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約束の手紙

作者: 空月


 俺があんたに手紙を書くなんて阿呆らしいと思うけど、それがあんたの望みだったから仕方ないので書きます。改まった手紙の書き方なんて知らないし、あんただってそんなもの求めちゃいないだろうからそのあたりは気にしないでください。

 どうしても文体?が統一できないのでそのまま書いてます。変な文になっててもあんたなら気にしないでくれると思うし。


 今朝見たら、あんたがくれた花が咲いてました。「適当に水をあげても大丈夫だよ」とか言ってたのは本当だったんだなってちょっと感心してます。

 小さい白い花です。きっとあんたに似合う。せっかくだからちゃんと世話してみようと思って調べてみてます。適当に世話して花咲くくらいだから大丈夫だと思うけど一応、念のため。

 花の世話をしてると、あんたはやたら花とか緑が好きだったなって思い出します。あんたは俺の故郷も羨ましがってたっけ。自然しかないつまんないところだって何度言っても、見てみたいって言ってましたね。つまんないところだけど、綺麗な景色くらいはあったんで、見せてやりたかったなって、今更思います。


 そういえば、緑で思い出した。あんたはたまに、俺のことを『緑のお兄さん』だなんて珍妙な呼び方をしてましたね。名前のどこにも緑なんてないし、関連する言葉なんてのも入ってなかったってのに。おかげであんたの知り合いからは『緑の人』だなんて呼ばれてます。不本意だけど、これがあんたの置き土産かと思うと、なんかどうでもよくなってくるから不思議です。あ、皮肉じゃないですよ。あんたは信じないかもしれませんけどね。


 そっちはどうですか? 過ごし辛くはないですか? あんたは変なところで世間知らずだから、誰かいいサポート役が見つかればいいんですが。あんたは人を信じやすすぎるから、それも心配です。たまには人も物事も疑ってください。あれだけ一緒にいて、やっと俺の発言に対してはたまに疑うようになってきた、って程度だったから無理かもしれませんが。俺みたいに何事も斜めに見るようになれとまでは言わないんで。

 でもまあ、あんたは不思議と他人を惹きつけるから、きっとどうにかやってるんでしょう。本当は多分、俺ごときが心配なんてする必要はないんだろうと思います。とか言うとあんたはまた「『ごとき』とか言うのはダメだよ」って怒るんですかね。もうこれは癖みたいなもんなんで諦めてもらいたいところです。

 ……でも、正直な話、あんたにそうやって怒ってもらえるのは嬉しかった、気がします。面と向かって言えないまま、別れちまいましたけど。別にマゾ宣言ってわけじゃあないですよ。あんたたまに変な勘違いするから、一応弁明しておきます。


 俺の方はぼちぼちそれなりにやってます。花を育てるなんてことができるくらいには余裕がありますのでご心配なく。言わなくとも、あんたは根拠もなく俺が何不自由なく過ごしてるって思ってそうですけど。根拠がないっていうか、そう信じてそうです。俺はそんなに大層な人間じゃなかったってのに、あんたは馬鹿みたいに純粋に、俺を慕ってくれたから。


 だんだん手紙っぽくなくなってきたのでそろそろ締めようかと思います。

 あ、でもその前にひとつだけ。

 冥土の土産に花の種ってのはどうかと思います。あんたなりに考えてくれたんでしょうが、代わりに橋渡し賃入れ忘れたのは本気でどうかと思います。まあ、あんたらしいっちゃあんたらしいですけど。


 届けようのない手紙なんて不毛なもの、書くのは柄じゃないんですが、あんたの最後の望みでしたから、夢か何かででも読んでもらえたらいいですね。あんたならそれくらいの奇跡、起こしてくれそうだ。


 それじゃあお達者で。たくさん笑って、いろんな経験をして、いい人に恵まれて。大往生を期待してます。



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