03、一年の場合
「買い忘れはない?」
「大丈夫!」
「じゃあ学校まで戻りますかー!」
佐奈の声を聞きながら、パーティーの買い出しを終えて冷房の効いたコンビニを出る。
照りつける日差しと蒸し暑い風に気分が急降下。
急いで学校まで戻らないと溶けてしまう。
「よし、学校まで競争だ!」
「やだよ。なんでこんな暑い中走らなきゃなんないの。」
「暑いから早く戻るために走るんじゃん!」
わかってないなー、そう笑ってやったら翔に呆れた顔をされた。意味わからん。
「走るまでとはいかなくても、ちょっと急いだほうがいいかも。」
時計を見ると、佐奈の言うとおりパーティー開始予定時刻まであと二十分しかない。
ここから学校までは歩いて十分ぐらいだけど、準備のことを考えると少し急いだほうがいいだろう。
三人とも少し速度を上げて、くだらない話を続行する。
いつもならその日の授業のこととか、部活で何をするか予想したりするんだけど。
今日はもっぱら先輩たちの話、である。
やっぱり引退は寂しくて、パーティーは楽しみだけどやりたくない。
きっと桃乃先輩も陽太先輩も、佐奈も翔もおんなじ気持ち。
かおる先輩のゆったりした喋り方とか、よく頭を撫でてくれる八木先輩の手のあったかさとか。
そういうのが全部なくなるなんてまだ信じられなくて、でもそれはもうすぐで。
「・・・やっぱり学校まで競争する?」
「・・・そうだね、美桜がのろのろ歩くから間に合わないかも。」
「は!?あたし!?ちょ、さっきは反対したくせに!」
「じゃあいくよ、よーいどん!」
三人並んで走り出す。
―――なんだかいろいろ考えちゃうのは、夏の暑さのせいにしておこう。
* * *
「やった、一番!」
「あー、やっぱ一番は、美桜か・・・!」
「久々にこんな走ったわ・・・。」
もう二度とやんね、そう苦い顔をした翔の背中をどついてやる。
「娯研なんだからこういうのも楽しまなきゃだめだろ!」
「それとこれとは違う。」
「でも楽しかったね!」
「今度鬼ごっこでもやるー?」
「娯研のみんなで?」
「もちろん!」
「涼しくなれば。」
「なんか翔そういうのばっかだな!」
「それより陽太先輩たちまってんだろ、急ごうぜ。」
「翔が佐奈みたいなこと言ってる・・・!」
「どうしたの翔・・・!」
「うっせ!」
ぐだぐだ、だらだら。まさにそんな感じの会話だけど、部室へ向かう足は心なしか速い。
今日はどんな遊びをするんだろうか。
遊びを考えたのは二年生だから私たちはまだ知らない。
――――――遊びはまだ内緒。でも、絶対たのしいから。
そう教えてくれたときのふたりのすごい楽しそうな笑顔を思い出した。