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小さな瓶の星ころ集。  作者: 植木まみすけ
38/39

「蒼い箱とスズメさん」★

挿絵(By みてみん)




小さな蒼い箱に、白いリボン。暗闇の中、ポツン。ボクは"サミシイ"の箱。


それにしてもここはどこだろう。寒いなぁ。どうやらどこかのお屋敷の窓辺、作りもののとげとげの木の途中に、ひっかかってるみたいだ。


そうだ、ボクはプレゼントのカタチをしてるだけの小さな飾りモノ。オーパーツ?違う違う、いやなんだっけ?オーナメント…まぁいいや。


明日は昔のエライ人が生まれた、お祭りの日なんだって。


イエスだかノーだか忘れたけど、たしかそんな名前の人。まぁどうだっていいけど。


ボクは"サミシイ"のぎゅうぎゅう詰め。この蒼い箱として生まれた時から、ずっとずっとこんなだ。慣れてしまった。


どうやらこの世界の、どこかの誰かが、捨てていった"サミシイ"。


ボクがサミシイでいっぱいに満たされてる時、捨てていったどこかの誰かは幸せであったかくって”ウレシイ”で満たされてるんだって。


ふぅん、そうかい。どうだっていいや、ボクは慣れてる。


 。゜

  +.

 .

 挿絵(By みてみん)

  *


「こんこんこんイブですよぉ!」かわいいあの子が窓の外。

たまにスズメさんが遊びに来るけど、ボクは何しに来たの?と冷たく返す。


だってボクが満たされちゃったら"サミシイ"の箱の役割を果たせなくなる。まったくめんどくせぇ。



「蒼い箱さん、朗報です。"サミシイポイント"が1万ポイント貯まりましたぁ!」


なんだそれ…?外は雪が降り始めたみたいだった。青く遠く沈む町並。


「ポイントを引き換えて、"サミシイ"箱係を誰かと交替することもできますよぉ!」


考えたこともなかった…。代われるヤツだったんだこれ。しかしなんかもうボクは元々こういうモンだって思ってたから…。


「ポイントの使い方、他のは何かないの?」漠然と問い返す。

「ありますよぉ!」


スズメさんがだしてきたチラシの概要はこうだった。



*****************


1万ポイント「サミシイ箱交替券」

8千ポイント「一日外出券」

5千ポイント「ハワイごっこ券」

4千ポイント「好きなコとチューする券」

2千ポイント「牛丼5杯無料券」


*****************



なんだこの世俗的な展開は、冒頭で雰囲気出したのがアホみたいじゃないか。


「これは例えば2千のやつを5回使うとかいうのも出来るの?」

スズメさんは嬉しそうに「できますよぉ!」


このラインナップならフツーは一万のやつをみんな選ぶんだろうなぁ…。


「1万のやつは、選べばテキトーなヤツに代わってもらえんの?」

「指名しないとダメですね…」ちゅん…とうつむく。ちょっと可愛いなと思ってしまう。


代わらせるヤツを思いつかない。そして冒頭から何度も言ってるようにボクは"サミシイ"には慣れていた。


少し考えてボクは

「スズメさんと二回チューして牛丼でいいかな」「ボクのこと気にかけてくれるのキミだけだったから」


となげやりに言ってしまった。


スズメさんは、しばらくぽかんとして、ぽかんとして、急に真っ赤っかになった。


「あの…あの…あの…」

「それでは…たたた、大変お得なコースが…」




「ござござ、ございます…」


ほう…。


「まず…ハワイごっこ券を…使って…」


ほほう…。


「高飛びするところからです!」


スズメさんはバァンと窓をギャング映画よろしく叩きわって、くちばしで俺を窓辺からかっさらった。




「ハワイごっこ券の期限は半日…!それを2回使います…!それまでの間に時空の扉をぶっちぎれれば………逃げ…切れる…!」


雪に沈む街並みが、剛速球で後ろに逃げて飛んでいく。



     *。挿絵(By みてみん)


「come on Aloha `oe~!」


     。挿絵(By みてみん)。゜



スズメさんの号令ととも、景色が、気温が、本をめくるみたいにがらりと変化した。極彩色、碧い海、輝く南国、ぽっかり浮かぶ翠玉の島。ここはハワイ。南風切り裂いて飛ぶ。


「スズメさん…?」

「わたし、わたし、ずっと蒼い箱さんのこと…気になってて…!」スズメさんの顔が赤いのが、熱で伝わってくる。ボクがいる場所が、くちばしの先だから…。


「…ボクもだ」箱の一部が桃色になってしまった。生まれてずっと蒼い箱だったんだけども。


スズメさんはぎゅんぎゅん飛ばす。南のヤシ、めくるめく青、仰ぐパノラマ。眼前は、もう”ハワイごっこのセカイ”とかいうののはじっこの、お盆の上の海がざぁざぁこぼれて落ちる、世界の終り、宇宙の始まりの地点だった。


「ここからが正念場です…!」こいつははやぶさかなんかなのか、ほんとにスズメか?そうかこれが”恋”の魔力か。




両想いを乗せ、星々を切り割いて暖かい風。時空のうんたらに間に合うかどうかわからない。でもボクの中、初めて"ウレシイ"が満たされた。


ふぅんこんななんだ「うれしい」こーゆーのがウレシイってヤツか。すげぇな、こんないいモノだったのか、みんなもこんなだったらいいのにな。



―――スズメと蒼い箱は、飛んでった。

―――時空を超え、着いた先、チューをまずは2回。



 。゜

  +.

 .

 挿絵(By みてみん)

  *




――地球のどこか反対側、風邪っぴきの物書きが1人「今年のイブは最悪だなぁ…」へーくしょん!と真っ黒に焦げたさんまを落としそうになりながら、鼻を垂らした。


「なんだこりゃ、やたらサミシイな…」




数か月後、何故か物書きの家に、10杯分の牛丼の誤配達があったとか、なかったとか。




-了‐

メリークリスマス!

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