一話
「しまった……ッ!!」
イタリアのような西洋風の街並みの裏路地で赤い髪をツインテールにまとめた女性は大量に群がる灰色の狐に囲まれていた。
『コノ事件ニ関ワルナ……ニンゲン、ヨ……。』
1匹の狐が地鳴りするような低音な声で、彼女に向かって吠えかかった。
そして『殺レ。』と吠えた瞬間、他の狐達は一斉に飛び掛かった。
「いやっ!!!」
彼女は少しでも生き延びようと慌てて頭を隠して、身を丸くした。
「……えっ?」
飛びかかってきたはずなのに何の痛みも感じず、不思議に思い、閉じた目をそっと開いた。
「大丈夫か?」
その声の持ち主は彼女を抱きかかえ、その場にいた狐達は既に横たわっていた。
「貴方は……?」
彼女の目の前にいたのは少し白みがかった長い髪に、口には何かを咥えている青年がいた。
「さぁ?取り敢えず、逃げるぞ」
その青年は彼女を抱き抱えたまま一気に飛び上がり、民家の屋根へと着地した。
「(何なの……この人?──それにしても、この人からスゴく甘い香りがする)」
「掴まってろよ。」
そう言い、屋根の上を駆け出し、狐の群れを引き離した。
「あ、ありがとう」
その言葉で彼女をゆっくりと降ろし、立たせた。
「いや、イイよ。明日から世話になると思うしな。」
「──?」
「それじゃ、な。」
青年は再び屋根の上へ飛び乗り、一瞬にして姿を消した。
「もしかして……明日から転属されてくるっていう人?きっと私の王子様だわ///」
彼女は両頬を赤く染めながら身体をよじらせていた。
‡
遥か昔、この世界には人間の他に、別の生物が存在していた。そして世の中の約8割はその別の生物による事件であった。
そこで警察はその別の生物、通称“グレゴリ”と呼ばれる怪物から人々を守るために新たな部署を設立した。その部署の名は“第二棟グレゴリに関する研究と対策、及び排除専門課”、略してニグレ。ニグレの躍進は計り知れず、次々にグレゴリを排除し、グレゴリに関する事件は鎮静化の一途を辿った。
そして現在、グレゴリに関する事件は約1割にまで激減していった。それに伴い、人員も削減し、今では本部以外の支部は少数体制の部署になっていた。
そして本日、本部から新たにこの支部に1人補充されるらしい。
「はぁ〜♪またあの王子様に出会えるのね///」
昨日襲われた赤い髪をツインテールにまとめている女性、エリザが出勤してきた。
「エリザちゃん、朝から鼻血と涎出てるよ……ι」
先に出勤していた眼鏡の男性、ロンが呆れながら指摘した。
「おっといけない♪」
慌てて袖で拭き、もう一度ニヤけた。
「朝から気持ち悪いよ……ι」
ロン はズレた眼鏡を掛け直した。
「いやぁ、ロン君!朝から暗いよ!」
エリザは激しくロンの肩を叩き続けた。
「痛いよ!!そんなんだから彼氏もできないんだよ」
「むっ!私の王子様は現われるもん♪ってか今日再び現われるもん///」
「はぁ?ι」
「昨日私助けられたの。そして明日また会おうって///今日転属されてくるお方が私の王子様だもん♪」
「へぇ〜……あ、それよりその昨日の件で署長からお呼び出しくらってますよ?」
「え……?ι」
「相変わらず単独でやらかしたみたいですね。死んでもしりませんよ?」
ロンは「ふ〜」と溜め息を漏らしながら、エリザに指差した。
「奴等は最近また活性化してきてます。まるで統率者が現われたように……」
「分かってるわよ 〜!朝から小姑みたいだよ、ロン君」
「全く……ι」
ロンは呆れながら「さぁ、怒られに行ってください。」と署長の部屋にエリザを押し込んだ。
「えっ!ちょ……ι」
エリザベス・サンクスター
それが彼女の名前である。親しい者からはエリザと呼ばれている。彼女の特徴はやはりその赤い髪である。ツインテールのせいか、少し幼い顔つきではあるがスタイルもよく、出るところは出ている。また、ニグレ専用の黒のスーツを身に纏っているが、彼女はミニスカートを愛用しており、いつも太もものガーターベルトに対グレゴリ用の銃とナイフを仕込んである。
そしてそんなエリザを押し込んだ青年はロン・チャオ
彼は眼鏡と背中まで伸ばし、キレイな三つ編みの黒髪が特徴的である。ニグレの制服は動きにくいと拒み、彼の故郷と同じ民族衣装を白ベースで造られた服を纏っていた。
「署長〜!連れてきましたよ。」
「あらぁ♪ありがとッ!いつもカワイイわよ、ロンんんん♪」
奥に座っている筋肉質で顎鬚が物凄く青い男性がロンに優しく接した。
「ちょっと来なさい!!エリザ!!!」
しかしエリザには口調や顔付きも別人で恐ろしい顔をしていた。
「ひぇ〜……ι」
ニグレの署長、カッペリーニ・ギルダー
彼はいわゆるソッチ系である。角刈りでグラサンをかけているが、イケメンに弱く、女性を激しく嫌っている。
「またアンタ、勝手に行動したんだって?」
「すいません、署長ι」
「まぁ生きてたからイイものの……今回の事件は恐ろしく強いグレゴリか、もしくは」
「──集団組織、だな。」
エリザとロンの後ろから声が聞こえた。
「あらぁ♪さすがね」
「この資料を見る限り、単独とは思えんな。犯行に一貫性がない。2種類の殺し方からして、少なくとも人間を殺してるのは2体のグレゴリが関与していると考えるのが合理的だな。」
2人はその声に振り向いた。
そこには足を机に乗せ、大きなペロペロキャンディを咥えている、どう見ても幼い少年がいた。少年は黒色のストレートな髪で、眉間が隠れるくらいの長さの前髪の束が垂れており、その間からは鋭い眼光が特徴的だった。
「あぁ、紹介するわね。本日付けで本部からこの支部に配属されたリオール・スコッティよ。」
「リオでイイ。ヨロシクな」
リオはまずロンを一瞥し、そしてエリザを一瞥した。
「わ……私の王子様……が……ι」
エリザはリオを見た瞬間に愕然とし、床に手を突いて泣いた。
「よぉ、デカ乳、また会ったな。」
リオは飴を噛み、彼女に手を伸ばした。
「アンタとは初対面よ!!!ってかデカ乳って何よ!変な名前で呼ばないで」
エリザはリオの手を払い、自ら立ち上がった。
「いやいや。実に興味深いほどデカいぞ?」
リオは不意をつき、エリザの胸を揉んだ。
「───ッ///こッのエロガキがぁ!!!」
顔を真っ赤にしながらリオに太ももに隠している銃を向けた。
その光景に「やめないか!」とロンはエリザを止めた。
「だって、コイツッ〜!///」
「署長、本当にこんな少年が本部から配属されたんですか?」
「そうよ。詳しくは知らないけど物凄く強くて賢くて、まさにパーフェクトな存在、らしいわ♪そして私クラスになるとよく分かるわ。」
「「──え?」」
「その幼い顔付きに大きなペロペロキャンディ、そしてその幼さには全く似合わない鋭い眼光……まさにパーフェクトだわぁ♪」
署長は顔を赤らめた。
「「……ι」」
2人は白い目で署長を眺めていた。
「よぉ、陰気メガネ!」
「なっ!ボクのことか!?」
「グダグダ言わねぇで、さっさと仕事しろ。」
「な、何だと!!?」
「言っとくが役職はオレの方が上だ。上司命令──取り敢えず、この事件を整理するから知ってる情報を説明してみろ?」
リオはドンッと再び足を机に乗せ、頭の後ろで手を組んだ。
「くそぉ〜!」
「ロン君、落ち着いて!」
今度はエリザがロンをなだめた。
「取り敢えず、新任早々の上司様に、ボクが!クソガキ!でも分かるように説明致します!!」
眼鏡の光で目は見えないが、明らかに怒っており、刺々しい言い方でリオを挑発した。
「あぁ、頼む。」
大人な対応でリオはそれを流した。
「くっ……事の発端は1ヶ月前、ある女性の遺体が発見されたことから始まります。彼女は左の脇腹、右の肩にそれぞれ獣のような牙で噛まれていました。そして致命傷になった喉元にも同じような傷跡がありました。」
ロンはパソコンでその遺体の写真をリオに見せた。
「そしてその5日後、再び同じような傷跡の女性の遺体が発見されました。そこからニグレでは連続犯の可能性を視野に入れ、捜査してきました。捜査の甲斐もなく、その3日後、今度はカップルと思われる男女が殺されていました。ここで注目すべきは、このカップルの女性は2件と同じような殺され方に対し、男性の遺体はライフルのような射出物で心臓を貫かれ、死後に左腕、右足を切断された形跡がありました。──それがこちら」
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