第四章
これは、夢だ。
『どうかしたの?………』
声が、聞き取れないの。
大事な部分が。
私の、名前。
『ほら。行こう』
呼ばれてる。
呼ばれてる。
「私」が呼ばれてる。
『目を覚まして。追いてくわよ』
待って。
待って。
私が戻るまで、待ってて。
「姉さま…?」
乳発色の視界に、見慣れない輪郭が現れた。
思わず目をこすったライファは、それをしっかりと見た。
「あ…えと……」
「まだ寝ぼけているのですか?リオです」
「り…お…」
何度か瞬きを繰り返し、彼女をしっかりと見た。
「大丈夫ですか?姉さま」
リオに聞かれて、初めて気づいた。
ここはベッドだ。
自室のベッドに横たわっていたのか。
「リオ…お水くれる…?」
「はい。少し待っていてください」
そう言ってリオは部屋から出て行った。
ライファは喉がからからだった。
どうしてか、体が重い。
きっと熱があるのだろう。
すると、きぃという音と共に扉が開かれた。
「リオ…?」
そう尋ねたライファは目を見開いた。
「ご無事ですか、ライファ様」
「フロー…」
横になったまま彼に目を向けると、フローは安心したように息をついた。
「よかった…倒れていたと聞きましたので」
他人行儀に敬語を使ってくるフローに少し憤りを感じる。
自分にとって、真実を話し合える人なのだからもっと普通に接して欲しいと望んでしまう。
だが、王宮ではそれは彼にとって良くないことなのだろう。
「あら。来ていたの?」
リオが片手にグラスを持ち、扉からひょっこり顔をのぞかせた。
「リオ様。お久しぶりです」
「そういえばそうね。フローったら姉さまにばっかり構うんだから」
くすくすと笑って、リオはライファにグラスを渡す。
受け取ったライファはそれをゆっくりと口に含んだ。
予想外に冷たいそれが、体を通るのが分かった。
「そういえば、フローは私の安否を確認しにきただけ?」
ライファがちらりと見やると、フローは頭を横に振った。
「いえ。ご報告があって……」
フローの声色が下る。
ライファには何かあったと予想するのは容易かった。
大事な話だと思い、体を起こした。
「南町の山下で騒ぎがあったそうです」
「騒ぎ?」
「はい」
フローは手に持っていた地図をライファに見せた。
「ここです。民の話だと、怪物のような人間だったと話しています」
「怪物のような人間?結局はヒトだってこと?」
「おそらくは」




