三話
リオとロンは再び酒屋の前に来ていた。
「取り敢えず、ヤツが潜みそうな場所があるか手掛かりを探すぞ。」
「はい!」
リオは崩れた棚から高そうな酒を見つけた。
「イイ酒だなぁ、客もまたグレゴリなのかな。」
そう言いながらボトルの蓋を開けた。
「勤務中ですよ?ってか子どもでしょうがι」
ロンは「子どもは飴でも舐めてといてください。」と酒を取り上げた。
「堅いな〜。で、どう思う?」
「客にグレゴリが混じってるかってことですか?その可能性も無きにしは在らず、ですけど今回の事件はニールが人体収集家で男性の遺体を切断し、女性はあの灰色の狐の仕業で間違ないでしょ。」
「ん〜……ハズレ、だな。」
リオは新たに橙色の包み紙に入った棒付 きの飴玉を舐め出した。
「え──?」
「もっとよく思い出せよ。そして、この現場を観察してみろ」
「ちょっ!どうゆうことですか!!?」
「……ったく。イイか?この店は外観から内装まで全てが安っぽく造られてる。もちろん、ココに置いてある酒もだ。それに対して、この高い酒だけが置いているのは異様だとは思わないか?そしてこの高い酒と同じ銘柄が何本かあるが、全部同じ名前のヤツがボトルキープしてやがる。」
ロンはその言葉で慌てて名前を確認した。
「本当だ……!“道化師”?」
「それが何らかの暗号か、名前なのかは分からんが調べてみる必要があるな。それに──」
リオはゆっくりと立ち上がり、このボトルに張られてあるシールを指差し、
「この日付に見覚えは?」
「──!!!?」
「そう、この銘柄の酒の日付が示すのは、この事件で殺害された日付だ。」
「だから、6本あるんですか。」
ロンは酒の瓶を見ていると「ボトルキープはされているが、呑まれていない?」と呟くと
「あぁ、6本ある内の4本──は、な。」
「まさか!!!?」
「その通り。女性が殺害された時もボトルキープはしているが、決して口にはしていない。だが、男性が殺害された時には呑まれている。切断した手足を肴に呑んだ……って考えるのが妥当だろうな。」
「それじゃ……この道化師ってヤツが人体収集家!!?」
「そこまでは断定するのはまだ早いが、恐らくそうだろうな。しかし、用意周到なヤツだな。」
「え?」
「ご丁寧に今日の日付のボトルもある ぜ」
リオはロンにボトルを投げた。
「今日殺す予定……ってことですか?」
「あぁ。しかも3本も出てきやがった。あのモヒカン狐ヤローも追わなきゃ行けねぇが、その道化師ってのも追わなきゃだな。」
リオは立ち上がり、「署長に報告しに行くか。」
「はい。」
「この今日殺害予定とされる3本も合わせて、9本!持ち帰るぞ。」
‡
「……なるほどねぇ、今日は大胆に3人殺す……ってことね」
署長は顎に手を当てて悩んでいた。
「でもさすがね〜もうココまで分かっちゃって♪チューしてあげるぅぅ」
「いや、いらねぇ。」
リオはそれを流し、「デカ乳は?」
「今は安静にしてるわ。ロンみたいにお見舞いに行けばイイのに」
署長はリオの額に指を当て
「この、照れ屋さん♪」
「本当に勘弁してくれ……ι」
「大丈夫?」
「うん。」
ロンは眼鏡を掛け直し、パイプ椅子に座った。
「進展、したの?」
「まぁ、軽く……かな。でもさすが本部から来ただけはあるよ。観察力や推理力もそうだけど、あの身体能力は凄まじいよ。」
「私も見てたわ。手から突風を出して──何なのかしら?」
「ところで、昨日のエリザちゃんの王子様は何処にいるんだろうね?」
「あ、そうよ!!!私の王子様♪」
その言葉に反応してやっと普段のエリザの声のトーンに戻った。
「あれは一体何だったのかな?──もしかして、照れ屋さん?♪」
エリザは思い出しながらニヤけていた。
「そ、そうだねι」
‡
『今夜ダ……コノ街ヲ潰ス!!! 』
ニールは裏路地で灰色の狐達に細く指示を送っていた。
『マダダメヨ?』
急に声がし、ニールは振り向いた。しかし、そこに姿はなかった。
『アンタカ。マタ声ノミカ。ナゼダメナンダ?』
『アナタ、ニグレヲ喰ウツモリデショ?』
『勿論ダ。アノ女ノ太モモノ味ガ忘レラレナイ。』
ニールは思い出したように涎を垂らした。
『──ソレニ、アノクソガキヲ殺ス!!!』
『アノ女ハイイケド、アレハ私ノエモノヨ……♪男ハ私ガ殺ス契約ダッタト思ウケド?』
『見テイタノカ……ワカッタヨ。今夜……デ、イインダヨナ?』
『エエ、ヨロシクネェ♪』
その言葉を最後に声は消えた。
『気色悪イヤローダ。ダガ、アノクソガキモオレ様のエモノダ!!!』
ニールは再び大きな口を開け、涎を垂らした。
‡
「で、どうするんですか?」
ロンはのけ反りながら飴を舐めているリオに向かって声を掛けた。
「何が?」
「何がじゃないでしょ!今夜にも3人の犠牲者が増えるんですよ!」
「そうだなぁ……。」
リオは言葉を詰まらせていた。
「何も策はないんですか!!?」
「腹黒メガネは何かあんのか?」
「そ……それは……」
「仕方ねぇ、か。」
リオは立ち上がり、ロンに「付いて来い」と命令した。
辺りには誰もいない廃墟に連れられてきた。
「ココは?」
「グレゴリ専用のネットワークさ。」
「はぁ……!!?」
「グレゴリでもな、人を襲わずに静かに暮らしたいヤツもいるんだよ。そうゆうヤツが密かにネットワークを作って、情報を共有し合ってるんだ。」
「こんな所……初めて知りましたよ!」
「だろうな。多分ニグレでも上層部の一部しか知らない極秘、ってヤツだからな」
リオは廃墟の扉を3回ノックした。すると扉の奥から『狂わすモノは?』と聞こえた。その声にリオは「自分自身。」と言い、再び3回ノックした。
「合言葉……?」
「あぁ。念には念を、な」
奥からガチャリと機械音が聞こえ、重たい扉が軋みをあげながら開いた。
『久しぶりじゃの。』
開いた扉から老人が現われた。
『おや?珍しいの、人間を連れてくるとは。』
「ニグレの一員だ。名前は腹黒メガネ」
「ロンです!!!」
ロンは慌てて訂正した。そして辺りを見渡した。
『驚いておるようじゃな』
「えぇ。まさかこんな場所が あるなんて」
『ワシらはな、ただ普通に暮らしたいだけなんじゃよ──でも、人間にとっては危害を加えないと言っても前例がないから、信用はしてもらえん。じゃから、こうゆう所を作るしかなかったんじゃ。』
「世間話はイイよ。コイツ知ってるか?」
リオはニールの写真を見せた。
『最近暴れておるらしいの。』
「知ってるんですか?」
『付いてきなさい。』
老人は奥へと招いた。
奥へ進むにつれ、数々の人間に出会った。いや、正しくは人間の姿をしたグレゴリであったが。ロンはその姿を見て、こんなにもいるのかと驚いた。
「どうした?驚いたか?」
リオは見透かしたようにロンを一瞥した。
「えぇ……グレゴリには理性はない怪物と思っていました。ただ快楽のために人を殺し、欲求を満たすものだと……」
『一部はそうじゃよ。でも、大半はこうやって身を潜め、人間のように暮らしておるよ。それに理性だってちゃんとあるんじゃよ。のぉ、リオ?』
「チッ……あぁ、そうだよ。」
老人はリオに話題を振ったが面倒臭そうに流した。
「そうだったんですか……」
『どれ、取り敢えず座って話そうか。』
気が付くと会議室のような部屋につき、中へ通された。
『この男、についてじゃったな。』
「あぁ。」
リオは座るやいなや、机に足を乗せた。
『恐らくこの街の裏路地の主と言ったところかの。決して表舞台には出ずに、人間を襲っていた。しかし、この1ヶ月前から、急に表舞台に上がって来おった。多分誰かと手を組んだみたいじゃの。』
「それが道化師、か。」
『道化師と言うのか?こちらの情報にも当てはまらんかったわい。』
「アンタのネットワークにもないとは、意外だな。ほら、その道化師に繋がりそうな手掛かりだ。」
リオはボトルを1本くすねていたらしく、老人に渡した。
「それ証拠品ですよ!いつ持って来たんですか!!?」
「堅ぇこと言うなよ。1本でヤツが分かるなら安いもんだ。」
「全く……」とロンは首を横に振った。
『後で調べて連絡しよう。』
老人はボトルを受け取り、横に置いた。
「で、ニールの潜伏先は?」
『裏路地の廃れた病院、じゃろう。』
「よし、行くぞ!」
リオは足を降ろし、勢い良く飛び上がった。
「はい!」
ロンもまた、立ち上がった。
『リオ、これを。』
ロンが先に扉を出たのを確認した後にリオを呼び止めた。
「悪いな。」
リオは老人からある物を受け取った 。
『あまり多様するではないぞ?引き返せなくなる。』
「元々、引き返す気はねぇよ。」
それをポケットに入れ、ロンの後を追った。




