第十一章
「違う…違うんだ」
ライファはじっとフローの声に聞き入った。
「本当は…ライファなんて人物は存在しなかったんだ」
目を見開く。
彼は何を言っているのだろう。
「じゃあ…リオは?私の妹、じゃ…ないの…?」
とぎれとぎれになって言う。
呼吸困難になりそうだ。
「リオ様もそうだ。俺たちは存在しないはずの人間」
「それ…どういう………」
「言ったよな?名前は大事な物だって」
フローは体を離し、瞳を見つめる。
「座って。話すよ、全部」
ライファにベッドに座るよう促し、自分も隣に座る。
ドレスをぎゅっと握りしめ、その手を見つめた。
「教えて…この世界は一体なんなの?」
「ここは、無の世界だったんだ」
「無…」
ライファは繰り返し呟く。
「モノには全て名前が必要だ。だが、ここにはそれがなかった」
かつては何もなかったセカイ。
その中に産み落とされたモノ。
「それが俺だ」
フローは低くそう言った。
「フローはずっとここに居たの?」
「ああ。おもしろいだろ?真っ白な世界に在るんだ」
自傷したような笑い。
「俺は自分で自分の名前を付けた」
フロー。
それは、誰から与えられた訳でもない。
自分自身の名前だ。
「ここに居る全ての人間は自分で名前を付けてる。ライファにも自分で付けろと言ったろう?」
「あ…」
思い出した。
ここに来て、まだ数日と経っていない頃。
『自分の名前だ。自分で決めればいい』
そう言った。
「あれ…そういう意味だったの?」
「ああ」
しかし、疑問が残る。
それでは自分はどこから来たのか。
「私も『無』だったのよね?じゃあ、『無』は何から生まれるの?」
「言っただろ?時と場所の歪みだって。解るか?時間と場所が一体になる所」
「分かんない…」
「じゃあ、逆はどうだ?」
「逆…?」
時間と場所が、歪む所。
それは…
「人の心だ」