オフ・コミュニケーション 1
初・登・校、になります。
先生おはようございます。
よろしくお願い致します。
ランドセルは断然赤い。
《どうやら、今回の交信は無事成功したみたいだ》
でも次はどうなるかロジャーには全く分からないのだ。不安定なその電波は、いつ不具合を起こしてしまうか分からない。どんなに繋がろうと近くにそれを感じることは不可能で、不安は募る。しかし不安なロジャーにできることは、この"交信"をただ地道にこなしてゆくのみなのだ。その姿はどうやら見る人によって異なる事象に映るようである。それはー
意味のない行為。力強さ。生きる者。目的。縋る者。愚かさ。忠実さ。誠実さ。業。病気。気狂い。滑稽。虚しさ。美しさ。儚さ。孤独。
偏見はどこにでもある。ひとりの人に人格がひとつ(またはひとつ以上)ずつあるということは、それぞれの人の目から見た世界はその人の人格の数だけある。未だに人は信じられないかもしれないが、同じものはひとつもない。既に経験者である僕が断言しよう。しかし、偉そうなことを言っても僕が実際このことに気付いたのは大人になってからである。理解はできても実感するには、時間が必要なのかもしれない。つまり、何か自分と他人が同じに見えてしまうのは、共感の所為だ。その感情は自分と他人を重ね合わせ、自分を隠す、または他人を覆い、異なるものの境界線をうやむやにしてしまう。ロジャーが人からどう見られようとロジャーでいられるのは、自分と他人を区別できるからだ。彼は彼のすべき事をこなす。少し大袈裟に、それだけが彼を彼たらしめる生存活動、とでも言おうか。もちろん、彼にも不安な気持ちがないわけはない。しかし、前に進むほかないのだ。とりあえず行動することが日々をまわしてゆく。
さて、話はやや戻るが、僕にはよく分からない。彼がそんなことを地道に繰り返すわけを僕はよく知らない。孤独にルーティーンをこなす彼の背中は僕より非常に小さい。おまけに足というものは胴体と一体化しているようである。口は小さくすぼんでいて、目は二つのレンズがギラギラと七色に光る。鼻と思しきものはない。ロジャーはきっと、人間たちで言う所の"宇宙人"だ。当然、人語は通用しない。しかし、大切な僕の友人である。宇宙飛行士である僕と未知なる生命体が出会ったのは、僕がようやく念願の宇宙飛行士に選ばれ、その初仕事、ある小惑星で実験を行うためにロケットに乗り込んだ時である。ふと気付いたら乗っていたのだ。一体何者なのだろうか。一体どこからどうやって入り込んだのか。何もかも腑に落ちなかったが、彼はこちらを敵視しているわけではなかった。むしろ友好的な態度であることに喜びを感じたので、僕はすべての謎を良しとした。言葉は通じなくても、彼の考えてることがなんとなく分かるのだ。不思議なことで、(ロジャーには失礼かもしれないが)ちょうどペットの犬や猫と同じような感覚なのである。しかし彼には確固たる意思があり、欲望もある。苦手な事もあるようであるし、その辺りは人間という動物と酷く似通っていて実に興味深い奴である。ちなみに、名前は僕が勝手につけたものである。
ところで、僕という人間についてー僕は、人間が嫌いだ。昔から人とそりが合わないと感じる度に、夜空の世界にただただ憧れを抱いた。空を見上げて星を数える。図書館で本を借りてきては、夜空の下で読んだ。天体の本を読むときは、本と照らし合わせて星座を探した。僕にとってその時間は無限大で、星の数もまた無限大である。唯一自分が自分だと感じる行為であった。また、人嫌いな僕でも、ガールフレンドはたまにいた。その大半は(実は大半というほどの数ではない)天体が好きで、趣味の合う友達のような関係だったが。そして、宇宙飛行士になったのも、出来るだけ人のいないところへ行きたいと思ったからである。もちろん、純粋に天体が好きだという理由もあった。実は、僕は大学は薬学部出身である。宇宙飛行士というものは、自然科学系の学部を出ていることがひとつの条件としてある。そのことを知った高校時代の僕は、その頃から計画的に学歴と経験を積み重ねてきたのだ。全ては宇宙という未知の世界へ飛ぶ為の大切なピースだった。
最後まで閲覧してくださり、ありがとうございます。目を通してくださったことが嬉しいです。
出来る限りコンスタントにやっていくつもりなので、その時また読んでいただければ本当に幸せです。
ありがとうございました。