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side A

本作は、遥彼方さま主催「夏祭りと君」企画(2019年)、銘尾友朗さま主催「夏の光企画」(2020年)参加作品です。


作中イメージ画は、相内充希さまより頂きました。

挿絵(By みてみん)



たくちゃん!」


 前方3メートルに君を発見した私は、背後から駆け寄って声をかけた。

 振り返った君の隣にならび、私達はいつも通りに歩き始めた。


「今、帰り?」

「うん、やっと今日も水泳部終わり。拓ちゃんは?」

「図書館で宿題片付けてた」

「拓ちゃんは真面目よねえ。私なんか、八月の終わりに真っ青になるクチ」

「そして、俺ん家に泣きつきに来るんだよなあ」

「それ言わないで〜」


 私達は、同級生で幼稚園の時からの幼馴染。

 だから、何でも拓ちゃんのことは知ってる。


 身長172㎝。足のサイズは26㎝。

 無口で寡黙。勉強が趣味。

 好きな食べ物はお好み焼き。


 でも。

 唯一知らないことがある。

 それは……。


「ねえ。拓ちゃん」


 その時、私は胸のドキドキを隠しながら言った。


「何」

「明日、大桐おおぎり神社の夏祭り。一緒に行かない?」

「夏祭り?」

「うん」

「……別にいいけど」

「じゃあ。明日の夜七時。沿道の入り口のところね。絶対約束よ!」

「ああ。わかった」


 そう約束を交わして、私達は別れた。



 ***



 翌日。


 私は夕方から、お母さんに頼んで丁寧に浴衣を着付けてもらった。

 今年作ってもらった藍色の地に赤い朝顔の柄。赤い帯。

 手には白い巾着袋。

 そして、セミロングの髪はアップに結った。

 うん、完璧!……と思いたい。


 私、この浴衣、似合っているかな。

 拓ちゃん、気に入ってくれるかな。


 そんなことを思いながら、待ち合わせ場所に行くと、


「拓ちゃん!」


 拓ちゃんが先に待っていてくれた。


 私を見つめるそのまなざしに、

「似合う……?」

 と、恥じらいながら問うた。


 拓ちゃんはそれには答えずに、

「はぐれるなよ」

 と言って、いきなり私の右手を掴むと歩き始めた。


 こんな強引な所も拓ちゃんらしい。


「あ、りんご飴!」


 私は、早速、お気に入りのりんご飴を見つけて、はしゃいだ声を出した。


「拓ちゃんも食べるでしょ?」

「俺はいいよ。男だから」

「それは理由になってないわ」


 そう言いながら私は赤いりんご飴を二つ買うと、強引に一つ拓ちゃんに渡した。拓ちゃんは、やれやれと苦笑している。私は早速、ご機嫌にりんご飴を舐め始めた。


「ね、ね。拓ちゃん。金魚すくい!」

 今度のターゲットは、金魚屋さん。

「やめとけよ」

「えー、どうして?」

「とった金魚、どうせ死なせるだろ。可哀想だよ」

 拓ちゃんの言うことはもっともで、私はシュンとしながらも金魚すくいを諦めた。


 そうこうしながら、神社の境内を目指す。


 私は、親友の真子まこちゃんと彼氏の話や、水泳部の練習が鬼キツイことや、色々賑やかに話している。


 だって、拓ちゃんと……手を繋いで夏祭り。


 けれどその時。

 ふと恥ずかしくなって私は、それまでの饒舌から急に口籠もった。

 不意に訪れた沈黙。

 私は、その気まずい場を誤魔化すように口を開いた。


「ねえ、拓ちゃんは好きな女の子いないの?」


 私はわざと無邪気さを装った。


「……いるよ」


 拓ちゃん……好きな人……。


「誰?」

「教えない」

「ケチ。応援するのに」


 嘘だ。


 私は……私達は……。


「だって私達、幼馴染だものね」


 その瞬間、私はこれ以上はないほど艶やかに笑った。



 その時。



 ドーーーーーン………!!



 大きな打ち上げ花火が暗い夜空に上がった。


 見上げる私の瞳から、冷たい一筋の涙が流れるのを見られないよう、私は拓ちゃんから顔を逸らした。


 その時、流れた涙の雫は、まるで露店で売ってるおもちゃのダイヤのようだと思った。






 あれは、蒸し暑い夏祭りの夜。

 私はおろしたての浴衣を着て。

 お気に入りのりんご飴を舐めて。


 そんな私の隣には。

 確かに君がいてくれたのに。


 それは昔。

 遥か遠く。




side Bもよろしくお願いします。

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