第五章
地図に没頭していたライファは、ふとリオを見上げた。
「そう言えば、リオ外出中じゃなかったの?」
「姉さまが倒れたと聞いて、急いで戻ってきたんです」
軽くため息をつきながら、リオはライファのベッドに腰を下ろした。
そこで初めて気が付いた。
リオの瞳は、緑だ。
「ライファ様?」
「え…?あ、うん」
「どう思いますか?」
「南町ね…視察に行きたいのは山々なんだけど…」
「駄目です」
その意見はあっさりリオに却下された。
「……よね」
すると、部屋の扉の外でリオを呼ぶ声が聞こえた。
しぶしぶ退室するリオを、ライファは呼び止めた。
「後で、もう一度部屋に来てもらえる?」
「分かりました」
一言だけ答えて、重い扉を押して出て行った。
ふう、とライファは息をついた。
「ね、フロー。質問があるんだけど」
「昨日から質問ばっかりだな」
普通の口調に戻ったフローは大きく背伸びをして、窓際に移動した。
「で。なに?答えられる事なら答えるけど」
「うん。どうして私の部屋には侍女がいないの?」
「姫様が追っ払ったから。あんまり鬱陶しいの嫌いでしょ」
そういえば。
誰かに手を煩わせるのは苦手だし、好きではない。
それは、前の『ライファ』も同じだったのか。
「だから言ったでしょ?だれも気づかない。姫様が入れ替わったことを」
「なるほど…」
「唯一と言えば、ここの国の記憶くらいだな」
そうして振り返った彼の瞳は…
「蒼……」
髪の色も、瞳の色も、蒼。
透き通って、美しい。
「フローは、ニホン人?」
「……そうだけど」
「今の間、何?」
「気のせい」