二人の女王様-02
すごく聞き返したい。
でも、聞き返したら僕が「アリス」じゃないって言ってるようなもんだろうから、分かった振りして黙って置く。
白ウサギもそれくらい言っておいてくれればいいのに!
もしかしてここでは常識すぎる常識なんだろうか?
「ではこちらでお待ちください」
兵隊さんは部屋に入らず、廊下から扉を開けた体勢で僕を待っている。
色々気になってどうしようもなかったが、その状態のまま放置する訳にもいかないので案内された部屋に大人しく入った。
まぁ中は部屋っていうよりは謁見の間って感じで、金糸で縁取られたふっかふかで重厚な赤絨毯と、その先にあるでっかくて黒くて革張りっぽい豪奢な飾りの付いたソファ…何人掛けだろうか、遠目でもファミリー用サイズっぽかった。
中でぽかんとしながら周囲を見渡していると、僕の通って来た扉が「ドゴゴーン…」なんていう重々しい音を立てて閉まってビビる。
だって、まるで閉じ込められたようじゃないか。
開くとは思わなかったけど試しに扉を押して見たのだが、何かに引っ掛かっている訳ではないのにぴくりとも動かなかった。
すっごい重い扉なのだろうか。
とりあえずどうしようもないのでこの謁見の間(仮)を見物することにした。
…のだが。
「特に見るものがなかった」
真っ白な壁には窓も無く、絵画的なものも掛かっていない。
例のソファ付近はステージ脇のような造りらしく、カーテンで目隠しされたこれまたゴツい扉があった。
流石にその扉に手を掛ける勇気はなかったので覗き見るに留まったのだけど、そうすると何も見るものがなくなってしまったのだ。
畳の目を数える容量で絨毯の毛でも数えてみようか。
みっちりと密度の高いこの絨毯ではそれも難しそうだけど。
「何か面白い物があって?」
「いえ、何も面白い物がなかったのでどう時間を潰そうかと…」
「あら、それは申し訳ない事をしてしまったわね。ごめんなさい」
「いえいえ、そんな」
ん?
僕は誰と会話をしている?
しゃがんで絨毯の縁を覗き込んでいた顔を恐る恐る持ち上げる。
するとそこには、身体のライン丸分かりの真っ赤なチャイナドレスっぽい格好をした、中華風美人の女性がいた。
どの辺が中華風かって?
なんか全体的に薄味っぽいっていうのかな、まぶたは一重だし目鼻立ちがくっきりしてる訳ではないのだけど、すっきりとまとまって安心感のある美人だからなんとなくそう思ったってだけだ。
和風って言ってもいいんだけど、ドレスがチャイナっぽいから中華風。
そのドレスもところどころ黒レースで覆われていて素肌が透けて、正直エロい。
スレンダー気味だけど程良い大きさの胸は、ドレスの上からでも形が良いと分かる。
作り的に的に背中がぱかっと空いてるようだけど、あの手のドレスって下着付けれないって聞いたことがあるから、つまりあの人はノーブラで…って何を考えてるんだ僕は。
突然の美女との遭遇は、思春期真っ只中には少々刺激が強すぎたようだ。
気持ちを切り替える為にも僕はぱっと立ち上がり、正面から美女に対峙した。
「す、すいません! いらしてるのに気付かなくて…」
そう、気付かなかったのだ。
絨毯に対してそんなに熱中していた訳ではないと思うのに、気付けばあの女性はいた。
扉の開閉する音がすれば気付いただろうに、彼女の背後にある扉は音を立てずに開閉したと言うのだろうか。
「大丈夫よ、アリスがそんな事を気にする必要なんてないんだから…、それより」
真っ赤なピンヒールで危なげなく絨毯を進み、僕に近付いてくる美女。
この人はきっと女王様の一人だ、僕はそう確信する。
だってこんなにピンヒールが似合う。
え? 女王様の認識間違ってる?
うるせぇ知ってるよ。
→