第十章
長い長い沈黙。
フローは何も言わない。ライファも、無言で彼を見ている。
ただ、明らかにフローは動揺していた。その証拠に、視線がさまよっている。
「答えて」
ライファの口調は強かった。
それに呼応するように、二人の髪が舞い上がる。
やがて、フローは俯いてしまった。女性とも見惚れる美しい容姿が、今はとても哀しい。
「嘘だったのね。今までの言葉も、態度も全て!」
フローの肩を強く掴む。
堪えきれない怒りが、込み上げる。
「何か言いなさいよ……言い訳も出来ないの!?」
無言を押し通そうとするフローに、更なる感情を覚える。
ライファは頭に血が上って、顔が熱くなるのを感じた。否、熱いのは目。
「違うって言ってよ!嘘でも、言い訳でもいいから!!黙らないで!」
「………否定は、しない」
乾いた音が響く。
ライファは、自身の手も痛いほど強く平手打ちを喰らわせた。
肩を上下に揺らし、息を切らせてフローを凝視していた。
「最低」
視界が、霞む。
それに気付かないフリをして、続ける。
「あなたが私を早く元の世界に帰したかった理由がよく解ったわ。本物の『ライファ』を取り戻したかったのね。別に、私の事なんて最初からどうでもよかったんでしょ?」
フローは、弾かれたように顔を上げた。
「それは違う」
「違くないわ。私が邪魔だったのよね?そうよね、私と『ライファ』が入れ替わらなければずっと一緒に居られたのに」
「話しを聞け…」
今度は、フローがライファね肩を掴む。
だが、ライファはその身をよじって逃れようとする。
「嫌よ!フローだって、早く私なんて居なくなればって……」
不意に、視界が遮られる。
青い瞳が、眼前に在った。
ライファの言葉を遮るように、フローは唇を塞ぐ。
「………っ!」
キスをされたと理解したライファは、思い切りフローを突き飛ばした。
「な…っ………」
真っ赤になったライファは最早思考能力を失っていた。
そんなライファを、フローは優しく抱きしめる。
「話しを、聞け」
再び言葉を繰り返す。
そして、ようやく黙ったライファは彼の鼓動を聞いた。