「何の変哲もない魔法のポット」
はじめまして、"マスター"
遠く遠い旅をしてきた、ボクたちは
・マスターの"セカイ"
・マスターたちの生活の守護者"
・マスターの大切な家族。
すべての状態をほんのちょっとだけ回復して、"セカイ"を塗り替える魔力を授かってきた、何の変哲もない、500円のポットです。
あ、゛心゛は封入されています!
蓋の方は弟。
ボクたち2人で一つの役割。
ボク達に命と"力"を授けた、南南西の魔術師は言う。セカイは変えることが出来る。例えば、一杯の紅茶から"セカイ"は色付く、と。
ボクたちは、いれてもらったお湯を、大切に、大切に、まるでマスターたちの結婚指輪みたいに大切に抱えて、マスターたちに暖かい飲み物をお出ししていくことが、精一杯出来ることで、それ以上でもそれ以下でもない。
ボクたちは、ちょっと自信がない。
いや、だいぶ…。
この過大な任務は何なんだろう?!
偏屈で、浮世離れしてる彼女が言う事が、ボクたちにはよくわからない。
ボクたちには、自分たちに出来ることが、よくわからないからだ。
南南西の魔術師は言う。
―「それでいい。」
― 「我々は、皆、ちっぽけなようで、おっきい。大仰なようで、些細。そんなもんだ。」
やっぱり意味が分からない。本当にこの人は魔術師なんだろうか?ペテン師とか、NEETかなんかじゃないだろうか?!
というわけで、ボクたちは実はなんだかよくわからまま、この北の北、ささやかで美しい、野と田、芳る村にやってきました。
そうそう、もし気に入って毎日使って下さるようになったとして、ボクたちを修繕したくなったりしたら、いつでも魔法をかけ直すので、どうぞいっぱいいっぱい使ってくださいとの言伝を預かってあります。
このガチガチに常識で塗り固められた"セカイ"を、どうやって変えていくかは、マスターたちとの暮らしを大切にしていくことで、考えて行こうと思う。
―さあマスター。ボクたちに、どうか名前をつけてください―
***
遠く離れた友達に「魔法のポット」と称したアイテムを贈る時つけた小さな物語の序章。