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side B

 それは、蒸し暑い夏祭りの夜


 神社へと続く沿道の入口に僕は少し前から立っていた。


「拓ちゃん!」


 その声に振り返ると君は、藍色の地に赤い朝顔の浴衣姿で、手には白い巾着袋を持って、僕の目の前に現れた。


「似合う……?」


 恥ずかしそうに、俯きかげんで上目遣いに僕を見つめる君。

 君は髪をアップに結っていて、白いうなじが細くて儚げで。


 答えずに僕は、はぐれないよう君の右手を握って夏祭りの人混みの中へと歩き出す。


 君は、お気に入りのりんご飴を舐めながら、金魚すくいや綿飴や、色々な屋台をひやかしている。

 それはとても楽しそうに、瞳をくるくる動かして。

 君の目まぐるしいお喋りは七色変化。


 そんな君の浴衣姿の可愛さは、破壊ダイナマイト級で……。


 沿道を行き交う男どもの無遠慮な視線から君を守るように、僕は歩く。

 君の手を握っている自分の左手を目一杯意識しながら、ドキドキと鳴る胸の鼓動を感じながら。


 そんなことも知らぬげに君はご機嫌に、夏休みの水泳部の様子や宿題や女友達の恋話を喋っている。


 けれど、それはほんのはずみに訪れた。

 不意に包まれる気まずい沈黙。

 ざらりとした時間の感覚に戸惑う僕に、君はふと呟いた。


「ねえ、拓ちゃんは好きな女の子いないの?」


 愛らしい瞳で僕を見つめる。


「……いるよ」

「誰?」

「教えない」

「ケチ。応援するのに」


 だって私達、幼馴染だものね……そう言った君の笑顔にはいつもの幼さは見えず、でも、本当に無邪気に君は笑った。



 その時。



 ドーーーーーン………!!!



 大きな打上げ花火が上がる音に僕たちは知らず夜空を見上げた。


 暗い夜空の中、華やかに散る花火を見つめる美しい君。


 その愛らしい横顔を僕はずっと、ずっと忘れないだろう。






 あれは、蒸し暑い夏祭りの夜。


 君は愛らしい浴衣姿で。

 お気に入りのりんご飴を舐めて。


 確かに僕の隣にいた。

 そこに君はいたのに。


 それは昔、遥か遠く。




  了




「夏祭りと君」企画主催運営遥彼方さま、「夏の光企画」主催運営銘尾友朗さま、素敵なイメージ画を下さった相内充希さま、そしてお読み頂いた方、どうもありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読しました。 両片想いですね。手を繋いた夏祭りが、二人にとって一番幸せな時間だったのかもしれません。 ……なんて想像するだけで、両想いなのにと悔しくなりますね。大人になった二人の隣に…
[良い点] 確かに僕の隣にいた。 そこに君はいたのに。 それは昔、遥か遠く。 はあ、とっても切なくなりますね……。 お互いにあと一歩踏み出せば、ひと言あれば、あと少しなにかが……変わっていたら未…
[良い点] それぞれに彼(彼女)しか見ていないのに。探りを入れたひと言とその答えを、互いに誤解して――花火彩る美しい悲恋ですね。ベタな恋愛ものでは、花火は二人を近づけるアイテムなのに、御作ではその逆な…
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