「畜生!月が綺麗だな…」★
”言ノ葉国”。
南南西の方角の雲の中にある人口9人の小さな国。
――いかにも耳触りのいい国の名前に騙されてやってきた、俺は詩人。
藤月程前からこの"国家"に配属された、職業詩人だ。
俺は”募集”を見つけた時、てっきり笛を吹いて大地とともにゆうらりと暮らせるのだと思って志願した。詩人たるもの働いたら負け。そんな甘えも手伝って。
――こんなはずではなかった。
ロマンチック部の部署は俺を含め3人。今日は西に急ぐ雲を視て、日付が変わるまでに、町に"恋の種"を20000編ぐらいばらまかねばならない。無茶だ。3人で分担するとしても一人6666編とちょっとだ。だいたいいつもこんなものなのだけど、今日はひどい。
なんでも、地球町の方は加加阿の日とかいう、告白↑と↑き↓↓め←→き←→チャンスデーなのだそう。知るか。獣はセックスでもしておけ。う~セックスセックス。
脆いカステラみたいな詩人のハートは同僚3人とも限界だった。
「もうこれ『サンタマリア↑↑』とかいっときゃいいですよね……」
「それだと、町にマリアが20000体届いてしまう…」
「あ”あ”~めんどくさ…」
「じゃ『月が綺麗ですね』を20000まとめてちゃっちゃと…」
俺たちは思わず顔を見合わせた。
「それだ!」
さぁ反逆だ。俺たちの心を返してもらおうか。
3人で結託して、月がぽっかり丘の上。東向きの風巻き起こし、ぴゅいと色を編み、一斉に詩を吹いた。月のイメージを笛の音に乗せ、はじくように吹く。時間がない。1編1編吹いてられない。最終的に20000編になるよう、空中で勝手に分離するイメージを夜風に乗せて吹きつづけた。音色は地球町に着くころ、月のカタチに育ち、金糸雀色の風になった。
雲が吹くほどに、小さな満月がひらり、ふわり、分離し、いつしか町には小さな月が降りはじめた。
「あれれ…」
「なぁ、これ」
俺たちは気づくと、笛を吹くのをやめ、光る眼下の風景にみいってしまっていた。
ゆっくりと、カスタード菓子みたいな満月たちが、見上げてる町の皆の鼻っ先ではじけ、恋の種を咲かせる。片思い、両想い関係なく、降り注ぎ笑顔を照らしていた。見上げると親玉みたいな大きな満月。俺たちは3人で顔を見合わせ、町の皆と一緒に叫んだ。
「「「月が綺麗ですね!」」」
はじめまして。植木まみすけと申します。本業は絵なんですが、文章では少し不思議なお話を書いています。
この“小瓶”に詰まっている星ころ達は、皆カタチや色が違ってて、少し歪だったり、宍色だったり、青褐だったり、雲の結晶だったり、詰めるものの系統を決めていません。
あなたが好きな、色、空や雲が、一つでも詰まっていたらいいなぁ、と思います。