第七章
ここに来て、少しだけ分かったことがある。
本当に「ライファ」の周りには人がいない。
唯一の侍女は、レイという少女。
とても気が利き、気さくな子であった。
「姫様、ご気分はいかがですか?」
「大丈夫よ。ありがとう」
彼女はこの国でも珍しい銀色の髪の持ち主だった。
……フローの青銀髪・青眼も充分珍しいのだが。
ライファはレイの髪が大好きになった。
優しく、柔らかな色。
それは彼女の性格そのものだった。
「今日は面白いお菓子が手に入ったのですよ」
嬉しそうに膝の包みを開けた。
その中に入っていたもの。それは。
「あら、和菓子ね」
「ワガシ?何ですか?」
レイは不思議そうな顔をした。
同時にライファも不思議に思った。
それは確かに和菓子である。
とても凝った、花の菓子。
「これは、昨日城に来た使者様が置いていってくださったものです。私も王様に頂きましたが、とても美味しかったです」
「そう。それは良かったわ。じゃあ、私も頂こうかしら」
「はい。あ、それでは紅茶でも…それともコーヒーがよろしいですか?」
「そうねぇ…」
すると、ライファの声に重なる声があった。
「姫様には紅茶がいいだろう」
それは扉の前に立っていたフローだった。
「フロー様。お帰りなさいませ」
「南町はどうだった?」
ライファは、自分が動けない変わりに彼を使いに出した。
レイはライファの部屋にあるちょっとした台所に向かっていく。
だが、途中で立ち止まりフローを見返る。
「フロー様も紅茶、お飲みになりますよね?」
「ああ。頂こう」
相変わらず体調を崩し気味のライファはベッドに体を起こしていた。
その隣にある椅子に腰を掛け、フローは現状を語った。
「やはり駄目ですね。私が二日間滞在しましたが、奴は出ませんでした」
「そう…。やっぱり私が行った方が分かりやすくていいのに…リオと父様が止めるんだもの」
「それは仕方がないですよ。早く体調を直してください」
「分かってるわよ」
ふう、と息をついたライファは和菓子をかじった。
懐かしい味が、口に広がる。
「姫様、紅茶です」
「ありがとう」
ライファは笑顔でカップを受け取ると、暖かい紅茶を飲んだ。
和菓子に紅茶なんて、あまりない組み合わせだ。
フローも同じ事を思っているのか、じっとカップの中を見つめていた。
青い瞳がとても悲しい。
「フロー?」
「あ…すみません。少し疲れているみたいで…。部屋に戻って休みます」
「そうね。それがいいわ」
腰を上げたフローは、ポケットから何かを取り出した。
それは、硝子で出来た髪飾りだった。
幾重にも滴形の硝子が重なって花の形を成している。
「お土産です。帰りがけに買ってきました」
「ありがとう…とてもきれい。大事にするわね」
頭を下げて扉から出て行くフローを見つめていたライファは、レイに呼ばれて我に返った。
「姫様。そういえばリオ姫様の噂ってご存じですか?
「は?」
「リオ姫様とフロー様が恋仲だって」