先祖様、残念な報告がございます。
注意!!
・僅かにボーイズラブ描写あり
・主人公がおかしい
・中途半端
これらのことが許せる方のみレッツゴー!
誰もが逃げ出したくなるような光景が無限に広がる。そこが戦場というものだ。
屈強な男たちでさえ逃げ出し、敵に寝返り、許しを乞うものも少なくない。
そんな中で"その人"だけは違ったと言う。
騎士団長の証である白の甲冑を身に纏い、愛刀を携え颯爽と馬を駆る。
勇敢に自軍を指揮し、時には自ら前衛で敵に立ち向かった。
後々語り継がれるアレピオスの戦い。圧倒的不利な戦況から逆転勝利をもぎ取った彼は、敵の大将の血で紅く染めた剣を天に掲げてこう言った。
「我が一族に続け!! 我の子孫が王に代わり、この国を支えていくだろう」
―――――――……
アレピオスの戦いが起こる前の国はひどい状況だった。それまでの王が己のことしか考えていない人で、政治は滅茶苦茶。他国からも侮られ、国民は貧困に苦しんだ。
そんな中で行われた戦を見事勝利に導いた先祖様――ガレイル=ユグリースはこの国の英雄となった。
先祖様は戦の後も王政を廃止し、自ら政治や外交を行い国を建て直した。
病を患い、40歳の若さで命を落とした時は国中が嘆き悲しんだという。
そして先祖様の言葉に従い、私の一族は代々国の為に尽くしてきた。
男は騎士や新技術を開発する科学者として、女は政治家になったり、孤児院を開設したりして、各々が国と国民の役にたとうと必死に努力してきた。
英雄の一族として、それは使命であり誇りだったから。
もちろんそれは、ガレイル様から数えてちょうど百代目にあたる私も例外じゃない。
「それではこれより、第一部隊と第二部隊による合同演習を始める」
私がそう声をあげると、50人を越す屈強な男たちは真剣な面持ちで腰に差している訓練用の剣に手を掛けた。
その様子にニッと口角を上げ、今日の訓練の内容を告げる。
「何人がかりでも、どんな戦術を用いても構わない。"僕"に剣先を当てられた人から合格としよう」
私――アルティ=ユグリースは今、性別を偽りながら女人禁制の騎士団に入団している。
幼い頃から、当時騎士団長だった叔父さんに護身術として軽い剣さばきは習っていたが、騎士になるつもりなんて毛頭なかった。
なら何故私がここにいるのかというと……
「アルティ隊長、覚悟!」
「甘い!!」
私は後ろから剣を振り上げてきた一人の若い騎士の手首を叩くと、鳩尾に蹴りを入れた。
ぐあっ と悲鳴をあげながら尻餅をついたそいつに、仲間であろう別の騎士が駆け寄り「大丈夫か!?」と腕を肩に回させた。
…………いい。
その光景に思わず顔がにやけそうになるが、歯を食いしばって耐える。
先祖様、残念な報告がございます。
私、アルティ=ユグリースは男性同士の絡みが好きな、いわゆる腐女子になってしまいました。
きっかけは五年前。国に異常がないか確かめに行くという母に付き添い、地方に出向いた。そこで出会ってしまったんだ、リアルホモに。
公共の場の公園で熱いキスを交わし合う二人の男性。見ちゃだめよ と母に視界を遮られたが時既に遅し。その瞬間、私の中の新しい扉が開いた。
もうおわかりだろうか?私が男装までして騎士になった理由。それは女人禁制という秘密の花園で織り成される、男たちの熱く甘い物語を見たいがため!!
この女っ気が皆無の状況で道を踏み外すなというほうが無理だろう。最初は誰でも戸惑うさ、同姓に恋をするなんて経験今までないだろうから。でもその葛藤している初々しい反応も大好物だ!!そんな二人が思いを重ね合わせた時、我慢して押さえ込んでいた感情が爆発し……きゃあっ!!やばいやばい鼻血出そう。いいねいいね!テンション上がって参りましたぁっ!!!!
「さぁ、かかってこい!」
そう私は嬉々として剣を構え直したのだけれど
「……あれ?」
何故か騎士たちは皆、地面に突っ伏している。
そのうちの私の足元に転がっていた騎士が胸を押さえながら苦しそうに言った。
「…隊長、本気出さないでくださいよぉ」
「やってしまった」
訓練後、私は後悔していた。
自慢じゃないけど私は強い。そりゃあ剣のスペシャリストからずっと手解きを受けてきて、騎士を志してからは普通の何倍も過酷な試練をやらされたんだから、強くならないほうがおかしいんだけど。
騎士団という組織は一番上に騎士団長がいて、次に副騎士団長。その二人の下に一から十までの各部隊長、さらに下にその各部隊に所属する計千人ほどの騎士で構成されている。
騎士団長と副騎士団長は言うまでもないが、各部隊長に選ばれる人は、そうとうの実力者でなければならない。簡単に言えば、人外。そんな強さを誇る奴等でないと、腕自慢の猛者たちを御することなど出来ないから。
光栄なことに私はその第二部隊の隊長をさせてもらっている。(ぶっちゃけ、叔父さんの地獄の試練に比べれば騎士団の入団試験なんて簡単なものだったんだけど)
あまりのレベルの違いから部隊長が隊員に稽古をつけることは滅多にないのだけれど、絡みを見たいが故に、手加減を条件に第一部隊にも協力してもらって今日の演習が始まったのに。
あーもうっ!興奮すると周りが見えなくなる、私の悪い癖だ。しゅん と肩を落として項垂れる。
そんな私の頭に誰かの手が乗る。
ゆっくりと見上げてみると、今日迷惑をかけてしまった第一部隊の隊長、レオが微笑みを浮かべていた。
「アルティ、そんなに落ち込まないで」
「……しかし」
「あの"紅い雷獣"と名高いアルティ隊長と手合わせができて光栄だってうちの隊員たちが騒いでいたよ。相変わらず桁違いの強さだと」
むしろお礼を言いたいくらいだ と優しい笑みを浮かべるレオに、さらに申し訳なくなる。
ごめんなさいレオ。そんなに優しい貴方の部下を私は邪な目で見てました!!
「アルティ!!お前またやらかしたんだってな!」
「見事な剣さばきだね、一体いつになったらお手合わせしてくれるんだい?」
そこへ第五部隊長のリーと第六部隊長のディアがやってきた。
私をからかってくるチビなリーと、紳士なフリして戦闘狂なディア。ここだけの話、二人は出来てるんじゃないかって思ってるウフフフ。
だってよく二人でいるのを見かけるから……え?それだけじゃ判断出来ない?甘いなぁ~、見えない所で何してるかわからないじゃないか。
「ところで、リーとディアは何の用があってここに来たの?」
また私の意識が飛んでるうちに、レオが二人に問い掛けた。さっきと比べて若干不機嫌そうに見えるけど……どうした?
そんなリオの質問にリーはほんのりと頬を染め、ディアは意味深な笑みを浮かべた。
「お、おお俺は別に、アルティに会いに来たとか、そんなんじゃねーし!!レオと二人でいるのに嫉妬したわけじゃ断じてねーしっ!!」
「フフッ、リーは素直じゃないね。ほとんど言っちゃってるけど。それにレオ、アルと二人っきりの時間を邪魔されたからって、そんなに不機嫌になることないだろう?」
えっ、えっ!?
片方はほんのり頬染めて、もう一人は意味深に笑う!?い、一体お前ら何してきたんだ……うきゃぁぁぁあ!!想像してしまった…!素晴らしすぎる!!
それで私の後ろでずっとブリザードを撒き散らしているレオは……ま、まさか!!
嫉妬ぉぉおおお!?!?!?あーーー美味しい、美味しいよ三角関係!どっちに!?どっちに対して!?
「ハッ!危ないヨダレが」
「……アル、聞いてないね」
ん?なんか言いました?全然聞いてなかった。
私より身長の大きい彼らを見上げると(リーは私とあまり変わらないけど)レオには苦笑され、リーは顔を真っ赤にしながら怒ってくるし、ディアはわざとらしく やれやれと肩を竦めた。なんかムカつくな。
ふと外にある大時計に視線を移すと、午後の4時50分を示していた。おっと、5時から叔父さんが来るのを忘れるところだった。
英雄と呼ばれる先祖様が最強なのは当たり前だけど、その先祖様の再来とも謳われた叔父さん。"氷の鬼神"と言えば、誰もが震えがったとか。
歴代騎士団長の中でも三本の指には入ると言われた叔父さんは今年の春に引退した。まだ若かったのに、極度の姪コンな叔父さんは私と離れることが辛くて入団したその日に辞表を叩きつけたらしい。当時の騎士団長に説得され、騎士団長を三年勤めあげたら辞めるという約束を獲得したらしいけど……私が騎士になった今じゃ意味ない。辞表を取り下げて貰うことが出来ず、泣く泣く辞めていった。
ウザかったから私的には嬉しかったけど。でもまあ、剣を教えてくれたし、去年は色々お世話になったから面会に来たときにはちゃんと応えてあげるようにしてる。
「すまない皆、僕はこれから用事があるのでこれで失礼させてもらう」
訓練用の剣を腰に差し、建物の中に向かって歩を進める。お邪魔虫は退散するので、後は三人で泥沼やっててください。そして出来れば私にその様子を報告してほしいな、なんて。
叔父さんが待っているであろう客室を目指して歩いていると、前方から二人の人物がやって来た。
私はその人たちに道を譲るように脇に逸れ、頭を下げる。
「やぁ、アルティ隊員…じゃなかった。もうアルティ隊長だったね」
「ご無沙汰しています、騎士団長」
そう、この二人こそ今の騎士団をまとめあげる騎士団長と副騎士団長その人だ。
ちなみに私が新人として第二部隊に所属していた去年、騎士団長は第二部隊の隊長だった。その影響か未だに私のことをアルティ隊員と呼んでくることが多い。
「アルティ隊長はまた騎士団長と面会かな?」
「今の騎士団長は貴方ですよ、ダイス」
「あ、あぁそうだったな。まだ慣れなくて」
「いい加減自覚を持ってください」
「いやぁ……すまないジール」
呆れたようにため息をつくクールな副騎士団長と頭を掻く騎士団長。何を隠そう、私のイチ推しカップリングだ。
もぉお!そんな夫婦みたいなやりとり見せつけて私をどうしたいの!?悶えさせたいんですねわかります。
「アルティ第二部隊長」
「は、はい!」
そんなことを考えていると、突然副騎士団長に名前を呼ばれた。少し上擦っちゃったじゃないか、恥ずかしい。それより、何の用だろう?
「昨日隣国の珍しい菓子を入手しまして、食べたかったら面会後に私の部屋に来なさい」
「いいのですか!?」
思いもよらぬ副騎士団長のお誘い。私だって中身は女の子、甘いものに目がないんだ。
つい男装していることも忘れ、素で瞳を輝かせると、常に無表情な副騎士団長はフッと口元を緩めた。レアだ。
そこへにゅっと腕が伸びてきたかと思うと、騎士団長が副騎士団長の襟首をグッと引き寄せた。
「…おいジール?さりげなくアルティ隊員を部屋に誘い込むとはどういうつもりだ?」
「誘い込むなんて、随分な言い方ですね。私はただ純粋に菓子を美味しそうに食べるアルティ第二部隊長を間近で愛でたいだけです」
残念ながら小さい声で交わされた話の内容までは聞き取れなかったが、その顔の近さヤバいですね。誰か後ろから押して!そしたらキス出来ちゃう近さだよ!!
あーもう少しこの二人を見ていたいけど、生憎叔父さんが待ってるんだ。
私は後ろ髪を引かれつつ、何度も後ろを振り返りながらその場を離れた。
客室の扉の前に着き、ふぅ と深呼吸する。さて、今日はどう来るかな?
意を決してゆっくりドアを引く。
部屋の中には誰もいなかった。
あれ?まだ来てないのかな?でもそんなはずは……。
と不審に思い、部屋の中へ足を踏み入れた瞬間
「アルティ!!会いたかったぞーー!!」
「!?」
何者かに急に後ろから抱きつかれた。いや、誰かなんてもうわかりきったことだけれど。
思わず女子のような悲鳴をあげそうになるのをぐっと堪え、冷静にまずは鳩尾に一発肘を叩き込む。
そして相手がお腹を押さえながら後ずさった一瞬を見計らい足払いをかけ、更に体勢を崩したところで顔面目掛け回し蹴りをお見舞いする。
「ぐふっ……さすがだなアルティ。だがまだ蹴りが軽いぞ」
「……チッ」
足払いまでは成功したが、最後の回し蹴りは見事にガードされてしまった。さすがは"氷の鬼神"。
でも、冷徹で血が通っていない、サイボーグとまで言われた叔父さんが実はこんなに残念な人だったなんて、氷の鬼神に憧れを抱いている人たちに言えない。
皆の前ではなかなかの鉄仮面ぶりなのにどうして私の前でだけこうなるのか……。
「可愛いアルティ、こんな狼どもの巣窟早く抜け出して帰っておいで」
「狼どもって……私だって今は男だからね?それと叔父さんが私の実家に居座るうちは帰るつもりないから」
**********
とある騎士たちの会話
「部隊長たちって仲いいよな」
「仲いいっつーか、……ホモじゃね?」
「は!?マジか!?」
「いや、だって第一から第十まで揃いも揃ってアルティ隊長にご執心じゃねーか」
「あー騎士団長や副騎士団長のお気に入りでもあるもんなアルティ隊長」
「……まぁ、普通の男に比べれば背も小さいし、細身だし、たまに見せる笑顔とかは可愛いし、アルティ隊長とならイケるとは思うけど……」
「やべーな、男だらけの中にいるから思考が麻痺してきた」
「あぁ、女に会いてーな」
主人公が男装して騎士になる話が書きたかっただけなのにどうしてこうなった……orz
部隊長たちも三人しか出せてませんが、アルティを外した他の六人もちゃんと設定は決まってたんです。ただ私が力尽きました(笑
なんだか前に投稿した短編のBL乙女ゲみたいな話になってしまいましたが( ̄▽ ̄;)やっぱり私はこういう雰囲気の話が好きなんでしょうね、後悔はしていません!!