


 大きく息を吐く。

 マキマキがゴクリと喉を鳴らす。


「失敗しました。オーストラリア大陸には大きなまくが張られ、衝撃と熱を一切受け付けなかったのです。その後、アメリカ・ドイツ・フランスから兵器の供給を受けたアルゼンチン海軍の奮戦により、まくは微力な力だと物体を通す事が判明します」


 救世戦士アスガイアーの戦いとはまた違う。

 正義と悪じゃない。

 地球人類と地球外生命体の戦いだ。


「国連は期間を限定した特別条約を施行。アメリカ合衆国を中心にした世界連合軍、UNAを組織して白兵戦闘に特化した部隊をオーストラリア大陸へ派遣しました」


「よく自衛隊の派遣を世論が許したの」


 アグーの言葉に、桜井さんが皮肉げに笑う。


「はは……その頃には四国と、九州が半分無くなってましたからね」


 突然、桜井さんは黙って目を閉じ、天井を仰いだ。

 大きく深呼吸して、しばらく瞑想すると目を開く。


「ま! なんだかんだで《カーズ》と呼称される女王蟻を、《システィ・ツァーリ》という爆弾で吹っ飛ばしたわけです。我々は光に包まれて、念仏を唱えている間にこちらの世界にお邪魔したというわけですな」


 明るく言う桜井さん。

 他の三人は沈痛な面持ちで目を閉じている。

 

「……見えてきたのう」


 アグーがまた、分かったように頷いた。

 俺も、なんとなく分かった。

 共通項は、凄まじいエネルギーの放出。


「とんでもねえエネルギーが、世界に穴をあけるのか」


「そうぢゃ。新たにあけるとすればぢゃがの。恐らく、より大きな穴を開けばそれだけ遠い世界へ到着する。そして、我々がこの世界に引き寄せられた原因ぢゃが……」


 思い出す。

 アルマが以前言っていた。


 ――シソーヌ様は努力して会得され、毎日秘術を行いました。これは自分にしか出来ない戦いだとおっしゃられて――


「シソーヌ姫か」






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