最後の日に
「拓哉くん、いつもありがとね。由佳理が話せるの今日最後だから
いろいろ話してね」
僕の親友の母親が俺に言う
目元には涙の跡が浮かんでいた。
「はい、分かってます。明日にはもう...」
言いかけて止めたが由佳理は病気が原因で明日には話せなくなる
それは『死』を意味しているが母親の前でその言葉を出せなかった
「中に入って。きっと二人で話す方がいいでしょ?」
僕はだまってうなずいた。母親には悪いが友達同士の話しは正直聞かれたくない
『――ガラガラ』
扉を開くと由佳理は病院の外を見ていた
それは何故か僕をとにかく悲しくさせた
「由佳理?」
僕はたまらず呼びかけた
由佳理はそれに気づいて笑顔をこっちに向ける
「拓哉、どうしたの?」
無理やり笑顔を造って余裕そうに返す
「明日には話せなくなるね~拓哉は寂しいん?」
それは造りものの笑いでしかない。それは誰から見ても明らかで
「由佳理こそ、怖いんだろ?」
僕には何も出来ないのが悔しくて、
ただ相手のテンションに合わせることしか出来なくて
「全然だよ~私は拓哉と違って強いもん!」
でも、やっぱり最後くらいは聞きたかった
「由佳理、強いな」
由佳理の本音を、弱みを
「だろ!?」
そう思ってたら
「でも、最後くらいは本音を出してもいいんじゃないか?」
口から出ていた。
僕に気をつかっているのに、それを無視して言ってしまった
「拓哉?」
僕を見る由佳理は驚いたような、そして悲しそうな
それを見ると救いたくなって
「全部聞くから、全部受け入れるから話してよ」
覚悟を決めた。全部を受け入れようと
「全部、聞いてくれるの?」
怯えるように僕に尋ねる
僕はうなずいた。
「ありがとう、その言葉信じるよ」
涙ながらに、そして僕が見たかった笑顔で答える
「じゃあ、話すね、私は明日にはもういなくなるよね。
そうなると、死んだ後私はみんなの記憶の隅においやられる
まるでいなかった様に、ベタだけどそんな事ばかり考えてる」
僕は相槌を打ちながら話しを聞く
「そんなことを考えてるうちに拓哉の事が浮かんできて親友にも忘れられるのかな~
拓哉も私の事なんか忘れてさ、そう考えると嫌われたくないって思って無理してでも明るく接してたんだよ」
最後は少し投げやり気味に話した由佳理はスッキリしたように一息つく
そして――
「拓哉、私の事忘れない?」
呟くように言う言葉、
そして初めて見た涙はその涙は僕に向けられたもので
僕はそれが移ったように泣いて
「忘れる訳ないだろ」
涙を拭いながら、由佳理の心配を一つでもなくなる事を願って
たった一言の当たり障りのない返答をした
「そっ、か~拓哉が忘れる訳ないの、に、勝手に自分を押さえ、て」
嗚咽を洩らしながら話しを続ける由佳理の肩に手を乗せ
でも言いたいのはこれじゃない
来る前に決めてきた、大切な事
「由佳理、ずっと言いたい事があったんだ」
親友と言うカテゴリーにこだわりすぎて言えなかった言葉
「――由佳理が好きだ」
ずっと言いたかった言葉、でも怖くて先伸ばして言えなかった一言
「拓哉?私、今日までしか生きられないんだよ?それでもいいの?」
驚いた顔をして僕に言う由佳理に
「僕が言わないのが悪かったんだ」
言えなかった事を謝る意味も込めてそう言った
そして――
「遅いよ、その告白、断る訳ないじゃん」
軽くおどけながら告白を了承してくれた
「私も人の事言えないけどね...」
少し悲しげな顔をして言う由佳理に
「僕だって今さらになってから聞くなんて遅いんだから」
慰めるように、安心させるように言った
もちろん由佳理が安心するかはわからないが
「由佳理、あと半日あるし今できることをしよう」
時間は限られてしまっている
だったら、いい思い出を造っておきたい
「拓哉、じゃあ、お願いしてもいいかな?」
由佳理は上目遣いで僕を見る
その動作についドキッとしながらも平然を装い
「どうした?今出来ることだよ?」
頷きつつ僕は頷いて答えた
「ハァ~」
由佳理は長く息を吐いて体を僕に向け
僕の手を取って
「――最後まで一緒に居てください」
自分の練習の為に今自分に出来る限り重い話しを造ってみました
もう一つの作品とはテンションがあまりに違うので正直苦労しました
由佳理はその後どうなるかは自分の感を頼って欲しいと思います