「何かがはじまるのは分かる」★
「へーくしょん!」
ここは地球町。木枯らしが吹き始める頃。
――俺は会社帰りぽつり一人。路地裏の屋根どもの隙間からチラとのぞく紅藤の雲、コートに肩すくめ目だけ遠い空を仰いでいた。暮れなずむ帰路。
「家、喰うもんあったかなぁ…」へーくしょん!
室外機から、寒々しく吐きだされる風に左右同時にぶおりと煽られ、先が濡れた赤い鼻をすする。朝剃ったはずの顎には、すでにばらばらと髭が復活していた。髪も朝よりもさっと伸びてるような気がするから困る。
『そこの冴えないお兄さん』
道端のどこかからふいに声。いかにも俺はプリンスオブ冴えないだけど、この声はいったい…?
『”去年の今日”も鼻が真っ赤だったね』
『いや、毎年か』
頭の上から降るようにくっくと響く笑い声。
「!?」
見上げると電信柱の天辺に、釣り目で色素の薄い端正な顔立ちの少年が、帳面を広げ座っていた。こげ茶と黒のグラデーションの芝居がかったマントを纏っており、まるで何か漫画の登場人物のようだった。
少年は目深にかぶった学帽をちょいとあげ、こう続けた。
『お兄さんは11月4日は、毎年風邪で、会社抜けて病院にいく癖があるね』
――物語でも始まるのだろうか。
『2年に一度、11月1日、星語商店街中央アーケードのひし形タイルの上に「眼鏡」を落とす癖があって…』
『そして11月28日は“5年”に一度、彗の橋交差点で、書類の束を風に飛ばす癖があるね』
少年は長めの前髪をかき上げながら、帳面をぺらぺらとめくる。
――俺は堂々と自慢してやるが、どうかすると今朝、飯を食ったかどうかの記憶も怪しくなるような頭脳の持ち主だ。そして今朝の飯も定かではなかった。
「…な、何なんだ?」
『ボクは”季”の書記』少年は薄く笑う。
『そして、今年の11月28日は、“5年目”だ』
次第次第に少年の周りを銀のオーラのようなものが、ぼわり包み始めた。
『その日は書類で”風”を引っ掻き回されるとちょっと困ることがあるんでね』
まるで小鳥でも指先に留まらせるように、枯葉をくるくるともてあそび操りながら、少年は続けた。
『今年はお兄さんに”邪魔”をさせないよう…』
『ボクが派遣されたってわけ』
雪のような表情で口の端だけで笑う。
指で印を切って寒空に向かって”合図”したかと思ったら 10mはあろうかという高さから、ふわり、木枯らしを纏い、降りてきた。
「ははぁ、わかった…」
――俺はこういう少年が出てくる物語を知ってる…。
「さてはお前…」
俺は灰色の脳細胞を目まぐるしく回転させ、自信満々で解答をはじきだし、言い放った。
「北風小僧だな?!」
少年は軽く転び、耐えられない様相で叫ぶ。
『もうちょっとラノベっぽいので頼む!!!』
―了―
キャラデ載せておきます。
主人公。
季の書記。
次の19話「昭和禁止」を1000字程度のお話に書きなおしたもの。