01 三年の場合
七月。ほとんどの部活で三年生が引退し、二年生が中心になる季節。
そして今日がとうとう、私たちが引退する日、である。
「かおる、そろそろ行こうぜー。」
「八木・・・。」
「どした?そんなしょげて。」
「引退したくない・・・。」
「無理言うなって。うちはのばしてのばして今日なんだから。」
「会長権限でどうにかする。」
「副会長権限で阻止。」
「やぎぃぃぃ!」
「はいはい。早く行かないと楽しい活動の時間が短くなっちゃうよー。」
「うぅぅぅ・・・。今行く・・・。」
まだ残って喋ってた友達に一言告げて席を立つと、なぜかみんなから苦笑を返された。なぜ。
八木と並んで教室を出ると、夏特有のむわっとした空気まとわりついてうっとしい。
やけにしん、とした廊下を特に会話もなく二人で歩く。
野球部がボールを打つ音とか、吹奏楽部が練習している音が余計に響いて、なんか。
「ね、八木。なんだか懐かしいね。」
一瞬怪訝な顔をしたけど、すぐになんのことだかわかったらしい。すぐに納得した顔になった。
「あー、ももちゃんと陽太が入る前の部室か。たしかにこんなんだった。」
「ぼけーってしてー、たまに八木と喋ってー、お菓子食べて、おわり。」
「で、一週間に一回ぐらいちゃんとした活動してな。ほんとみんなはいってくれてよかったよ。」
「あのときはあのときで楽しかったけどねー。」
「まあね。でも今のがずっといいでしょ?」
「うん。部員は少ないけど、いっぱい騒いで楽しかったなあ。」
「次期会長はももちゃんでいいんだよね?」
「そー。で、陽太が副会長。」
「あいらならもっと盛り上げてくれるでしょ。一年も。」
「佐奈ちゃん美桜ちゃん翔くんねー。あー、もっとみんなと遊びたかったー。」
「じゃあ今日は後悔しないようにおもいっきり遊びますか!」
一年の頃とまったく変わらないいたずらっ子の笑みで、八木は我らが古今東西娯楽研究同好会―――通称『娯研』―――の、部室のドアを開けた。