表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな瓶の星ころ集。  作者: 植木まみすけ
18/39

「何かがはじまるのは分かる」★

「へーくしょん!」

ここは地球町あおやねちょう。木枯らしが吹き始める頃。


――俺は会社帰りぽつり一人。路地裏の屋根どもの隙間からチラとのぞく紅藤の雲、コートに肩すくめ目だけ遠い空を仰いでいた。暮れなずむ帰路。


「家、喰うもんあったかなぁ…」へーくしょん!


室外機から、寒々しく吐きだされる風に左右同時にぶおりと煽られ、先が濡れた赤い鼻をすする。朝剃ったはずの顎には、すでにばらばらと髭が復活していた。髪も朝よりもさっと伸びてるような気がするから困る。


『そこの冴えないお兄さん』


道端のどこかからふいに声。いかにも俺はプリンスオブ冴えないだけど、この声はいったい…?


『”去年の今日”も鼻が真っ赤だったね』

『いや、毎年か』


頭の上から降るようにくっくと響く笑い声。


「!?」


見上げると電信柱の天辺に、釣り目で色素の薄い端正な顔立ちの少年が、帳面を広げ座っていた。こげ茶と黒のグラデーションの芝居がかったマントを纏っており、まるで何か漫画の登場人物のようだった。


少年は目深にかぶった学帽をちょいとあげ、こう続けた。

『お兄さんは11月4日は、毎年風邪で、会社抜けて病院にいく癖があるね』



――物語でも始まるのだろうか。



『2年に一度、11月1日、星語ほしがた商店街中央アーケードのひし形タイルの上に「眼鏡」を落とす癖があって…』


『そして11月28日は“5年”に一度、彗の橋交差点で、書類の束を風に飛ばす癖があるね』

少年は長めの前髪をかき上げながら、帳面をぺらぺらとめくる。



――俺は堂々と自慢してやるが、どうかすると今朝、飯を食ったかどうかの記憶も怪しくなるような頭脳の持ち主だ。そして今朝の飯も定かではなかった。



「…な、何なんだ?」


『ボクは”季”の書記』少年は薄く笑う。


『そして、今年の11月28日は、“5年目”だ』


次第次第に少年の周りを銀のオーラのようなものが、ぼわり包み始めた。


『その日は書類で”風”を引っ掻き回されるとちょっと困ることがあるんでね』


まるで小鳥でも指先に留まらせるように、枯葉をくるくるともてあそび操りながら、少年は続けた。


『今年はお兄さんに”邪魔”をさせないよう…』

『ボクが派遣されたってわけ』

雪のような表情で口の端だけで笑う。


指で印を切って寒空に向かって”合図”したかと思ったら 10mはあろうかという高さから、ふわり、木枯らしを纏い、降りてきた。


「ははぁ、わかった…」


――俺はこういう少年が出てくる物語を知ってる…。

「さてはお前…」

俺は灰色の脳細胞を目まぐるしく回転させ、自信満々で解答をはじきだし、言い放った。









「北風小僧だな?!」

少年は軽く転び、耐えられない様相で叫ぶ。


『もうちょっとラノベっぽいので頼む!!!』


―了―



キャラデ載せておきます。

主人公。

挿絵(By みてみん)

季の書記。

挿絵(By みてみん)

次の19話「昭和禁止」を1000字程度のお話に書きなおしたもの。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ